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女神の力を宿したおっさん。何度も死にながら人生を謳歌する。  作者: 灰色
2話 竜族の女性フロン・ヴェルナの愛憎
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フロン エピローグ

 フロンの裁判が終わってからオルテたちは大忙しだった。

 両親の葬儀に引っ越し、さらにフロンの両親が住んで居た屋敷は売り払い、元々のこじんまりした実家だけをフロンは残した。


 そんな日々で二週間経ったある日の夜……。

 オルテは部屋で机に向かいながら書類整理やらフロンの体調管理の書類をまとめていると、ドアがノックされる。


「誰だ?」


 いつもならメナだけだが、フロンも一緒に住んで居ため確認が必要になった。


「フロンです。今ちょっといいですか?」

「いいぞ」


 ドアが開き、水色と白の模様が入ったパジャマ姿のフロンが入って来る。


「どうした? 何か困った事でもあったか?」

「いえ、生活は驚くほど心地いいっす。なんだかゆっくりと落ち着けて」

「なら良い。まぁ、困った事があったら遠慮なく言え。一緒に住んで居る以上、家族みたいなもんだしな」

「家族……」


 オルテの言葉にフロンは近づくと、椅子に座っているオルテを見下ろした。

 オルテは見ていた書類を机に置くと、フロンを見上げる。


「一度改めてお礼を言おうかと。本当にありがとうございます。生きて、今みたいな幸せになれるなんて、思いもしなかったですから」

「そうか……俺からも改めて言っておく事がある」

「なんですか?」


 オルテは暫くフロンをじっと見つめると、静かに口を開いた。


「すまなかった」

「……え? あの、一体なんの事っすか? どうして急に」

「本当にすまなかった……」

「……」


 もう一度オルテが謝り、フロンはそれが何を指しているのかすぐに理解できた。


「両親の事ですよね? いいんですよ。決闘の時も言ったけど、むしろ精々しているくらいっすから」


 フロンは笑顔で答えるが、どこがぎこちなさが見える。


「俺はお前の本当の望みを叶える事が出来なかった。力不足ですまない」

「だから、本当に大丈夫ですって! 本当に酷い親だったんですから。そんな謝らないで下さい」

「フロン、俺を恨みたいなら恨んでくれ。殺したいならいつでも殺せ。お前にはその権利がある」

「……」

「俺はいつも救えない。いつも誰かを殺してばかりだ」


 フロンから表情が消える。

 暫くオルテを見つめていたが、やがて小さく笑った。


「先生、コイントスの時、ズルしたっすよね?」

「なんの事だ?」

「私の勘ですが、一回コインをメナさんが弾いた事で、回転数が増えました。あれ、そのままだったら月が表になっていたからでは?」

「どうだったかな。最近歳のせいか物忘れが多くて忘れたよ」

「先生は最初から、私の両親だけを殺すつもりだったんですね?」

「……」


 フロンの問いにオルテは無言だったが、一度フロンから視線を外すと再び見つめる。


「城でお前の両親に会った時、気付いた。好き嫌いではなく、すれ違っているのでも、溝があるのでもない。ただお前の存在を無かった事にしようとしているんだと」

「そうですね」

「酷い話だが、もう両親とお前の関係が元に戻る事はない。そしてお互いが無干渉という訳にもいかない」


 オルテは深い溜息を吐いて続ける。


「だからどちらかを選ぶしかなかった。そしてお前は生きたいと俺に言った。だから生かした。お前を生かしたのは俺の責任だ。本当は両親と一緒に生きたかった望みを叶える事は出来なかった」

「私の望み……」

「それを知りつつも、両方が潰れるくらいならとお前を選んだ。俺のわがままがお前を不幸にしてしまったな」

「……先生は、少し間違っています」

「そうか?」

「確かに私は心のどこかで、両親との和解を望んでいました。でも、今私は間違いなく幸せでもあります。不幸なんかじゃありません。ただ……」

「ただ?」

「頑張ったのになぁ……」


 そう、呟いたフロンの瞳は涙で滲んでいた。


「最初は怪我をしても両親は優しかった。でも原因が分からないと知ると、私を見る目が変わりました。哀れみや同情ではなく、まるで得体の知れない何かを見るように」

「……」

「身体の事でイジメられる事もありました。両親も私も仕方がないと諦めていたけど、やっぱり私は納得できずに、力以外で頑張る事にしたんです」

「それで商売を?」

「はい。両親が始めましたが上手くいかず、かろうじて黒字程度でした。私は必死に商売を学び、親を説得して協力しました。運も良かったのかそれが上手くいきました」

「両親は喜ばなかったのか?」


 フロンは首を横に振る。


「もちろん喜んでくれました。お金の無心をされたり、どこかの貴族との会食をセッティングしたり……それでも自分が必要とされていると思っていた」

「そうじゃなかった。と、言う事か」

「はい。私じゃなくても良かったんです。商才がある子なら誰でも良かったんでしょう。本当に、バカみたい」

「……」

「先生、私はどこで何を間違ったんでしょうか? 私は、どうすれば良かったんですか?」


 フロンの瞳から大粒の涙が溢れ出した。

 オルテは立ち上がるり、フロンの肩に手を置く。


「きっとそれは誰にも分からない。ただ……どうしても上手くいかない時がある。今回がそうだっただけだ。それに従業員たちや友人はお前を慕っている。それがお前自身がした行動の結果だ」

