おっさん エピローグ
テロ事件から数日経ったある日の夜、オルテの家のリビングではオルテとメナ、そしてフェイがルシスに関して報告をする為に来ていた。
フェイはメナに出されたコーヒーを飲む。
「ここで飲むコーヒーは、城で飲むどんな飲み物よりも美味しいですね。何よりも落ち着きます」
「ありがとうございます。皇帝陛下にそう言っていただけるとは恐悦至極」
メナがわざとらしく言うと頭を下げた。
オルテとメナもそれぞれコーヒーを口に含む。
「ま、安物だがな。それで、ルシスの方はどうだったんだ?」
「あれから特務団に極秘に調べさせました。入学自体は正規で不正はありません。住んで居るアパートも特に怪しい所もなく至って普通でした」
「こっちも学園では普通に話しかけて来る。なんつうか、大した女だな。ああ言えば普通は逃げるか態度を変えると思ったんだが」
「ああ言えばって一体何を言ったんですか?」
ズズっとコーヒーをすするオルテを見て、メナが聞く。
「店であいつを助けた時に抱き着いて来ただろ? あの時に『オイルの匂いが身体に染みついてるぞ』ってな」
「確かにあの時のルシスは少し変でしたね。てっきりセクハラでもしたのかと思いましたが」
「俺の信用がなさすぎる……」
オルテは軽い溜息を吐き、その様子をフェイは楽しそうに見ていた。
「それでルシスはどうしますか? 一応遠巻きに監視はつけていますが」
「前言った通り、相手の手札が分かるまでは監視程度がいいだろうな。個人なのか組織なのか、組織の場合規模も分からん」
「それと関係があるか分かりませんが、帝都の裏路地で数名の遺体が発見されました。問題はその被害者が店で人質になっていた人たちだという事です」
「……なんらかの口封じっぽいな。やっぱりちょっと普通じゃなねぇかもな」
「ですね。オルテさんの言う通り、泳がせて情報を得る方が得策と言う事になるでしょう」
「そう言うこった。ま、必要なら向こうから接触してくるだろうよ」
そこまで言うと、オルテは大きく背伸びをする。
やがてフェイは少し声を落として口を開いた。
「実は、最近帝国内でレトツールを使った犯罪が増えています」
「そうなのか?」
「主に帝国内であり、リアネム神教国などではあまり変わっていませんが」
「帝国は恨まれてるのかね」
「クーデターで貴族の爵位を剥奪された者は多い。そういう意味では帝都は特に恨まれているでしょう」
「なんにせよ、相手のアクション待ちだな。何も無い方が一番いいが」
「おや? オルテはそんな事言っていいんですか?」
メナの質問にオルテは眉をしかめた。
「なんでだ?」
「ルシスが言ってたじゃないですか。オルテは『旦那様候補』だと」
「え? なんですかそれ? ちょっと詳しく教えて下さい」
どこか含みのあるメナの言い方にフェイが食いつく。
皇帝として普段真面目な話が多い分、噂や面白そうな話が好きだった。
「あんなの冗談に決まってるだろ。馬鹿らしい」
「あれ? でも抱き着かれ時は嬉しそうでしたよ?」
「……たまにはおっさんがモテてもいいだろうが」
「私としては、ぜひオルテさんが彼女の事をどう思っているか聞いてみたいですね! 実際どうなんですか?」
「どうなんですか?」
メナとフェイに詰め寄られ、困ったオルテは逃げる様にコーヒーに視線を落としてチビチビと飲む。
そんな様子を詰め寄る二人は楽しそうに笑いながら見つめていた。
******
時間は遡り……。
爆弾が帝都の外で爆発し、人質が救出された数時間後。
人質から解放された三人の人影が、帝都の人気の無い裏路地である人物を待っていた。
「お疲れ様」
待っている人物がやって来ると、三人は視線を向ける。
「ルシスさん、遅かったじゃないですか」
三人の前にはルシスがおり、待っていた三人は店でオルテたちに命乞いをした男女の人質だった。
「ごめんなさいね。ちょっと動きづらくなっちゃって」
「そうですか。しかし爆弾が爆発しそうになるなんて聞いてませんよ!」
「私たちの役目は助けに来た人を動きずらくする為に、命乞いをして足止めする事なんですから」
「結果オーライ。爆弾は止める事も出来たしね」
「なら報酬を貰いたいんだが? そしてさっささと帝都とおさらばだ」
わざと人質になった三人は、それぞれが顔の割れていない凶悪犯だった。
帝国の情報を犯罪組織に売る事で生計を立て、そのためには殺人も厭わない。
ジョージとは別に雇っていた人物たちで、ジョージには自分を人質にして、爆弾に触れさせるように命令だけしていた。
ただオルテを殺そうとした事はジョージの独断であり、ルシスには関係が無い。
「そうね。報酬を渡さないとね。これで帝都からさよなら出来るわよ?」
と、次の瞬間、ルシスの右手に拳銃が、左手には剣が魔力で形成されて現れた。
それは形状こそ少し違うがメナと同じ物であり、一人は眉間を撃たれ、もう一人は心臓を貫かれ絶命する。
「ひっ ひぃいぃ! な、なんでこんな……」
生き残った最後男性はその場で尻もちをつき、恐怖に慄いた。
そんな男性にルシスは銃口を額に当てる。
「だってお金で裏切る人って、他も裏切るでしょう? それは良くないから、ね」
笑顔のルシスが引き金を引き、男性が死んだのを確認すると武器は消える。
その時、ルシスの背後から赤いローブ姿のフードを目深く被った男性が現れた。
「死体はどうしますか?」
「このままでいいわよ。掃除は気付いた騎士団当たりが勝手にしてくれるでしょう」
「よろしいので?」
「私の事、気付かれちゃってね。あまり動く事は控えたいの。だから、帝都の主要アジトは全て破棄。監視も必要最小限だけ残してね」
「承知しました。しかしルシスさんが気付かれるなんて珍しいですね」
「意外に良い男だったのよ、彼は」
「神宿りだけはあるようです。では私はこれで……」
音も無くローブ姿の男性の姿が消えると、ルシスは軽い溜息を吐いた。
「これだから馬鹿は駄目ね。神宿りだからじゃなくて、彼自身がって事よ」
ルシスは顔を上げると、夜空に輝く月を見つめた。
「今回は良い出会いがあったわ。特にメナさんは。次は確認しないといけないわね。その時を楽しみにしているわ……ね、アイラさん」
そう呟くと、ルシスは満足そうな笑みを浮かべ、帝都の喧騒の中へ姿を消して行った。
~ 第一話 おっさんと女神と生きた兵器 完 ~




