第4話 審問騎士団との遭遇 後編①
血の匂いが森を満たし、呻き声と祈祷の断片が夜気に溶けていた。
震える兵士の声が、かすかにリクの耳に届く。
「た、助けて……! 誰か……!」
嗚咽交じりの祈り。だが救いは訪れない。
銀の鎧に覆われた仲間の死体が転がり、血に濡れた土が赤黒く染まるばかりだった。
エルはそんな光景の中心で、血に濡れた頬を紅潮させ、うっとりとリクを見つめていた。
「やめろ……やめてくれ、エル……!」
リクの声は震え、かすれていた。
「どうして? リクのためにしてるのに」
エルの瞳は涙で潤みながら、それでいて幸福そうに輝いている。
「ねぇ……わがまま、聞いてくれるよね?」
血の滴る指先がリクの頬を撫でる。鉄と土の匂いが鼻を刺し、背筋を凍らせる。
「だったら――リクから、キスして?」
翠色の瞳がまっすぐに突き刺さる。
「それから……“愛してる”って言ってほしいの」
静寂を切り裂くようなその一言に、兵士たちの錯乱した叫びが重なる。
「キスしろ! お願いだから、キスしてやれ! そうすれば助かるんだろ!?」
「キスだ……! 頼む……! 俺たちを救ってくれぇぇ!」
泣き叫ぶ声が森に木霊する。命乞いと同じ熱量での、狂気じみたコール。
絶望にすがる兵士たちの声は、もはや理性を失っていた。
「ほら、みんなも言ってるよ?」
エルは小さく首を傾げ、笑う。
「リク、私のこと好きでしょ? ねえ、好き。好きならカップルだよね? だったら証明して」
甘えるように繰り返す声。
「すき、すき、すき、すき……」と、まるで呪いのように。
リクの胃がひっくり返る。吐き気がせり上がり、口の端から酸味が広がった。
膝が崩れそうになる。
それでも、エルはその惨めさすら愛おしげに見つめ、さらに囁く。
「ね、リク。吐いててもいいよ。泣いててもいい。どんなリクでも、大好きだから」
血と嘔吐と祈りが入り混じる地獄絵図の中で、彼女の声だけが甘美に響いていた。




