表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の力を宿したおっさん。何度も死にながら人生を謳歌する。  作者: 灰色
2話 竜族の女性フロン・ヴェルナの愛憎
17/22

5 竜王アレン・エミティ

メナが確実にクライスの心臓を貫く……はずだった。


「ぐっ……これは、久々につれぇ」

「オ、オルテ!」


 だがそこに居たのは位置交換を使ったオルテであり、メナは慌てて槍を引き抜くと傍に駆け寄る。

 オルテから出ていた血と傷跡が一瞬で消え、服には貫かれた跡だけが残った。


「なんかセクシーな服になっちまったな」


 胸の一部分だけ丸く穴が開いた服を見て、オルテが苦笑する。


「どうして……」


 メナはオルテの心臓部分を優しく擦りながら言った。


「つまんねぇ罪と重荷を背負う必要はない。意味、分かるだろ? アイラ」

「……はい」


 メナの頭をオルテが撫でる。

 そんな様子を少し離れた場所でクライスが見ていた。

 自身に何が起こったのか理解できていないようだが、二人がまとめて居る事に笑みを浮かべると両手を突き出した。


「二人まとめて死ねぇ!!」


 クライスの両手から竜の時よりは一回り小さいが、それでも人間ならまとも当たれば死ぬほどの、大きな氷塊がオルテたちに向けて放たれる。

 気付いたオルテは向かって来る氷塊に右手を差し出した。


「もう、それは知っている」


 そして氷塊がオルテの手に触れた瞬間、魔力そのものである光の粒子に変換されて消え去る。

 メナのレーヴァテイン同様、溶けた訳でも破壊された訳でもなく、純粋な魔力となって消え失せた。


『……』


 その光景をクライスだけではなく、観客全員が茫然と無言で見つめる。

 暫くしてハッとしたクライスが口を開いた。


「な、なんだ……。お前たちは一体何なんだよ!」


 クライスが叫ぶ。

 だがその時、一つの拍手が場内に響いた。


「二人は俺の親友であり、この国の恩人だ。てめぇはそんな事も知らねぇのか? あ?」


 30代前半に見え、さらさらの茶髪のセミロングに、甘いマスクの表情。そして頭から黒い角が二本。

 全身を黒色のカジュアルな服で統一せされており、長身で細身だが引き締まった筋肉をしている男性がいた。


「りゅ、竜王様!」


 その姿を見たクライスが驚きの声を上げる。

 その人物こそ、竜の国を治める竜王「アレン・エミティ」だった。


「ようアレン。そろそろ来る頃だと思ってたぞ」


 オルテは近づいて来た男性、アレンと気さくにハイタッチをして挨拶をした。


「チョリーッス。二人共元気そうだな? パリピってるか? 謁見の間で待っててもきやしねぇ。懐かしい魔力を感じたと思ったらこんなとこで遊んでやがったのか」


 とてつもなく軽いノリのアレンだった。


「ちょっとそいつに絡まれてな。メナが相手をしていた」

「ああ、すでに報告は受けている。メナさんお久しぶりです。相変わらずお美しく、そしてお強い」


 アレンはメナの右手を取ると、手の甲にキスをしようとしたが、額に銃を突き付けられる。

 動きを止めたアレンは困った顔になった。


「アレン、久しぶりですね。女好きは変わらないようで何よりです」

「いえいえ、これでも相手は選びますんで。どうです? 今夜こそ二人きりで熱い夜でも」

「良いですよ。焼かれるのと、溶解するのとどっちが好みですか」

「貴女の愛情表現は手厳しい。オルテしか相手が務まらないわけだ」


 三人は軽いやり取りをすると笑い合った。

 挨拶を済ませると、アレンは狼狽しているクライスの元へ行き、右手でクライスの肩を組むと顔を耳元へ近づける。

 クライスの身体は小刻みに震えていた。


「報告は受けてるぜ。お前、オルテたちに決闘を申し込んだらしいな? 良くやるじゃねぇか」

「あ、ありがとうございます」

「で……お前、なんで生きてるんだ? 決闘を申し込んでおきながら、なぜ死ぬまで戦わない?」

「そ、それは……」


 アレンの左手がクライスの心臓部分に当てられる。

 その声は静かだが、殺気のこもった発言だった。


「お前自身から挑んでおいて、無様に命乞いをしていたな。なぜだ?」

「すみません。ゆ、許して下さい」

「謝らくなくていいんだ。ただ、お前が生きていい価値を教えてくれないか?」


 アレンの左手の力が徐々に強まる。


「……」

「無言じゃわからねぇなぁ。さぁ、俺に証明してくれ。お前の命の価値を」


 クライスは完全に縮み上がり、今にも泣きそうな顔になっていた。


「アレン、その辺で。折角俺が死んだのに無意味になるだろうが」


 オルテがアレンを見ると小さく頷き、アレンが溜め息を吐いた。


「おい! 誰かこの馬鹿を暫く牢屋へぶち込んどこけ!!」


 震えたクライスはやってきた騎士団に連れて行かれ、アレンがそれを見送ると観客席に向かって声を上げた。


「てめぇらは何をしている! 申し込まれた決闘に正当な方法で勝ったんだぞ? 竜族なら勝者に敬意を示せ! 何より、俺たちは二人に多大な恩があるはずだ。それを忘れたとは言わせねぇぞ!!」


