6 オルテの力
拘束はされていないようだが、剣を首元に突き付けられているルシスは困った表情でオルテたちに助けを求めていた。
「なんでお前がここに居るんだよ……」
「あの後のんびりと買い物をしていたら、ね?」
ルシスは悪びれる事無く言う。
「動くなよ。外では好き勝手やってくれたらしいな。知り合いなら好都合だ。馬鹿な事をすればこいつの命はないと思え」
ジョージがオルテたちを睨みながら、さらに剣をルシスの首筋へと近づけた。
そして爆弾から少し離れた場所では、他の人質たちが数人に分けられ魔法の結界に閉じ込められている。
その中にはフロンの姿もあった。
「おー、あの時のフロンだったか。お前も逃げそびれたのか?」
「オルテ先生にメナさん! どうしてこんな所にいるんですか!」
「まぁ、ちょっとした野暮用って所だよ」
フロンを見てジョースは忌々し気に口を開く。
「こいつらは全く余計な事をしてくれたものだ。本来ならもっと人質がいたはずなのに」
「なんだ? なんかしたのか?」
「ただ客を逃がしただけっすよ。店員として当たり前の行為です」
「お客様は神様ってやつか」
「違います。我が商会の信条は『お客様も店員様もいない。お互いが敬意を払う事』っすからね」
「へぇ、悪くない考えだ」
フロンはにっと笑顔を作った。
「おかげでこんな少ない人質しかいねぇ。ま、こっちには爆弾があるし迂闊に手は出せないだろがな」
「外の騒動を知ってるなら、なぜそれを起動しない?」
「あ? 決まってるだろう。起動して爆破モードに入ればみんなお陀仏だ。慌てる必要なんてないってわけさ」
ジョージは言うと台座に置かれている爆弾を指で軽く突く。
「お、おいあんたそいつを刺激するな! 爆発したどうしてくれるんだ! 俺はまだ死にたくねぇ!!」
「わ、私もよ! あなたも助けに来たのなら変にその男を刺激しないで!」
「そうだそうだ! 助けてにきたんならさっさと俺たちを助けてくれよ!!」
結界の中で逃げ遅れた客の数人がオルテたちに向かって叫ぶ。
その光景にオルテが溜息を吐いた時、ジョージに捕まっているルシスが口を開いた。
「オルテ先生。私も一応まだ死にたくはなくてね。助けるなら早くしてもほしいかも? このおじさんの加齢臭で先に死にそうよ」
「なっ! このクソ女が!!」
ジョージが顔を真っ赤にしてルシスを突き飛ばした。
突き飛ばされたルシスの身体が爆弾の台座に当たり、爆弾が落ちそうになるが、それを咄嗟にルスシが受けとめる。
「ちょ、ちょっとあぶないじゃないの!」
「はっ! 何を慌てている。その爆弾は床に落ちた程度で爆発なんてするか」
ジョージは爆弾をルシスから強引に奪うと台座に置く。
「いいだろう。そろそろ私が本気だという事を教えてやろう」
そして爆弾に手をかざしたジョージが何かを呟くと、爆弾が光り出した。
「これで起動した。あとは爆破モードになれば、ここはドカン! だ」
「おいおいマジか。まさか本当に起動出来るなんてな……あんたなんでそんな事が出来るんだ? 帝国の技術者でも出来なかったんだぞ?」
「私は神に選ばれたのだよ! これはその神からの贈り物だ! よって私こそがフェイなどと言うガキよりも皇帝に相応しいのだ!!」
ジョージが言いながら高笑いをすると、その周辺の仲間たちも下卑た笑いを上げた。
その様子をオルテは真剣な表情で見つめている。
「なるほど。お前の背後には誰か居るってわけか。なら、お前だけで十分だな。メナ、あいつ以外は殺せ」
「ルシスはどうしますか?」
「俺と『代わる』さ」
と、オルテが言った瞬間、オルテの姿が一瞬で消える。
さっきまでオルテが居た場所にルシスが現れ、ルシスの居た場所にオルテが居た。
「あ、あら? これは一体?」
一瞬の事にルシスだけなく、メナを除いた全員が驚愕していた。
「人質は返してもらったぞ」
近くにいたジョージに顔を近づけて言う。
「な、何をした貴様! いやもういい! おいこいつを殺せ!!」
狼狽しながらもジョージが叫ぶと、近くにいた三人の男の剣が、素早くオルテの身体を貫いた。
「っ!」
「最初から見せしめにこうすれば良かったな!」
「……」
三つの剣に貫かれたオルテだが、剣が引き抜かられると血も傷もすぐに消える。
膝が折れる事も無く、そのまま無言で暫く立っていると、やがて小さく笑った。
「死ね」
オルテが小さく呟いた瞬間、剣を刺した男たち三人はオルテを刺した同じ場所から血しぶきを上げ、悲鳴と共にその場に崩れ落ちる。
コアトの復讐の力によって、した事をそのまま返された結果だった。