「裁判であの書類を見た時、本当に嬉しかった。無駄じゃなかったって……」

「フロン、お前は一人じゃない。いつでも俺でもメナでもコアトでも、誰で良いから頼れ。孤独にはなるな。俺が必要な時はいつでも傍にいてやる」

「……っ」


 フロンはオルテに抱き着くと、そのまま胸に顔をうずめた。

 そして堰を切ったように感情を吐き出す。


「先生、ごめんなさい! 私……先生たちを利用しました! 両親に死んで欲しいって思っても自分じゃ出来なかった。だから……だから先生たちを利用しようって」

「……」

「上手くいけば、私も両親も死ぬ。ううん、私に同情してくれれば、きっと私だけは生き残るって……先生たちに全部罪を負わせる事になるのに!」


 フロンは泣きながら言葉を紡いで行く。


「勘違いをするな。お前の両親を殺したのは俺の意志だ。お前のせいじゃない」

「でも……でも!!」

「もういいんだ。フロン、お前は生きろ。俺の為にも生きてくれないか?」

「え?」

「殺す事しか出来ない俺が助けた命だ。俺の自己満足の為にも、な」

「……」

「自分自身を許せないかも知れないが、俺が許す。世界中が許さないと言っても、俺はお前を許す。だから、これからは幸せになれ」

「っ!!」


 やがてフロンは力いっぱいオルテを抱き締めると大声で泣き始める。

 オルテはフロンが泣き止むまで、ずっとその頭を優しく撫でていた……。


 暫くしてからようやく落ち着いたフロンがオルテから離れると、恥ずかしかったのか顔が赤くなっている。


「少しは落ち着いたか?」

「はい……あの、その、服、すみません」


 言われて、さっきまでフロンの顔が合った部分を見ると、涙と鼻水と少しの血が付いていた。


「気にすんな。洗えばいい。今日はもう遅いから寝ろ。また明日ってやつだ」

「……先生。何か私に出来る事はありませんか?」

「急にどうした?」

「いえ、先生からいろいろ私は貰ってばかりで、個人的にも商売人としても何かお礼がしたいかなって」

「別にそんなのいらん」

「これはプライドの問題っす! 恩を貰うばかりでは自分が情けない。何でも言って下さい!」


 一度離れたフロンがオルテにぐいっと顔を近づけて言う。

 その目は真剣で、何か言わないと部屋から出て行きそうになかった。

 そこでオルテはある事を思いつき、


「そうだなぁ。でも残念ながらそれは不可能だ。俺がお前にした事はプライスレスってやつだからな。値段が付かない物を返す事は出来んだろう?」


 少し意地悪そうに笑う。

 その態度に一瞬むっとした表情をフロンが覗かせるが、すぐに何かに気付くとオルテを見つめて言った。


「先生、ちょっと座ってもらっていいっすか?」

「?」


 オルテが椅子に座りフロンを見上げる。

 次に瞬間、フロンはオルテの頬を両手で優しく掴むと、そっと唇にキスをした。


「……!」


 オルテは一瞬何が起こったのか分からなかったが、慌ててフロンの顔を引き剥がす。


「ばっ! お前何してんだ! そういうのは好きな奴とするもんだろうが!」


 どこか名残り惜しそうにフロンはオルテを見つめていた。


「私にとっては十分です。それに、初物っすからね。プレイスレスってやつですよ」


 仕返しと言わんばかりに、フロンが意地悪に微笑むと、今度は顔を真っ赤に染める。


「ここから先はまだ勇気がないので、待っていて下さい。いつか続きをしましょう」

「……」

「オルテ先生、お休みなさい。また明日です」


 最後に照れながらも、フロンは満面の笑みを浮かべて部屋を出て行った。

 暫く茫然と去って行く後ろ姿を見つめると、オルテは軽い溜息を吐きながら頭の後ろを掻く。


「……着替えてさっさと寝るか」


 自分を落ち着かせる様にオルテは呟く。

 こうして新しい同居人との生活に、いろんな意味でオルテは頭を悩まる事になるのだった。


~ 2話 竜族の女性フロン・ヴェルナの愛憎 完 ~


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