 アレンの言葉に観客席に居た竜人たちが一斉に立ち上がると、アレンを含めて、全員がオルテとメナに頭を深く下げる。

 メナは誇らし気に、オルテはどこか居心地が悪そうに手を上げて答え、決闘は終わりを告げた。


 決闘が終わりオルテたちは城内にあるアレンの自室へと来ていた。

 四人くらいは一緒に眠れそうなくらいの大きなベッドに、豪華で煌びやかな装飾品の数々。

 王の部屋と言って差支えのない立派な内装になっている。

 オルテとアレンはテーブルの椅子に腰を掛け、一働きしたメナはベッドで横になってふかふか具合を堪能していた。


「しっかし急にお前から連絡来た時はびっくりしたぜ。元気だったか?」


 オルテの肩をバンバンとアレンが叩く。


「痛てぇよ、馬鹿力が。まぁ、元気は元気だな。テロとかあったが」

「ああ、そういえばそんな情報入ってたな。最近、帝国内で頻繁とは言わないが、似た事件は起きてる。なんかあるのかねぇ」

「さぁな。それよりも今はこの件だ」


 と、オルテはフロンの状態が書かれた書類をアレンに渡す。


「レトフォンで聞いたが本当なのか?」

「それを見ろ。かなり稀な事例どころか、現状フロン唯一と言っていいだろう」


 言われてアレンが封筒の書類に目を通す。

 その表情は徐々に険しさを増していった。


「俺は前竜王と戦った事があるからな。力の事は知っている。間違い無い」

「なるほどな……成りかけか。確かに珍しいというか、聞いた事がない」

「フロンの両親については?」

「連絡が合ってからすぐに調べた。まぁなんつうか、本人が言ってた通りだな」

「そうか」


 一通り書類に目を通したアレンは、テーブルに置いた。


「で、どうすんだ?」

「フロンについては、俺がオチを付ける。明日、フロンの両親と会いたい。準備を頼む」

「お前がそこまでやらなくてもいいんじゃねぇの? 赤の他人だぜ?」

「それを言えば、お前もメナも赤の他人だ。俺がやりたいからやる。それだけだ」

「……ま、お前はそういう奴だよな。分かった、お前の言う通りにしよう」

「すまんな。責任は俺が取る」

「取ってばっかりだな。お前は」


 アレンの言葉にオルテは苦笑し、そしてフロンの今後について話を始めた……。


******


 翌日の昼、城内の豪華な客室で一晩を明かしたオルテとメナは、来賓室でフロンの両親を待っていた。

 部屋にはアレンの姿もあり、少ししてから来賓室がノックされ、両親が入って来る。


「私たちのような者を、お招きいただきありがとうございます。竜王様、神宿りのオルテ様にメナ様」


 50代くらいに見える、男性と女性がオルテたちに深々と頭を下げた。

 フロンの両親であり、男性は黒のスーツに黒髪のオールバック。女性は赤い長髪に赤いドレスを着ていた。


「気楽にしてくれ。今回、オルテから二人に話があるそうだ」


 アレンが両親を椅子に座らせ、オルテとメナも対面に座る。


「単刀直入に聞く。フロンが俺に決闘を申し込んだ。その事は知っているか?」


 オルテの問いに父親が答えた。


「もちろんです。事前にあの子から聞かされております」

「最悪死ぬって分かってるよな。止めないのか?」

