7 爆発オチなんてサイテー
オルテが深い溜息えお吐き終わると、爆弾にゆっくりとさらに近づいた。
「分かった。俺がこれを帝都の外にある安全な場所まで運ぶ。お前たちは騎士団に安全だと伝えて人質の救出を頼む」
「……すみません。貴方を傷付ける方法しかなくて」
「良いんだよ。こういう時この身体は役に立つ。すまないが、爆発地点にフェイも来るように言ってくれ。少し話があってな。じゃあ、ちょっくら死んでくる」
不安そうなメナにオルテは笑って言うと、爆弾と共に瞬間移動して一瞬で姿が消える。
オルテの瞬間移動は限度はあるが、周辺の存在もまとめて一緒に移動する事が出来た。
「オルテ先生は大丈夫なの?」
心配そうにルシスがメナに声を掛ける。
「大丈夫ですよ。死なないので……まずは人質の解放をしましょう」
メナは結界に閉じ込められている人たちに一番奥まで移動するように言うと、両肩あたりから二枚の青い翼を出した。
翼を大きく広げると、ダンスをするようにクルっと一回転する。
先端が鋭い刃物になった翼が、複数あった結界だけを引き裂き人質は解放された。
それから少しして、遠くで爆発音が聞こえる……。
「ルシスさん、騎士団を呼んでもらってもいいですか?」
「貴女はどうするの?」
「私は彼の元へ行きます。そこが私の居場所ですので。では、よろしくお願いしますね」
ルシスの答えを聞く前に、メナは高速で走り出し一瞬でその姿を消す。
「そう……貴女は居場所を見つけたのね。頑張りなさい」
そんなメナをルシスは、どこか優しい目つきで見つめていた。
やがてルシスによって騎士団が呼ばれ、人質の安否確認している中、フロンは爆弾のあった台座を見つめる。
「もしかするとオルテ先生とコアト様の力なら、私の願いを叶えてくれるかもしれない……」
フロンは誰にも聞こえない程、小さい声で悲し気に呟いた。
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帝都から少し離れた平原には、半径50メートルほど焼け焦げた場所があった。
その中央には無傷のオルテが立っている。
正確には爆発で完全に吹き飛んだ瞬間、服ごと再生したオルテであり、この場所へは短距離瞬間移動を何度も繰り返して来ていた。
「ったく、全身吹き飛ばされたのは久しぶりか。ま、なんとか被害は最小限に抑えたな」
地面は焼け焦げ、爆風で燃え尽きた草花がなぎ倒されている光景を見てオルテが呟く。
本来転送系の魔法は超高等魔法であり、魔法陣などで印がない場所への使用は硬く禁じられていた。
理由は目印がないと空間の狭間で迷い消滅するか、出て来た瞬間、座標がズレて肉の塊になる事も少なくない。
「見事な爆殺ぶりだったぞ」
オルテの身体から現れたコアトが、実に楽しそうな表情で言ってきた。
オルテがリスク無く瞬間移動を短距離でも連続で可能のは、コアトの存在が大きい。
神は世界との繋がりが強いため、印がなくても迷子にならず確実に戻って来る事が出来た。
「そりゃどうも。なぜ今出て来た? ルシスを避けていた感じがするが」
「避けていたわけじゃない。会う必要がなかっただけだ」
「知り合いか?」
「さぁな? ただ、私から話す事はない。知りたければあの女の尻を追いかければいい。あるいは、追いかけ回されるだろうが」
「知らないとは言わないんだな」
オルテの問いに、コアトは軽く笑って答える。
「そろそろあいつが来るな。ま、精々慰めてやるといい」
そう言うと、コアトは光の粒子になって消え、
「オルテッ!!」
遠くから声が聞こえたと思った瞬間、メナが思い切りオルテに抱き着いて来た。
「大丈夫ですか! 生きてますか! 痛くないですか!!」
「大丈夫で生きてる事くらい分かるだろうが。むしろお前の馬鹿力で俺の背骨が折れそうなんだがっ」
しかしメナは抱き締める手を緩めず、オルテの胸に顔をうずめる。
「すみません。いくらオルテが不死でも痛みはあります。私はそれを少しでも払う剣だというのに……」
「気にすんな。盾は俺の役目だからな。お前が傷付かなくて良かったよ。無理が出来るのは俺の専売特許だ」
「……」
言いながらオルテはメナの頭を優しく撫でる。
しかし、メナはオルテを抱きしめたまま微動だにしない。
「もういい加減機嫌を直せ……アイラ」
「……っ」
オルテの言葉にビクっと身体を強張らせると、顔をうつ伏せたまま腕を解いて少し離れた。
それがメナの本当の名前だった。
メナの名は、本名を知る前にオルテが付けた名前であり、メナはかつて戦争で多くの者を殺したため、その恨みなどで周りを巻き込まないために普段は偽名を使っている。
