7 決闘開始っす
巨大な赤い体躯に黒い二本の角。
背中からは大きな翼が生えたフロンの姿に、少し前の面影はどこにもなかった。
「先生、いきますよ!」
「おう、どんとこい」
フロンが大きな口を開けると、前方に魔法陣が生成される。
巨大で太い光線のような炎のブレスがオルテを飲み込み貫いた。
勢い余ってブレスはオルテ後方のメナたちに当たりそうになるが、メナが青い翼を出すと軽く払ってブレスを霧散させる。
「中々良いブレスだ。これで俺もお前を攻撃出来るな」
一瞬で蒸発したはずのオルテが、同じに位置に何事も無かった様に立っている。
「でも先生、私は火竜なので火のブレスの復讐を食らっても、火属性はほぼ効きませんよ?」
「ん? 誰がコアトの力を使うといった? お前なんぞ魔法使いとしての俺で十分だ。それに、勘違いをしている」
「何をです?」
「コアトの復讐と報復の力の本質についてだ」
「?」
オルテの言っている意味が分からず、フロンの動きが止まる。
「まぁ、あんまり細かい事は気にしなくていい。ただ復讐だからな。相手の耐性とか基本関係がないんだよ」
「……それってチートじゃないですか?」
「まだ優しいもんだ。コアトの力は恐らくもっと……いや、止めよう。今は関係ないな。とりあえず、俺は魔法使いとしてお前と戦うって事だ」
オルテの周囲に四つの魔法陣が空中に描かれる。
「俺がなぜ魔法研究者であるか教えてやろう。フロン、勉強の時間だ」
と、オルテが言い終わると同時に、火球、氷のツララ、風の竜巻、石の刃が形成され一斉にフロン目掛けて放たれた。
「えっ……」
フロンはブレスと火球でいくつか攻撃を破壊し、打ち漏らした魔法は巨大な体躯とは対照的に素早く翼を広げて避ける。
複数の別属性魔法の同時発動は、かなり高位の魔法であり、大陸でも扱える者は少なかった。
「おー、久しぶりにあいつの魔法見たな。相変わらず器用というか無駄が無いもんだ。なんであいつ普通に魔法使い認定受けねぇんだ? 最上級クラスだろうに」
見ていたアレンが呟く。
「なんでも試験が面倒だし、更新手続きも煩わしいし、他からスカウトが掛かるのが鬱陶しいとか言ってましたよ。まぁ神宿り時点で不要ですしね」
「なんですかそれは。いつまで経ってもぐうたらですね」
メナの答えにエノクが呆れながら言った。
「魔法とはイメージであり、世界との繋がりであり、そして構成によって成り立っている。普段俺たちが魔法で簡単に火を使えるのは、面倒な構成を世界がある程度肩代わりしているからだ」
次々と様々な属性魔法を繰り出しながら、オルテはフロンを攻撃する。
フロンも負けじと時に当たりながらも、魔法を破壊していった。
「そもそも世界には魔力のみが存在する。それを火に変換するには『1+1=2』のような構成があり、2=火となっているからだ。分かるか?」
「わ、分かりません!!」
「よし、お前は補習だ。早い話、魔法は魔力を構成に当てはめて初めて魔法となる。そして……」
と、オルテが説明を続けようとした時、フロンが再び口を開くと巨大な火のブレスをオルテに吐いた。
「それはドラゴンのブレスも同じであり、逆の手順をすればこうなる!」
火のブレスが当たる直前、オルテは手を前にだして触れると、太い光線のようなブレスは光の粒子となって霧散した。
「!?」
「構成を解読し解除すれば、それはただの魔力となって魔法という形を維持出来なくなるって訳だ」
それは竜の首都メリオンで、クライスの放った氷塊を消した現象を再現したものだった。
「なぁ、エノク。あいつの言ってる意味は分かるがよ、実際出来るのってどんくらい居るんだ?」
「そうですねぇ。まず私は無理です。恐らく大陸でも100人居るか居ないかそんな所でしょう」
「なんでそんなに少ねぇんだ?」
「そもそも魔法の構成は見るよりも、当たった方が分かりやすい。しかし普通はその時に死んでますからね。死なないオルテだからこそ簡単に出来るという事になるでしょう」
「ならコアト様あっての力って事か」
「いえ、間違いなく才能や努力の結果ですよ。いくら死ななくても構成を読むのも解除するのも、技術があって初めて成り立つので」
「そうです。オルテはああ見えて凄いんですよ」
エノクの説明にアレンが感嘆の声を上げていると、なぜかメナは後方で腕組みをしながら誇らし気に頷いていた。
「さて、フロン。お前の魔法は俺にはもう効かない。次はどうする?」
「……だったらこうっす!」
魔法が駄目なら物理と言わんばかりに、フロンはオルテ目掛けて突進してくる。
そして鋭い鉤爪の手を力任せに振り下ろした。
「そうだ。しかし、だ」
爪が当たる直前に地面から出来てきた巨大な岩がフロンの攻撃を防ぎ、さらに、そこから木の蔦が出ると腕から身体全体に巻き付いて身体を縛った。
「っ!」
「俺は魔法使いだからな。汎用性があるんだよ。そしてこういう事も出来る」
フロンから数歩後ろに下がってオルテが距離を取ると、巨大な水球が現れた。
「……な、何なんですかそれは」
それを見たフロンは絶句する。
巨大な水球の中に火球があり、その中で嵐が巻き起こり、さらに土の刃が存在していた。
「言ったろ? 魔法はイメージだ。想像から構成し、そして創造する。魔力とそれを内包する世界には可能性が広がっている。諦めるな……全ての可能性を考え実行しろ」
オルテが水球をフロン目掛けて放つ。
強固で太い蔦に絡まれて動けないフロンだが、口から火のブレスで水球を攻撃した。
ブレスで水球が剥がれ、火球がフロンに迫る。
「火は効かないっすよ!」
「そうだな。普通の火だけならな」
ゆっくりと火球がフロンに迫ると、突如破裂し風の刃と混じる。
炎と風の竜巻になったそれは、フロンの身体や翼を切り裂いて行き、最後には上空から降ってきた土の刃が数本、身体に突き刺さった。
「うっ……ぐぅう」
まともに当たったフロンが苦悶の声を上げる。
「痛いか? 生きている証拠だ。痛みは苦痛だ。だが、生きている実感でもある」
「……」
「フロン、お前は死にたいのか? 悔しくないか? 悲しいか? 辛いか? 理不尽に怒りが込み上げないか?」
「何を……」
「全部吐き出せよ。俺が受けてやる。お前が今まで受けた感情の全てを思い出して、それをブレスに乗せろ……フロン、お前は生きて良いんだ」
「!! 私、私は……」
フロンの中で、今までの事が走馬灯のように駆け巡った。
まだ優しかった両親、一緒に病院を回った事、原因が分からず落胆する両親、悲しんだ自分、見限られた絶望、届かなった両親への愛情……。
「あ、あぁぁああ! こんなはずじゃなかった! 私はただ……ただ普通に生きたかった!! どうして……どうして私がこんな目に!」
フロンは泣きながら叫んでいた。
「理不尽だ! 何かも! 私は……私はぁぁああぁあ!」
ブレスを吐こうとフロンの口が再び開く。
その時、フロンの全身から黒い稲妻の様な魔力が走り、赤い身体の一部が黒く変色していった。
「そうだな。お前は良く頑張ったよ。本当に……」
フロンの言葉と身体の変化に、オルテは優しく、そして満足気に呟いていた。




