8 ざまぁみろっす
明らかに普通の火竜とは違う様子に、フロンの両親は目を見開いて驚ていた。
しかし、オルテはそれを待っていた様に、なぜか優しく微笑む。
「そうだ、それで良い。俺が聞いてやる、見ていてやる。だから、一度全部吐き出してみろ。お前の心の全てを」
「っ!!」
次の瞬間、フロンの口の前から黒い魔法陣が描かれ、今までとは違う黒い閃光がほとばしった。
一瞬で周囲を破壊してオルテを消失させると、強化されている闘技場も次々と破壊していく。
巨大な稲妻をほとばしらせた光線のブレスが、オルテの背後にいるメナたちに向かって行った。
「少しだけ梅雨払いをしましょう」
エノクが持っている無骨な木の杖で地面を一度叩くと、巨大な魔力の木が一瞬で複数生え、闘技場周辺へ飛び交う稲津を防ぐ。
一見ただの木の棒に見えるが、エルフの領地にある世界樹の枝から作られた杖であり、所有者は世界樹の力の一端を扱う事が出来た。
しかし小さな稲妻は防いだが、本体である黒い光線がメナたちに真っ直ぐ向かってくる。
「さぁ、チャラ男のアレン。出番ですよ」
「なんつう言い方よ。しかし、確かに中途半端だが成ったな」
メナに言われてアレンが一歩前にでると黒い竜の姿に変化する。
だがそれは子犬ほどの小さで、竜の子供のような姿だった。
その背後には後光の様に黒い光輪があり、そこから稲妻がほとばしっている。
そしてフロンと同じように黒い光線のブレス吐いた。
身体よりも明らかに大きく、魔力の密度も高いそれは、フロンの不安定なブレスを次々と相殺していく。
「可愛い姿になりましたね」
「こんな場所で巨大だと邪魔だろう。あと俺は可愛いよりもカッコイイが好きだ」
竜族が竜の姿になる際、本来の大きさ以下ならある程度自由にする事が出来た。
やがてフロンの放ったブレスが全て消えると、闘技場内が静けさを取り戻す。
攻撃を終えたフロンが落ち着くと、力尽きたのか人間の姿で地面に大の字になって寝そべり、晴れた空を見つめていた。
例えどの種族も元が何であれ、最終的には魔力消費の少ない形態になるのが、愛と共存の女神クエフが作った世界の理だった。
竜などは人型に、妖精族などは元の小さい身体に。
ただし、死ぬ間際だけはどちらかを選べる。
「良く頑張ったな、調子はどうだ?」
フロンに近づいたオルテは手を出し出す。
手を取り、ふらつきながらも立ちあがったフロンは驚いた表情になった。
「なんだか、凄いスッキリした気分っす。それに身体が軽い」
「そうだろうな。お前の身体は魔力が異常に溜まっていたせいで、脆くなっていたんだ。だから、思い切り使えば一時的に普通の健康体になる」
「どういう事です?」
その場で飛び跳ねたり、屈伸をしたりと身体の自由を楽しみながらフロンが聞いた。
「風船を思い出せばいい。身体が風船で魔力が空気として、お前は常に破裂寸前の状態だったんだ。本来なら風船が破裂して死亡だが、竜族ゆえの治癒力でそこまでならなかった」
説明しながら、オルテは手を勢い良く開いて風船が弾けたジェスチャーをする。
「そして風船の一部が破れた状態が骨折とか体調不良として出ていた。その時に内部の魔力が外へ出るので暫くはマシになるが、再びって感じだな」
「じゃあ、今みたいに思いっきり魔力を使えば良い?」
「結論はそうだが……お前の場合はその根本に問題がある。なぜなら……」
と、フロンが思い切り背伸びをした時、バキっと脇腹辺りから嫌な音が流れ、少し口から吐血する。
「い、いただだだ! 何でまたっ!」
「すぐに元に魔力が戻る。その原因も知っているが、まぁ身体が慣れるまで待つしかないだろうな。時間が経てば普通になるさ」
「そ、それっていつなんですか?」
「さぁ? 数年か数十年か数百年か……いつかだ」
「そんな殺生な……でも、先生ありがとう。いろいろスッキリしたっす。もう、心残りはありません」
フロンは真剣な眼差してオルテを見つめていた。