そしてその名前を知る者は少なく、大切な時にだけ呼ぶ事がオルテとメナの約束になっていた。
「全く、普段もそれくらいしおらしいと良いんだがな」
「そっちの方が貴方の好みですか?」
「いや、お前はお前でいいよ。張り合いが無くなるし、気持ち悪い」
「……もう一度死にますか?」
メナはいつもの調子に戻ると、拳銃をオルテの顎下に突き付けた。
そんなメナをオルテは笑顔で見る。
「やりたきゃ構わんよ」
「……馬鹿。あと、爆発オチなんてサイテーです」
メナもようやく笑顔になった時、二人を呼ぶ声が聞こえた。
「オルテさん、メナさん。ここに居ましたか。メナさんに呼ばれて来ましたがどうかし……もしかして私はお邪魔でしたか?」
良い雰囲気の二人を見て、フェイが困ったように言う。
「そんな事ないさ。フェイ、お前に至急頼みたい事がある」
真剣な表情で言うオルテにフェイもその表情を変えた。
「私に出来る事でしたら」
「フィオラ自由学園にルシスっていう学生。そいつを徹底的に調べてほしい」
「学生をですか? 今回の件に何か関係が?」
「人質として取っ捕まっていたんだが……妙に臭くて。主にオイルで」
オルテの言葉にメナとフェイが不思議そうな顔をする。
「メナは覚えているか? 学園の中庭であいつが俺に抱き着いた事あったよな?」
「ええ、鼻の下が地面に着くくらい伸びていましたね」
「そんな事はいい。あの時、身体から香水に混じって機械オイルの匂いがした。その時から妙にきな臭く感じてな」
「でもそれはただの偶然では? 女性でも機械を弄る人はいるでしょうし」
フェイが疑問を投げかけた。
「偶然機械オイルのする女が現れて、偶然その女が誘った店がテロリストに襲われて、偶然その女が人質になっていた。要約すればこういう事になる」
「それは……確かにちょっと出来すぎですね」
「おかげで俺たちは店の構造をあらかじめある程度把握していた。実にやりやすかったよ」
「? そのルシスという女性はテロを防ごうとした?」
「どうかな。それだったら最初から騎士団にでも言えばいい。だからどうも気になる」
「分かりました。すぐ身元を調べましょう」
「そう言えば、メナ。なぜ爆弾を解除出来なかったんだ? 妙に驚いていたようだが」
少し顎に手を当てて考えたのち、メナは躊躇いがちに口を開く。
「恐らくバグか何かだとは思うのですが、爆破モードは私よりも上位権限で発動されていたんです」
「メナよりも上位っているのか?」
「私のような戦争末期に作られた兵器は、もう後が無い状態に近かったのでほぼ全ての武具に関してのアクセス権限があります。私より上位はトニス様か、トニス様から特別に権限もらった者くらいでしょう」
「そんな者が存在するのですか?」
フェイに問われメナは首を横に振った。
「分かりません。可能性としては極めて低いので、壊れていたと考える方が自然かと思います」
「そういえば、フィッシャーが持っていた小型爆弾は勝手に爆発したな?」
「あれは小型で威力が低い分、汎用性を優先し遠隔操作できますが、展示されていた者は危険なので直接触れる必要があります」
「そうなると、権限を持ってる奴がどっかで触れたってわけか」
「そうなりますね。ただ、それがいつどこでかは分かりませんが。少なくともその者が近くに居た事自体は事実でしょう。一度触れれば、近距離でなら遠隔操作できるので」
メナから説明を受け、オルテはフェイの方を見た。
「フェイ、人質たちは?」
「ルシスという女性から救助するように言われ、騎士団がすでに安否を確認して家に帰しているはずです。その後すぐに私はここへ来たわけです」
「そうなると、仮に人質の中に犯人が居ても、もうどこかに行ってる可能性が高いな」
「そうなりますね。まずはルシスを調べましょう。指名手配して拘束しますか?」
「いや、するな。仮に当たりだった場合、レトツールに詳しすぎる。相手の手札が分からない以上、下手に手を出すのはヤバイ。見つけても遠巻きで監視がいいだろうな」
「確かに、あの爆弾は帝国が調べても起動すら出来なかった。迂闊には手が出せませんね」
フェイが言い終わると、オルテたち三人はお互いを見て頷く。
「じゃ、今回はこの辺だな。お疲れさん。俺たちは家に帰るわ」
「お疲れ様でした。ルシスの件に関して何か分かれば、家まで伺います」
「城に行ってもいいが?」
「そう言わないで下さい。オルテさんたちの家は、私のサボ……安らぎの場所なんですから」
「今、本音が少し出ましたね。でも、いつでもお待ちしています」
フェイが苦笑する中、オルテとメナは笑いながらフェイに手を上げると、家に帰って行った。