本来なら命令したジョージも許可した者として同罪だが、誰に力を使うかは任意で選ぶ事が出来る。
「……何が起こった?」
間近で見ていたジョージが茫然とした表情で呟く。
「俺も神に選ばれてるって事だ」
「お、お前まさかクーデターの時に居たという神宿りか!?」
「ああ、そうだ。今頃気付いたのか?」
「お前みたいな普通のおっさんに神が宿るなんて誰が思うか!」
「お前もおっさんだろうがよ」
オルテがやれやれといった感じに言うと、再びオルテの姿が一瞬で消え、メナとルシスの近くに現れる。
「ありがとう、オルテ先生! 貴方は命の恩人よ。私の旦那様候補にしてあげる」
ルシスは感謝の印と言わんばかりにオルテを抱き締めた。
そしてルシスの銀髪がオルテの鼻をくすぐった時、オルテは何かをルシスの耳元で囁く。
「……!」
するとルシスは慌ててオルテから逃げる様に手を離した。
「気の利かない女でごめんね? 次からは気を付けるわ」
「いや、嫌いな匂いじゃない」
オルテが軽く笑うと、それに答えるようにルシスも小さく笑う。
「それは良かった。今のがオルテ先生が使う短距離の空間転移……瞬間移動かしら?」
話題を変える様にルシスがオルテに聞いた。
「そうだ。俺は短距離の瞬間移動と、それを応用した自身と指定対象の位置交換が出来る」
「付け加えると、瞬間移動も位置交換も流石に制限がいろいろありますけどね。ドヤ顔がキモイですよ」
瞬間移動は知っている場所が基本であり、知らない場所へ無理に跳ぶと壁の中など悲惨な可能性がある。
位置交換は特殊過ぎたり、自身と大きさが極端な物は不可能だった。
「るせぇ。ちょっとくらいいいだろうが」
「さてと。では、対象を殲滅します。ギュルギュルしましょうか」
そう言ったメナの手には、六つの砲身があるガトリングガンが現れ、高速で回転を始めた。
やがて無数の小さな魔法弾の嵐が周辺の建造物を破壊しながら、ジョージと人質を綺麗に避けてテロリストたちを撃ち殺していく。
ジョージ以外が物言わぬ屍になると、煙を吐きながら砲身は回転を止め、ガトリングガンもその姿を光の粒子となって消えた。
「掃除完了ですね。あとは彼から細かい事を聞きましょう。一体誰に起動方法を教わったのか」
オルテは呆然と立ち尽くしているジョージに近寄った。
「く、来るな! 爆破モードにするぞ! ほ、本気だ!」
「皇帝になりたいってやつが、自殺する訳ないだろ。本当はどんな計画だったんだよ」
オルテに睨みながら言い寄られてもジョージは強気の姿勢を崩さなかったが、やがて観念したように口を開いた。
「爆弾を爆発させて人質もろとも殺せばフェイの評判はがた落ちだ。勿論、爆発前に私たちは逃げるがな」
「周辺を騎士団に囲まれているのにか?」
「そこはこれを使う」
ジョージはポケットから展示されている爆弾よりも一回りほどの小さな球状の機械を出した。
「威力は精々人一人くらいしか殺せない爆弾だが、バレさえしなければ下手に手を出せないだろう。これをチラつかせて帝都の外まで行くって話さ」
「ずっと疑問なんだが、そのレトツールや知識はどこからだ? まさか本当に神だとか言わねぇよな」
「少なくとも、私にこれの起動方法やくれた奴らは、神からの贈り物だとか言っていたな。さぁ、全部話した、私だけは助けてくれ!」
半泣きになりながらジョージが言うと、少し離れた場所に居るメナがオルテを呼ぶ。
「どうするんですか? フェイからは皆殺しだと言われてますが?」
「あいつは生かす」
「なぜ?」
「爆弾の起動方法の細かい事を聞けば、今後同じような時に役に立つかもしれない。そこから先は知らんがな」
「確かに、情報は多い方がいいですね。では、一旦これで終わりに……!」
と、メナが言いかけた時、ボンっと小さな爆発音が響いた。
慌てて音のした方、ジョージを見ると持っていた爆弾が爆発し、頭部と腹部の一部が爆発で吹き飛び死んでいた。
カチッ……。
そして小さな何かスイッチが入る音が聞こえると、台座に置かれている爆弾の上部に時間が表示された。
そこには『60』と表示され、徐々に音と共に数字が減っていきながら爆弾の光が増していく。
「……おいおいマジかよ。メナ! こいつを止められるか」
「恐らく私の権限なら可能かと」
オルテとメナが慌てて爆弾に近寄り、メナが爆弾に触れると魔法陣が出る。
両手で器用に魔法陣を操作していくが、
「……!! そんな、これは……ありえない」
「どうした?」
「壊れているのかも知れません。私では止められません」
「マジか?」
「マジです」
制限時間は30秒を切る。
それを見てオルテは深い溜息を吐いた。




