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女神の力を宿したおっさん。何度も死にながら人生を謳歌する。  作者: 灰色
1話 おっさんと女神と生きた兵器
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4 平和な買い物

 翌日の昼、朝方ルシスから連絡を受けとったオルテたちは、帝都の商業区にある待ち合わせ場所に来ていた。

 商業区には多くの店が立ち並び、様々な種族の観光客や地元民が買い物や食事を楽しんでいる。

 その一角にある大型の複合店にオルテ、メナ、ルシスの三人は来ていた。

 複数の商店が入る二階建ての大型店舗で一階が買い物、二階には主に休憩所や食堂が立ち並ぶ。


「さぁて、爆弾を見る前に軽く他も見回ってみるか。なんか良いもんないかねぇ」


 適当に散策していると、服飾店の前でルシスが足を止めてオルテに聞いた。


「オルテ先生はこういった正装はしないの?」


 貴族がパーティーなどで着る、綺麗な装飾がある服を指差す。


「ん? そういうかたっ苦しいのは苦手でなぁ。今みたいな動きやすいのが好きなんだよ」

「でも、公爵ならパーティーとか誘われない?」

「学園が忙しいと言って、いつも断ってますね。ぼけ~っとする事に忙しいみたいですよ」

「あらあら、これはとんだ公爵様ね」


 オルテが苦笑していると、女性店員が声を掛けてくる。


「いらっしゃいませ! あれ? オルテ先生じゃないっすか。両手に花って奴ですね!」


 赤髪のセミロングに、耳あたりから二本の角を生やした女性で、角の形から竜族である事が伺える。

 全体的に身体とは少し大きめのだぼっとした水色のシャツとスカートの服に、その上からはポケットの多い緑色のロングコートを着ていた。

 

「俺のこと知ってるのか?」

「フィオラ自由学園の生徒っすから。それで今日は恋人のお二人にプレゼントですか? あ、コアト様も入れれば三人でした」


 ぱっと明るい笑顔で女性はメナとルシスを交互に見た。


「この子は中々見る目がありますね」

「ホントね。商売上手とも言えるわ」

「いえいえまだまだっすよ。ミルトン商会には遠く及ばないですから」

「ミルトンって言うと、確かフリッツの事か。そういや、最近あいつとは会ってないなぁ」


 ミルトンという名前にオルテが反応する。

 帝都で反乱軍に居た時、武具やお金など協力していたのが、ドワーフ族のフリッツ・ミルトンだった。

 豪快で気さくなおじさんという感じで人当たりも良く、主にレトニアス製の武具や生活に必要な機械や魔道具を取り扱っている。

 大陸では知らない人はいないくらい有名な商会だった。


「あ、確かオルテ先生はクーデター時に会ってるんでしたか。フリッツさんは今も大陸中を移動して商売してる豪商ですからね。ホント凄いっすよ」


 尊敬からかフロンが目を輝かせて鼻息を荒くして言い、やがて小さな咳払いをしてオルテたちと向き直る。

 

