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女神の力を宿したおっさん。何度も死にながら人生を謳歌する。  作者: 灰色
2話 竜族の女性フロン・ヴェルナの愛憎
13/20

1 決闘を申し込むっす

 ある日の朝、オルテは授業もせずぶらぶらと学園内にある自分の研究室へ向けて歩いていた。

 ルシスが絡んだと思われるテロ事件から数日経つが、ルシスは相変わらずオルテとメナに当たり前のようにちょっかいをかけて来る。

 それとなくオルテとメナはルシスに目を光らせているが、学園では真面目に花嫁修業をしているだけだった。


「ったく、中々あいつは骨が折れそうだ。だが何もしないならそれでいいか」


 呟きながらオルテは頭の後ろをポリポリと掻きながら歩き、曲がり角に差し掛かった時、


「あ、あぶない!!」

「あん?」


 女性の声が聞こえたかと思うと、オルテが女性とぶつかる。

 女性は走っていたのか、オルテとぶつかった拍子に跳ね返って壁に激突し、そのまま床に倒れた。


「……は? お、おい。大丈夫か!」


 慌てて倒れた女性に近よると、だぼついた緑の色のロングコートを着ているフロンが居た。


「あれ? こいつ確かヴェルナ商会の会長の……すまんな、怪我してないか?」


 テロが起きた店で会った事を思い出し、身体を揺さぶりながら言うが、フロンはピクリとも動かない。

 強めに揺さぶっても一向に動かず、思わずオルテはフロンの息を確かめるが……。


「おい、冗談だろ……息をしてねぇぞ」


 手を鼻に近づけるが息をしている気配が無く、オルテを腕を組むと辺りを見回す。

 周囲には誰もおらず、目撃者は居なかった。


「よし、埋めるか。とはいかねぇよな……」


 と、呟いたその時、突如フロンが勢い良く上半身を起こす。


「あっぶな! ちょっと死にかけた……って、あれ? オルテ先生?」

「よ、よぉ。その、無事か?」

「……? あ、もしかして先生とぶつかっちゃいました?」


 フロンが辺りをキョロキョロ見回してから、目の前に居るオルテに見つめる。


「そうだが、お前今死んでなかったか?」

「ああ、いつもの事です」


 フロンは笑顔を作ると、何事も無かったように立ち上がった。


「いつもの事ってどういう事だよ?」

「あ……いやぁ、お恥ずかしながら身体が昔から弱くて、よく骨が折れたり吐血したり筋肉痛になったりともう大変で」

「お前、竜族だよな? 竜族は強大な魔力に強靭な肉体。さらに強力な自己治癒力があるはずだが?」

「そう言われても、昔からそういう体質なんすよ。治癒力のお陰ですぐに治るので問題ないんですけど」

「竜族のくせに変な体質だな」


 オルテに言われると、フロンは恥ずかしそうに頬を指で掻く。


「ま、そんな訳なんで心配無用!」


 と、フロンはドンっと自分の胸を叩いたが、


「うっ……」


 次の瞬間口から一筋の血が流れ、慌ててティッシュで拭く。


「……」

「あはは。まぁこんな感じなんで気にしないで下さい。じゃあ、私は用事があるのでこれで失礼します」

「あ、ああ。まぁなんだ。気を付けてな」

「はい! オルテ先生、ではまたっす!」


 そう言うとフロンは笑顔で手を振りながら、元気に走り去って行った。


「何だったんだ一体……」


 その後ろ姿をオルテは呆然と暫く見つめ、姿が無事に見えなくると研究室へ向かう。


 フィオラ自由学園にあるオルテの研究室へは学園と連絡通路で繋がっている。

 中にある黒板には様々な魔法の公式や、普通の機械。さらにはレトツールまであった。

 物の数こそ多いが、メナが整理整頓するため小綺麗に片付けられている。


「おーい、アレとってくれアレ」

「これですか? 必要な物は手元に置くようにと、いつも言ってるはずです」


 椅子に座りながら何かの資料を読んでいるオルテが言う。

 メナはオルテの意図を汲むと、近くの小さな機械の破片をオルテに手渡した。


「それで何をしているんですか?」

「んー、あのテロの時に爆発した破片を解析してる。なんていうか、都合よく起動したなぁと」

「確かにそうですが、小さな爆弾が爆発した衝撃でも考えられますし、何分古いですからね。ただの故障で偶然の可能性も」

「ルシスが起動した可能性は?」

「それはどうでしょう? 仮にレトニアスの子孫だったとしても、それだけでは起動権限はありません。あるとすれば、私と同じ機兵になります」


 そこでオルテは資料を机の上に置くと、メナを見つめた。


「メナの同型って結局どうなったんだ?」

「……私たちのような、トニス様が直々に組み込んだ特殊機構の機体はそう多くありません。お互いを知っている者は少ないでしょう」

「今の所知ってるのはエシルくらいか」

「そうですね。レトフォンで連絡を取り合っていますが、妖精の国で元気に暮らしているみたいです」

「それは良かった。しかし自爆に巻き込まれない為、団体行動を避けていたのは分かるが、そこまでお互いを知らないものなのか?」

「MENA搭載型は志願兵です。理由は様々ですが、顔を合わせ辛かったのかと。最後は自爆ですからね」


 メナはそう言いながら、どこか自嘲気味に微笑む。


「なら、ひょっこりどこかで生きていてもおかしくないって事だな。見分け方は?」

「見た目では不可能ですね。私たちは元々人間で肉体内部の改造だけですから。機構の力を使えば分かりますが」

「今度ルシスに会ったら聞いてみるか」

