04
話す相手もいなくなって一人でいると緊張してソワソワする……ソワソワ……部屋に独りになった。
「すみませーん、俺の番はー?おーい忘れられてるー?」
皮膚に汗が滲む。
講習室の明かりが落ちて、部屋のプロジェクターが自動に光を投射する。
「こんにちわ。花木 開くん。私はシフターシンクレティズム研究センター長、兼、防衛事務次官の真壁 嶺司です。君には、シフトコードA92Bc9のシンギュラー適性が出た。したがってレギュレーションの適用権利を剥奪し、適応者花木 開に該当シンギュラーとのシフトを強制する。シフター習合特措法に基づき、この措置は強制です。ご理解ください」
赤・桃・白・灰白の色。
異才を発象させる4種のノーマル核肉(通称マル肉)。
マル肉を内臓に持つシフターはプルーラル(Plural)と呼ばれる。
でもたまに普通じゃない”怪異”を有するヴァリアントが発見される。内臓はシャイニー核肉(通称シャイ肉)と呼ばれる。
──が、さらにごく稀にヴァリアントの中には怪異の中でも一際に強力な”特異”に先覚した怪異物が現れ、其奴をシンギュラーと呼ぶ。
「オレ、血液検査の結果を考慮して可能な選択肢から選別しましたよ」
「性格診断も兼ねていた。持久型最大の強みである睡眠外行動の拡張は控えめに、疲れづらさの強化に傾いた調整異才注射薬を選んだね。快適性を求める安定的な思考と快楽的との報告を受けている」
やっぱり生(Live)。
顔が恥ずかしさで真っ赤に熱くなる。
遠回しに、怠惰だと言われた気がしたからだ。
「スマートフォンなど外部との連絡が可能な手段は一旦こちらで預かる。また、君はこれより特別職の国家公務員として登録される。所属機関の希望や生活規則についての調整など──」
往々にして、シンギュラーの核肉を持つシフターはプルーラル、さらにはヴァリアントと比べてすらも特記すべき異象を持つことが多い。
電気や火に干渉したり、空を飛んだり、超火力の攻撃性の高い一撃を有していたり。
「今朝の一悶着もテストだったんですか。オレのご同輩方ですよね」
「いいや。こちらの報告にも上がっているが、あれは偶然の接触だ」
「あっ!つまりそうして隠してでも国の主要機関が取り合うほどオレには、かなり期待値の高いシンギュラーの適性があったということ!」
「いや……んー、実は君に適性のあったシンギュラーは特異に不明瞭な部分が多い。未知数といえば未知数なわけだ」
「……そんなことあります?」
「であるからして、核肉摂取を終えた後、しばらく特異の研究のため君に協力してもらう。これは他の適応者たちも通った道だ。では、手荷物はすべてその場に置いて廊下へ。案内させる」
オレ、これから何を体に入れられるんだ。
特異によっては、軍属になる。
場合によっては、人権無視の一生軟禁もあり得るんじゃないか。
その手の陰謀論は大好物だが、自分で体験したいわけじゃないぞ。
……荷物を置いて別室へと移動した。
多様な人種が勢揃いの白衣を着た研究員らしき人々に囲まれながら、ナイフとフォークが添えられた銀トレイに乗った黒くて紫の光脈が走る核肉を前に躊躇する。
音もなくうねってる、うゲェ。
「それでは、この核肉を摂取してください」
「これ、どう見ても臓物……」
「お皿の方がよかったですか?」
「ナイフとフォークを添えるくらいなら」
「次からの参考にします」
個々に大きく違った特徴を持つシンギュラーの核肉は培養する方法が確立しておらず、注射ではなく直接の摂食によって体内に取り込む。
──……ごくん。