「あ、自分フロン・ヴェルナって言います。このヴェルナ商会の会長をしてます。ここは出張店舗ですが、品揃えは良いですよ」


 丁寧にフロンは頭を下げて挨拶をした。


「あ、私の事はフロンって呼んで下さいっす。それで、今日はどのような物を御所望でしょう?」

「ヴェルナ商会と言えば、竜族の若い子が会長をしていると有名ですね。男爵の爵位持ちで。しかしこんな可愛い子とは思いませんでした」

「え? いやぁ照れます。でもメナさんたちの方が美人で羨ましいですよ。自分なんて、なぜか一部分しか成長しなくて」


 と、フロンは自分の胸に視線を落とした。

 オルテも視線を合わせる。


「別にでかくてもいいんじゃねぇか? ほら、そういうのが好きなのも……ってぇ!」


 オルテが最後まで言う前に、メナの手刀とルシスの平手がオルテの頭を激しく叩いた。


「アウトです。次はありませんよ」

「オルテ先生は、もう少しデリカシーを学んでね」


 にっこりと笑顔でメナとルシスが告げる。

 そんなやり取りを苦笑気味に見ていたフロンは、空気を変える様に咳払いを一つした。


「それで何かご入用ですか?」

「すまんな。なんとなく寄っただけなんだ」

「そうですか。じゃあ、次また何か気に入ったら買って下さい」

「もっと売り込みをしなくていいんですか?」

「欲しい人に欲しい物を。強引に売り込んで嫌われたら次が無いですからね。商売は信用第一っす」

「あら、分かってるじゃない。リピーターは大切よね」


 フロンが大きな胸を張って言う。

 その時な小さな木が折れる様な、パキっとした音がどこからか聞こえた。


「今、なんか聞こえなかったか?」

「私も何かこう、折れた様な音? が聞こえたような」

「でも、何も無いわよ?」


 オルテたちが周囲を見回すが、特に折れている様なものは無い。

 ただ目の前のフロンが自分の胸を押さえて顔を歪めていた。

 気付いたオルテが声をかける。


「フロン、どうかしたのか?」

「……え? いや、大丈夫です。もう治ったので」

「治った?」

「いえいえ、こちらの話です。気にせずにどうぞ買い物を楽しんで下さい」


 結局よく分からないまま、オルテたちは笑顔のフロンに促され店を後にした。


 建物内には一部吹き抜けになっている部分があり、そこには台座に乗せられている魔法爆弾があった。

 大きさは大人の手のひらよりも少し大きいくらいに見える。

 起動しない事は確認済みだが、周囲は柵と警備の者で守られており、物珍しさからレトフォンで写真や動画を撮っている者が大勢いた。


「おぉ、あれがレトツールの魔法爆弾か。あまり見ない型だな」


 オルテも同じようにレトフォンで写真を一枚取りながら言う。


「なんでも、今まで見つかった物とは少し違うから、幅広く知ってもらうために展示されているようね」

「確かに無傷であの手の爆弾が残っている珍しいでしょう」

「爆発範囲は範囲50メートルくらいで、爆風も凄いからね。もし爆発したら大事よ」

「嫌な事を言うな。フラグに聞こえるだろ」

「大丈夫。なんでもあの爆弾は特殊で、使用権限がある人が触れたりしないと起動自体しないみたい。その後は近距離でも遠隔操作できるみたいだけど」

「良くそんな事まで知っていますね?」


 メナが関心しながらルシスに聞くと、


「これも花嫁修業をしている淑女の嗜みよ」


 さらっと笑みを浮かべながらルシスが答えた。


「で、あれは本当に爆発しないんだろうな?」

「そうね。古いし、もしかしてうっかり何かで動いたりしないの? メナさん」


 その問いにメナは声を小さくして答える。


「ルシスが言った通り、あの爆弾は起動権限のある者が触れないと作動しないんです。多少の衝撃で爆発もしません。子供がうっかりなんて事があると大変ですからね」

「そうなんだ。じゃあ安心ね。ちなみにメナさんなら動かせるの?」

「触れないと何ともいませんが、私の様な戦争末期の兵器は権限が大きいので、多分起動も解除も出来るかと」

「おい、絶対にうっかり触るよ? 絶対だぞ? 振りじゃないからな?」


 メナの言葉に何度もオルテが念を押した。

 なぜかメナは笑顔だけで答え、そんな二人をルシスは楽しそうに眺める。


「しかし、本当レトツールは良く分からない物が多いわね。そんな物が200年も前に存在しているなんて、ちょっとロンマを感じちゃうわ」

「ま、実際兵器関連は再現不可が多いからなぁ。もっともその方が良いんだろうが」

「悪用される事は絶対にあってはならないですから……」


 リアス戦争から200年経ち、多くの者は歴史として習うだけだが、実際の戦場にいたメナにとってそれは今も鮮明に残る辛い記憶だった。


「いつの時代だって争いなんて無い方が良いに決まってるさ……さて、見る物みたし、後は適当に見て周るか」


 明るくオルテが言うと、メナとルシスは頷きその場を離れ、賑やかな人混みの中へと姿を消して行った。


 それから結局は何も買わず、ただのウィンドショッピングをオルテたちは楽しみ、外へ出るとすでに夕方になっていた。

 そしてオルテたちは近くの休憩場にあるベンチに座る。


「あー、疲れた。見るだけでも結構くるなぁ。おっさんはしんどいわ」


 背伸びをしながらオルテが言う。


「そうですか? おっさんどころか老人なんじゃないですか」

「まぁ確かに実際は50近いが……身体は十分40代のままのはずだ」

「オルテ先生にメナさん、付き合ってくれて今日はありがとね」


 ルシスが二人に笑顔で言う。


「いや、こっちも久しぶりに気分転換出来たよ。それにルシスがレトツールに詳しいのには驚いた」

「これも修行の一つってやつよ」

「本当に花嫁修業に必要なんですか?」

「そうねぇ……オルテ先生、私を見てどう思う」


 と、ルシスは急にオルテに近づいて見つめると微笑む。

 綺麗な銀髪に切れ長目、整った顔立ちがそこにはあった。


「……まぁ、美人なんじゃないか?」

「ありがと」


 答えるとルシスは席に戻り、どこか真面目な表情になる。


「でも、綺麗や可愛いはだいたい若い時だけよ? 老いれば外見は変わるの。だから中身が必要になってくる。それが私には知識や知恵ってわけ」

「結構真面目に考えているんだな」

「これでも、旦那様探しは結構本気なの」

「そう言えば、ルシスが結婚相手に望むのはなんですか?」


 メナの問いにルシスは暫く目を閉じて考え、やがてゆっくりと目を開けると静かな口調で答えた。


「私よりも長生きしてくれる事……かしらね」

「なんだそりゃ。もっと金持ちとか美形とか言うのかと思った」


 予想外の答えに思わずオルテが声を上げた。


「残されるのって結構きついのよ。死んだ人の気持ちなんて、結局は分からないじゃない。想像して自分を納得させるだけだもの」

「経験があるのですか?」

「それなりに生きていれば、それなりの事があるって事よ。って、言うとなんだかミステリアスで良いと思わない?」


 最後は冗談っぽく言うと、ルシスは席を立つ。


「さて、私はもう一度店に戻るわ。欲しい物の目星も付けてあるし。今日は本当にありがとね」


 そしてオルテたちが何かを言う前に、ルシスは二人に手を振ると再び店の中へ消えて行った。


「なんだか、掴み所のない人ですね」

「言葉通り、それなりの経験があるって事だろうな。そろそろ俺たちは帰るか。飯は……面倒だしどっかで食って帰ろうぜ」


 メナが頷くと二人も席を立ち、馬車へ乗ると帰路へついた。


 そしてその日の夜、ルシスは休憩を挟みつつ店で買い物を楽しんでいた。

 夜になっても人通りは多く、昼とは違い子供は少なく大人が多い様に見える。

 今は魔法爆弾の近くにあるベンチに座り、それを眺めていた。


「……さて、そろそろこっちも用事を済ませましょうか」


 そしてベンチから立ち上がった時、突如小さな爆発音と男性たちの大声が聞こえる。


「全員下手に動くな!! この店は俺たちが占拠した。逆らうと殺すからな!」


 ルシスが見た視線の先には武装した大勢の男たちの姿と、逃げ惑う客の姿があった。


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