「あの女性が素直に話しますかね」

「駄目元って奴だよ」


 軽く息を吐いてオルテが言うと、メナは自分とオルテにコーヒーを淹れた。

 そして一息ついていた時、部屋のドアが開かれ、一人の男性が入って来る。


「オルテ、居ますか? 貴方に話があります」


 オルテは声がした方に視線を向けると、そこには緑のローブを来たエルフの男性が居た。

 長い銀髪をポニーテールにし、伊達眼鏡をかけた学園長である「エノク・マクレイン」が、片手に大きな封筒を持って立っている。

 伊達眼鏡の理由は「賢そうに見せる為」であり、それだけで相手が畏まったりするので、一定の効果はあると本人は満足気だった。

 またエルフは非常に寿命が長い長命種になり、エノクの年齢は不詳。

 本人曰く「忘れた」との事で。


「エノクか。お前がここに来るなんて珍しいな」

「こんにちは。胃の調子はどうですか?」

「あなた達のお陰で胃薬が手放せませんよ。生徒や教師、保護者からは神宿りにもっと授業をするように言われ、他の問題事の対処……まだ反乱軍の時の方が楽だったかも知れませんね」


 胃の辺りを擦りながら言うエノクを見て、オルテは笑う。

 エノクとは帝国でのクーデター時、反乱軍で知り合ったオルテとメナの親友だった。


「ま、平和な証拠だろ。で、話ってなんだ? 授業をしろってんなら暫くはやらんぞ」

「そんな事は分かってますよ……ちょっと面倒な事になってましてね」

「面倒な事?」

「貴方に決闘の申し込みが来ています」


 少し前の和やかな雰囲気とは違い、真面目な口調のエノクが手に持っている封筒をオルテに渡す。

 帝国には「決闘制度」がある。

 当初帝国が今の様に平和になっても、好き勝手していた貴族たちへの恨みは大きく、道端で突然殺される者も少なくはなかった。

 それ自体は自業自得ではあるが、問題は時に周囲が巻き込まれる事にある。

 禁止しても行う者が居たため、国として正式に復讐を認める形にし、周囲へ飛び火が行かないようにした。


「……俺に決闘ねぇ。どっちだ?」

「白です」

「なるほど」


 決闘には「白 (しろ)」と「黒 (くろ)」がある。

 白はお互いの合意を経て行う純粋な力試し的な部分が大きく、一種のエンタメとなっていた。

 観客も導入され、国認定の賭けも存在する。

 掛け金の売り上げは慈善事業に使われていた。

 そして合意が成されている為、最悪殺しても罪に問われない戦闘行為になる。


 一方、黒は純粋な怨恨によるもので、観客は無く秘密裏に行われる。

 また挑まれた者に拒否権は無く、怨恨が正当な物と認められると決闘日まで拘束される。

 ただし、決闘を挑む者は本人のみ認められ、誰かに代理を頼む事は出来ない。

 そのため、小さな子供が成長した後に黒決闘を挑む事も少なくはなかった。


「それに今回は申し込みをして来た相手も、ある意味有名人でしてね」


 エノクが視線で封筒内にある資料に目を通すように促す。

 オルテが資料を手に取ると小さく声を上げて驚いた。


「これは……マジか?」

「ええ、本気です。相手の意思確認もすでに済んでおり正式な書類になります」

「これって、ヴェルナ商会の方でしょうか?」


 メナがオルテの横から資料を見て疑問を口にした。


「そうです。ヴェルナ商会の会長。フロン・ヴェルナが貴方に白決闘を私を通して行いたいと申し出がありました。嫌なら断っても問題ないですが、どうしますか?」

「仕事と学園の都合で、今は帝都で一人暮らしか……理由は?」

「一応は腕試しだそうです。ただ、この子は少し特殊でしてね。聞いた事は?」

「何度か会った。というか、ここに来るまでにぶつかった」

「なら、なんとなくわかったのでは?」

「竜族のくせに軟弱な事か?」

「そうです。そのせいか両親から疎まれていましてね。竜族は強い事を誇りにしていますから」

「そういった奴は少なくなったはずだが、老害はそうそうなくならねぇか」


 竜族は世界でも最古の種族とも言われ、他の種族よりも優れている部分が多い。

 ただそのためか個体数自体は少なく、異種族間の子供も多い中、同種族間の子供を望む傾向が強かった。


「フロンさんは『虚弱、脆弱、柔弱 (にゅうじゃく)の三冠王』の異名を持ち、すぐに怪我をしますが、たちまち自己治癒力で治るので『エンドレスセルフドM』とまで言われてます」

「なんだその不名誉なあだ名は……」

「いえ、むしろそれはそれで楽しそうなあだ名ですね」

「ですが、本人は前向きの頑張り屋で、評判はすこぶるいいんですよ」


 メナがフロンの資料を見ながら、どこか楽しそうに言う。

 そんなメナを見てエノクは首を横に振った。


「それでどうしますか?」

「本人に確認する。俺と決闘する意味を理解しているのかと」


 神宿りであり、普通では絶対に殺せないオルテに挑む事は自殺を意味する事に等しい。

 そしてオルテは資料を封筒に入れてエノクに返すと席を立つ。


「メナ、行くぞ」

「分かりました。エノク、決闘を受けるかどうか一旦保留でお願いします」

「良いでしょう。出来れば決闘なんて諦めさせて下さい。私の胃をこれ以上刺激しないように」


 エノクは苦笑すると、オルテたちにフロンが受けている授業場所を教える。


「お前は真面目に働きすぎなんだよ。ちったぁ休め」


 そんなエノク見て、オルテとメナは小さく笑いながら部屋を出て行った。


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