第39話
ブツを前にして、補充画面を開く。
「計20個の核肉。最高でグレード2、でもこの一つだけでほとんどはグレード1のマル肉っすね。合計21グリックです」
カエデさんが持ち込んだマル肉をグリックに変換……え、おれが直接さわんねぇとあかんの?
うげぇ、ひさしぶりの気持ち悪い感触、しかも直。
右手でマル肉に触りながら、左手でスマホを操作して補充をクリック。
マル肉は掌から吸い込まれて体の中へ、これを20回繰り返す……んー、そういやなにか大事なこと忘れてるような……なんだろこのモヤモヤ。
「では、本日の核心にいきましょう。人の強化、そしてグレードアップの検証をはじめます」
カエデさん主導で、最新の注意を払い実験を始める。
「バンリくん。車に機材があるので運搬を手伝ってください」
「ほーい」
バンリが店内に運搬したのは、おれが力を入れてもぜんぜん動かないレベルに重い測定器内蔵のダンベル。
このダンベルは主に餅力型の異才測定に用いられるものだ。
まずは今のオレの数値を測り、強化後にもういちど測定を実施する。
強化できる項目は4つ。力、自速、体力。それから特殊。
特殊は視覚、嗅覚、味覚、聴覚、反射神経の項目があって主に感覚系だった。
今日は力の強化のみをおこなっていく。
「1回の強化後の変化は……あまりないですね」
「そうですか」
「餅力型の異象者がシフトした時の変化率の1/1000ってところです」
「それじゃあ千回強化したらおれも餅力型の異才者と同等になれるってことか」
「グレードアップまで残りの9回、強化を進めていきましょう」
「……おわりました。グレードアップ内容は筋力調整力強化」
「グレードアップまでの間に強化した部分をサポートするような内容。もしかしたら強化内容によってグレードアップで底上げされる内容も変わるのかもしれません。では、どうぞ」
体が床から湧き上がる紫と黒の光に包まれる。
……ぜったい床から光が湧きあがった。
オレからでてたらきしょい。
♥1〜♥2のグレードアップ後の体の変化としては、ちょっと体が軽くなったか、いや気のせいか程度。
「だりー。次のグレードアップまでの強化回数が20回になってる」
この辺は機械類と似たような仕様らしい。20の次は30かな。
こうなってくると一々核肉に触って補充──これ改善できねぇかな……これか?
”エリア内の休眠状態核肉を一括で補充可能”……解除条件:バイタルグレード120
「初項0、公差ꨄ︎10、項数120の等差数列の総和だとしたら……ダメだ暗算できん」
「初項0、公差♥1、項数120の総和が7,140なので、実際の総和は71,400」
「ありがとうございますカエデさん」
「どういたしまして」
カエデさん超有能!……にしても数が、ばかじゃなかろうか……かったる!
「これで実績解除ですね」
「そうなんすけどね……先がながいよー」
「さ。アゲハさんがくる前にできる実証は終えておきましょ!」
実績解除──”配置”が解放された。
実行すると物の配置を変えられるが、代わりに動かしたものの耐久値を損耗する機能。
カエデさんはイキイキしてんなぁ。
損耗率によって今後の扱いが決まる大事な局面だから、おれの胃はキリキリしてるんだけどな。
スマホの画面上で配置を決める。
運転中の洗濯機も動かせそうなんだけど大丈夫なんか?
こういうときは、ぼんやりと実行したらどうなるかを思い浮かべてみる。……直感、移動はできるけど運転が止まったりガス・水が漏れる可能性があるって感じかな。
「こちらの中型洗濯機には黒のタオルを、もう片方には白のタオルを入れておきます」
ガスと水の栓を止めてから、中型の洗濯機同士の位置を交換してみる。
配置を実行すると、2台の洗濯機は紫と黒の光エフェクトを放って床に一度吸い込まれた後に再び床から生えてきて鎮座した。
損耗率は10%……わるくない。
今後の店舗ランクアップによって損耗率も下がっていくらしいからいい機能だと思う。
「タオルの色が逆、それに洗濯機に繋がっていた栓の類もすべて正常に接続されています」
「すげぇな。これマジで便利だぞヒラク」
「引越しのときこれがあったらバンリいらなかったな」
「絶妙に刺さること言いやがる」
「とはいえエリア内でしか使えないし、ないより耐久性が落ちるから一長一短。手伝ってもらって助かったよ」
「だろー!」
「でも一階から二階まで一瞬で運べたりするんじゃない?」
「たしかに。フユミいいこと言う」
損耗率は素材を充てれば回復できるわけで、時間と人件費を払うか修復代を払うか、みたいな話になりそうだけど、こればっかりは物と状況によるかな。
「ごめん。仕込み一区切りさせたからすこし遅くなった」
ちょうどいいタイミングでアゲハも着いた。