「あの子の決めた事です。それに、身体の事もあります。最後くらいはあの子の望みを叶えて上げたい」

「確かに生きにくいかも知れないが、それでも死ぬよりはマシだと思わないか?」

「あの子も竜族ですから」


 そう答えたのは母親だった。

 それにメナが反応する。


「今は竜族でも商人、アイドル、料理人。様々な職業に着く者がいます。昔の様に力が全てという分けではありません」

「そうですね。ですが何に置いても強さと誇りが大切である事に、変わりはないと思っています」

「しかし、もし彼女が亡くなった場合、商会の方はどうされるのですか?」

「それは……あの子が残したくれた物です。頑張って今以上に大きくしてみせます」

「……」


 母親は少し言葉に詰まりながら答えた。 

 さすがに商才のある養子を探しているとは言わなかった。

 それを聞いたオルテが声のトーンを落として口を開く。


「本当にどんな結果になってもいいんだな?」


 オルテの言葉に、両親はお互いを見ると大きく頷いた。


「分かった、決闘を受けよう。ただし条件がある。決闘時はあんたらにも来てもらう。最終的な確認と娘さんの雄姿を見てやってくれ。そして、白決闘だが無観客で行う。以上だ」


 決闘を受けるというオルテの言葉に両親は顔を綻ばせると、何度も頷きながらお礼を言い帰って行った。

 部屋には三人だけが残され、オルテは大きく深い溜め息を吐く。


「あいつらの中じゃ、もうフロンは死んでるんだな。『あの子が残してくれた物』だとよ。それに一度も名前を呼ばなかった。胸糞わりぃ」

「恥ずかしい限りだよ。リアス戦争後に帝国の一部という形になってからは、自由な生き方を出来るようになった。だが未だに古い考えの者はいる」


 アレンが首を横に振る。

 メナもオルテ同様に溜め息を吐いた。


「文化というか、意識改革はそう簡単に出来ないという事でしょう」

「ああいう考えの奴はほとんどいなくなったが、竜王である俺の力不足って訳だ。自信無くしちゃうぜ」


 そして、暫く部屋に沈黙が流れると、不意にオルテが立ち上がる。


「うし! この件は一旦終わりだ。メナ、折角来たんだ。観光して帰るぞ。アレン、お前のお勧めでメシと酒の旨い所を教えろ。今日は飲みたい気分だ」

「それなら夜に落ち合おうぜ。俺がよく行く店を教えてやるよ。どうせなら一緒に飲もうじゃねぇか」

「三人で飲むのも久しぶりですね。私は遠慮なく食べましょう。全部アレンの奢りですしね」

「え!?」


 アレンが声を上げた。


「おや? 竜王ともあろう者が、友人のご飯くらい奢らないんですか?」

「いや、メナってメッチャ食うよね? 昔、店のほとんどを食い尽くしてたよ?」

「そうでしたっけ? まぁ、良いじゃないですか。ゴチになります」


 と、メナはニッコリと微笑む。


「諦めろアレン。こいつ今日は食う気満々だぞ。お前から誘ったのが運の尽きだったな」

「ですので、私とオルテは観光しながら、お腹を減らしておきますね」


 そしてメナはオルテの手を取ると一緒に部屋出て行く。

 そんな二人をアレンはやれやれといった表情で見送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