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三題噺もどき4

久しぶりの買い物

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくろくじゅうに。

 




 ひゅう、と。

 冷たい風が吹く。

 思わず身震いをした。

「……」

 頭上に浮かぶ月は、端がほんの少しだけ欠けている。

 数日前に満月を迎えたあの月は、これからまた少しずつ欠けていく。

 新月を迎えるころには、更に寒くなっているんだろうか。

「……」

 歩道の所々に立っている街灯は、ガス灯のような温かさはなく、ただ冷たく暗闇を照らしている。寒さも相まって、いつも以上に冷たいような感じがしてしまう。

 夜闇を照らす、ありがたいもののはずなのに。

 ……まぁ私には少々眩しいくらいではあるのだが。

「……、」

 もう一度、風が吹く。小さく声が漏れそうになるほどに、冷たい。

 さすがにこの時間になると、寒さが勝つなぁ。

 秋なんてとうの昔に通り過ぎてしまったようだ。

 気付けば服装は冬仕様になっている。

「……」

 これでもまだ一応11月なのだけど……これから更に寒くなると考えると、先が恐ろしい。

 今でこんなに寒いのだから、12月や1月なんて、私は外に出るのも一苦労かもしれない。

 寒いのはあまり得意ではない。

「……」

 それでもこうして家を出て外を歩いているのには理由がある。

 基本的には、少しの運動を兼ねた散歩でしかないのだけど。

 今日は行く先が決まっている。

「……」

 我が家の同居人に頼まれて、いつものスーパーに買い物に行かなくてはいけないのだ。

 珍しいのかどうかは分からないが、この辺りには一軒しかない、24時間営業のスーパーだ。

 この辺りは場所によってコンビニですら閉まると言うのに、よくやる。

 世話になっているので、そこが閉まってしまうと困るのだけど。

「……」

 大抵は同じ人間が店番をしている。

 基本的には、1人か2人。

 あぁでも、最近は1人しかいないらしい。私の従者が言っていた。

 ―買い物自体はほとんど同居人である従者が行っているから、私はあまり行かないのだ。

 たまに、なにも買い物がなくても行くことがなくはないのだけど、そこまで頻繁には行かない。散歩の先は公園か時々墓場か、それ以外だから。

「……、」

 そういえば。

 その買い物のメモを渡されたはずなのだけど、持ってきていただろうか。

 と、もう店が見えてきた辺りで思いだす。

 まぁ、大抵私が買い物に行くのは、お菓子作りの材料がない場合なので、甘味料だろうけど。

 それにもそれなりに種類があるらしいからな……。

「……」

 斜め掛けの鞄の中身を探る。

 エコバックのつるりとした感触と、財布のざらりとした感触。

 それに……あぁ、あった。折り曲げた紙が端の方に少々くしゃりとなって入っていた。

 買い物が終われば捨てるものだから別にいいだろう。

「……」

 曲げた紙を広げながら、なんとなく買う物を確認する。

 点滅するばかりで信号として機能していない横断歩道を渡りながら、今回は何を作るつもりなのだろうと考えてみる。

 まぁ考えたところで分からないのだけど。

 しかし昨日食べたドーナツはそれなりに美味しかった。少々胃もたれはしそうになったが。

「……」

 店の駐車場に入ると、どうやら外の掃除をしていたらしい人間と目があった。

 が、見たことのない人間だった。

 いつもの決まっていた店員は店の中にいるんだろうか。

「……いらっしゃいませ」

「……」

 どこかぶっきらぼうに聞こえるその挨拶に、軽く会釈をしながら入り口をくぐる。

 自動ドアの開いた先から、あまりにも不釣り合いな店内BGMが流れてくる。

 相変わらずこの店の音楽はよくわからない。

「いらっしゃいませ~……おや」

「やぁ」

 やはり彼はレジにいたようだ。

 こちらにすぐ気づき、ぺこりと頭を下げてくる。

 軽く手を振りながら、目的のモノを探しに行く。

 ……後で、外の人間の事を聞いてみよう。






「久しぶりですね」

「あぁ、そうだな……外にいたのは誰だ?」

「彼は、今日から入った新人です」

「ほう……」

「あまり愛想はよくないかもしれないですが、いい子ですよ」

「……そうか」














 お題:挨拶・甘味料・ガス灯

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