01 卉
花木 開。
身長165cmとやや小柄だが普通の容姿のどこにでもいる18歳。
憂鬱な受験生活にシャカリキ入れたくて染めた髪は失敗したクレマ色。
好青年だと周りからはよく言われてる猫被りな、かわちぃ性格。
春十番くらいの風が吹く肌寒い東京の道を歩いていたら、風を切る音に仰げば空を揉み合う男と女が飛んでいた。
男の無手の指輪と女の剣っぽい武器が鍔迫り合いをしながらビルを足場に縦横無尽。
刺突で目を狙うも男のかけるサングラスに弾かれた衝撃で女の元から手離れた刃物が、えぐい回転しながら目前まで迫っていた。
人生はきづけば、あと5秒。
斬られるまでコンマ数秒。
斬られてからは意識を手放すまで4秒くらいに感じるのか。
今日は査定日。
春から大学生。
人生を左右する日、査定不適格以下の悲劇に見舞われる。
剣先が顔に突き刺さると確信できるほど近くまで迫った時、オレの前にスーツの女が颯爽と差し込み人差し指と中指でなんの気なしに白刃どりを決めてみせた。
「ボッと突っ立ってんな!! あっぶねぇ……死ねボケ!!!」
助けてくれた女の口の悪いこと。背丈は170cmちょいくらい、可愛いというよりは美人でなんでもできそうってオーラを放ってるが、怒鳴る姿の堂の入り方はなかなか様になっていて、これはこれで解釈一致だ。
「……助かりました。ありがとうございます」
「そかそか、こちらこそ巻き込んでごめん」
「この御恩は一生忘れません」
「いいの、これが仕事だから。これ名刺、それからバッチ。私は公安です。あのグラサンの方が同僚。で、剣で攻撃してきた方が脱税の被疑者」
「はぁ、脱税……」
「そ。でもね、ご覧の通り怪異者だし令状が出るくらいには凶悪な奴」
後日の新聞では、この日のことが取り沙汰されていた。
被疑者はブラックマーケットに品を流していた。業務上横領の証拠までは上がらなかったが、無申告の収入があって逋脱犯として起訴、逮捕令状が出るも抵抗し今日の事態を招く。
「口が悪いの許してね。被害が出ないよう気が立ってて」
話している間に、獲物を失った女をグラサンが地上まで引きずり取り押さえた。
「君も悪さしないよう。私がすっ飛んでいくから」
脱税したらこの人がすっ飛んでくるかもしれないのか、それもまた、良い。




