6 フロンと両親の関係
オルテとの決闘が正式に決まった少し後、フロンは急遽故郷に帰り両親と合ってた。
実家は別にあるが、今は商売が成功した後に買った大きな屋敷に住んでいる。
そしてリビングでは、フロンと両親が豪勢な夕食を食べていた。
まるで、最後の晩餐であるかのように……。
「オルテ様がお前との決闘を正式に認められた。すでに聞いているな?」
父親が食事の手を止めて言う。
「はい、受けてくれた事を嬉しく思います」
そう言うフロンだが、その表情に明るさはない。
「最後は竜族らしく、誇り高くありなさい」
「はい、承知しております」
淡々とフロンは言葉を述べていく。
それだけ済むと無言のまま食事が進み、やがて食べ終わった頃にフロンが口を開いた。
「商会の方はどうされるのですか?」
「そちらの心配しなくていい。お前が残してくれた物だ。悪いようにはしない」
食後のワインを堪能しながら父親が告げる。
「そうですか。一つお願いがあります。商会に関して遺言書を自室の机に仕舞ってあります。その内容を叶えてほしいのです」
「どんな内容だ?」
「今いる従業員のほとんどは、まだ店が小さい時から尽くしてくれました。そのお礼に待遇の改善をしたいかと。昔とは違い繁盛しているので給料などを増やしたいのです」
「そうか、分かった。考えておく」
「ありがとうございます」
考えておく……フロンはこの言葉の意味を知っていた。
それは考え無いという答えだ。
両親の考えておくは基本的に何もしない事を示していた。
「……」
父親の言葉を聞いて、フロンは心の中で笑う。
本当の遺言書は信用できる従業員に渡してあり、机の中の遺言書は内容自体は同じでも何の効力も無い物である。
それがせめてもの両親に対しするフロンのささやかな復讐だった。
「さて、明後日が決闘日です。明日私たちは帝都に向かいます」
母親がフロンの死刑宣告を告げる。
「私も一緒に行きましょうか?」
「いえ、私たちは少し別件を済ませてから行くので、貴女は先に行きなさい。オルテ様たちを待たせるような失礼はないように」
「……承知しました」
せめて最後くらいは一緒にと思ったフロンだったが、どうやら両親はそれよりも大事な用事があるようだった。
「私は自室へ戻ります。お父さん、お母さん。今までありがとうございました」
『……』
席を立つと両親に深く頭を下げ、フロンは自室へと戻る。
両親はそんなフロンから目を逸らすように、手元の書類へと視線を移していた。
部屋に戻ったフロンは大きなベッドへと身をうずめる。
フィオラ自由学園に入る少し前から帝都で一人暮らしを始め、それから故郷へ帰って来るのはたまにだった。
昔は当たり前のように感じていたベッドが、今ではどこか他人の物のように感じる。
「明後日か……仮に生き残っても、私の居場所はもうどこにも無い。欲しいな……私の居場所。私が居て良いって言ってくれる人が」
仰向けになると、涙が枕へと流れる。
死ぬのも戦うのも嫌だが、居場所の無い世界で生きるのも嫌で……自分が何をしたいのかすらフロンは分からなくなっていた。
ただ分かっている事は、悲しいという事だけだった。
******
良く晴れた昼の決闘当日……。
帝都にある大きな闘技場を貸し切りで決闘は行う事になった。
竜族が竜になっても十分に戦えるスペースがあり、特殊な材質と魔法で強化された場所で、並大抵の攻撃では傷一つ付けられない場所だった。
観客はおらず、来ているのはオルテとメナ、フロンとその両親。
見届け役にエノクとアレンだった。
「すまないが、両親にはここに署名をして欲しい。問題ないか?」
オルテが決闘に必要な書類を両親に見せる。
それは最悪フロンと何らかの事情で他の者が死亡するような事があっても、罪に問わないという契約書だった。
本来は見に来る観客全てに書かせる物で、周りを気にして本気で戦えない事を考慮しての契約書であり、書かないと決闘を直に観戦する事は出来ない。
「もちろんです」
フロンの父親は迷う事なく母親の分も署名してオルテに渡す。
「……確かに。確認するが、フロンが俺を殺す事は、あんたらも許可している。という事で間違いないな?」
「神宿りのオルテ様の事は有名です。死なないと。ですが、その様な傷を負う事はこちらも承知しております」
「そうか、それを聞けて安心したよ」
父親の言葉に母親も頷き、オルテは笑顔で答えた。
「一応何かあった時の為にエノクとアレンにも来てもらっている。まぁ、置物とでも思ってくれ」
「オルテ、聞こえてますよ。私は一応見届け人なんですけどね?」
「俺もわざわざ来たってのに、ぞんざいな扱いで泣いちゃうよ?」
「はいはい。ま、その時は頼むわ。メナもな」
「分かっています。思う存分、死んで下さい」
「なんて優しい言葉なんだか」
軽口が終わると、フロンの両親はメナたちとは対称の位置、フロン側の後方へ下がる。
オルテとフロン以外が安全な距離まで離れると、オルテはフロンを見た。
「フロン、準備は良いか?」
「はいっす! いつでも初めて下さい!」
「元気があっていいな。分かってると思うが、俺はお前の攻撃を受けないと攻撃出来ない。とりあえず、最初に一回殺してくれていい」
「りょ、了解したっす」
なんとも聞き慣れない言葉にフロンは少し戸惑いながらも、オルテと向き合って距離を取る。
吹き荒れる魔力でフロンの赤い髪が舞い上がり身体が光に包まれると、赤い色をした巨大な竜、火竜へとその姿を変え、決闘が始まった。




