第三話
「オラ! やる気ないなら辞めちまえ!!」
「ひっぐ……」
俺はセバスチャンに連れられてセレナさんと共にルシたんが訓練をしていると言う庭の片隅の訓練場へと赴いた。
訓練場の真ん中では騎士風の男と銀髪の小さな子供が木の剣を持って打ち合っている。
「(ルシたん♡♡♡)」
あぁ……やっぱり、子供の姿だけどわかります。わかりますとも、あの銀髪と紫の瞳の美少年は間違いなくルシたんだ。
はわわ〜! おてて小さい、ほっぺが丸い、控えめに言って超かわいい……!! 天使かと思った。お持ち帰りしたい!
「誰が休んでいいなんて言った!!!!」
俺が想像の100倍は可愛いショタルシたんにきゅんきゅんしていると、突然指南役と思われる男が地べたに手をつく天使の顔を容赦なく殴りつけた!
「!!」
乾いた音とともにちいさなルシたんは吹っ飛ばされて、隣にいるセレナさんは「ひっ」と悲鳴をあげる。
セレナさんはルシたんを産んでから直ぐに引き離されて、ほとんど息子と触れ合えずにいたみたいだけどちゃんと母親としての情はあるようだ。
どこかのクソ親父とは天と地の差だな。
いや、いまは気を向けるのはセレナさんじゃない!
「……」
「ああ公爵閣下、見学ですか? ちゃんとご指示通り厳しく教育してますよ?」
無言で歩み寄る俺に気づいた男が汚い笑みでニヤニヤと笑った。地ベタに膝をついたままのルシフェルの髪を掴んでむりやり立ち上がらせる。
「……うぅ……いたい」
小さなルシたんが、震えながら辛そうな声を上げるのが聞こえた瞬間、俺の中の何かがぷちんと切れた。
気がついたら俺は拳を握り締め、ヘラヘラと笑う男の顔を思い切りぶん殴っている。
「がはっ!!」
俺にぶっ飛ばされる男。
セレナさんは悲鳴をあげて、それまで無表情のセバスチャンも目を見開いている。
「教育と虐待の区別もつかぬ者は公爵家には不要だ」
「……何を」
「目の黒いうちに出ていけ!!!!」
カッと俺は睨みつける。なんだか強者のオーラがでている気がするぜ。美人の睨んだ顔って最高に怖いからな、ヴィクトルは内面はドクズだけど若い頃の外見だけならかなりの美形だ。さぞかしど迫力なことだろう。
悲劇の美青年ルシフェルの父親なだけはある。
「……ひ、ひぃ……!」
俺のオーラを食らった指南役の男が尻尾を巻いて逃げていった。ははっ、ざまぁみろ。
転生前は喧嘩なんてしたことなかったけど、どうやらヴィクトル自身も、公爵なだけあってそこそこ戦闘力もあるみたいだな。
もしかして魔法とかも使えるんだろうか?
「ルシフェル……!」
ひとり悦に浸っている隣でセレナさんが駆け出した。向かう先はもちろんボロボロの姿の愛息子ルシフェルだ。
「ママ……!」
「嗚呼ルシフェル、もう大丈夫よ……」
「うわあああん!」
セレナさんに抱きしめられて、小さいルシたんは泣き出した。
そりゃそうだ、あんな大きな男に毎日のように虐待のような訓練を受けていたんだ。さぞかし怖かっただろう。
「旦那様……お坊ちゃまの剣術の教育係は王家の縁者の者ですが、殴ってしまってよろしかったのでしょうか?」
母子の感動のふれあいを涙ぐみながら眺めている俺の背中に、冷静なセバスチャンの声が届く。
えっ? マジ? それって結構やばかったりする?
王家ってことは、国で一番偉い血族ってわけだ。でも王様をぶん殴ったわけでもないし、まぁいいか。
原作ヴィクトルも結構悪どくて偉そうだったしなんとかなるでしょ! うん、多分。