「最後にほんの少しでも健康な身体を堪能出来て良かったです。私を……殺して下さい」
「……」
冗談で言っている感じはなく、覚悟を決めた強い光がフロンの瞳に宿る。
暫くフロンを見つめたオルテは小さく笑うと、ポケットから一枚の金貨を出した。
表には太陽が、裏には月が描かれている。
「最後は居るかどうかわからん、運命の女神に託してみよう。コイントスをする。どっちか選べ。勝った方の望みを叶えるとしようか」
「望み……ですか?」
「ああ、さぁ選べ。どっちだ?」
「……裏の月を」
「それじゃあ、俺が表の太陽だな。さて、運命はどうなるか」
オルテが指で天高くコインを弾き、コインは回転しながら待ち換えているオルテの手へと落ちて行く。
そして、オルテの頭上くらいの時、メナの放った一発の銃弾がコインを一度弾き、オルテはそれを手の甲で受け取った。
突然の事にフロンは驚いていたが、オルテは気にしていないようだった。
「見てみようか」
「……」
オルテがゆっくりと手を離すと、太陽が顔を覗かせていた。
「俺の勝ちだな。では俺の望みを叶えるとしようか」
そう言うと、オルテはゆっくりとフロンに向けて人差し指を向け、フロンは覚悟を決めて目を閉じる。
そしてオルテの人差し指はゆっくりと……フロンの背後に居る両親へと向きを変えた。
「これが俺の望みだ」
呟いた瞬間、フロンの両親の身体が燃え上がり、絶叫を上げる。
フロンは驚いて目を見開くと、燃え盛る両親を見つめていた。
「あぁあああ! な、なぜ! どうして私たちがぁぁああ!!」
「お前たちは許可していたはずだ。俺を殺す事にな。同罪だよ」
さらに何かを言いたげな両親だったが、その姿は跡形もなく燃え尽きた。
そしてかつて両親が居た場所を、フロンは暫く見つめていたが、
「……ふっ、あはっあははは! ざまぁみろっ!!」
腹を抱えて笑い出した。
「私を死んだ事にして! 商会を乗っ取ろうとして! 新しい養子取ろうとして! 全部が無駄に終わった! 私の事を好きにも嫌いにもならず、ただいない事にして……このクソ親が!!」
死んだ両親に大声で、時に笑いながらを悪態をフロンがつく。
「どれだけ私が頑張ったかも知らず! どれだけ傷付いたかも知ろうともせず! どれだけ……どれだけ、お父さんとお母さんの事を好きだったかも考えないで。お父さんもお母さんも大っ嫌い!!」
『……』
だが、オルテたちは何も言わなかった。
悪態をつきながらも、フロンの両目からは大粒の涙が零れていた。
やがて力無くその場に座り込むと、フロンの嗚咽だけが辺りに響く。
暫くしてアレンがフロンに近づくと、声をかけた。
「フロン・ヴェルナ。お前を強制連行し、裁判にかける」
「……え?」
「罪状は神の力を利用した、両親の殺害だ。神本人や神宿りが力を使うのいい。だが、それを他者が利用する事は極刑に当たる。異論はあるか?」
冗談ではないアレンの声色に、フロンは首を横に振って答えると立ち上がる。
神の力を私欲で利用する事は、後にどのような報復があるか分からない為、あらゆる場所で固く禁止されていた。
「明後日、俺と長老勢のみの特殊裁判を開く。覚悟をしておくように」
「はい……」
フロンは力なく頷くとアレンに連れられ闘技場内を後にした。
オルテとメナ、そしてエノクの三人だけが残される。
「オルテ、どうするんですか?」
エノクが問うと、オルテは一仕事した感を出しつつ背伸びをした。
「もちろん、終わらせに行く。つーわけで、ちと用事を済ませてからまたメナと竜の首都に行ってくるわ。なんか欲しいもんあるか?」
「そうですね。さっさと帰って来て授業でもして下さい」
「それは気が向いたらな。アレンの奴に良い店紹介されたから、そこの酒でも買って来てやるよ。メナ、行くぞ」
「おつまみも一緒に買いましょうか。アレンお勧めだけあって、美味しかったですしね」
溜息を吐くエノクを余所に、オルテとメナは軽い足取りで再び竜の領地へと向かって行った。




