表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルで死んだ幼馴染を蘇らせたら、異常な愛で世界が終わった  作者: 辛子麻世
第2章 この世界が、彼女を許さなくても
22/22

第18話 神格査察部隊、到来

 ──霧が裂けた。


 風の流れでも、光の差し込みでもない。

 それは、世界を形作る“記述”そのものが、無造作に塗り替えられていく感覚だった。

 空間の端が削れ、別の文脈が差し込まれるように、現実が軋む。


「……来たわよ」

 低く唸るようなノアの声が、空気を震わせる。

「あれが──“神格査察部隊”」


 白い外套を纏った三人の影が、霧の切れ間から現れた。

 近づくにつれ、周囲の温度や重力すらも微妙に変わっていく。

 彼らは生きているだけで、空気に“ルール”を付与する存在。

 足音が響くたび、世界の文法が更新される。


 Rewriteのさらに上位概念──“神域式記述法”によって、世界そのものを編纂する者たち。


「エル・シェルファリア。ノア=クローディアス。そして……リク」


 真ん中に立つ長身の男が、無機質な声で名前を告げた。

 額に刻まれた、神域の印が淡く光る。

 神域直属《上級査察官》──クライヴ。


「アマギ・リク。Rewrite神格候補として、“適性審問”を行う」


 その言葉に、背中を冷たい汗が伝った。

 人間としてではなく、“世界の情報資産”として処理される感覚が、喉を締め付ける。


「ふざけるな……!」

 ノアが一歩、鋭く踏み出した。

「本人の同意なく、記述査問だと? それは人権侵害だ」


「……神格に“人権”は存在しない」

 クライヴの声は、鉄よりも冷たい。

「記述体としての安定性が最優先される」


 圧に押されながらも、リクは口を開いた。

「俺は……そんなものになった覚えはない!」


 その反発を、まるで合図と受け取ったかのように──クライヴの隣の女が、静かに前へ出た。

 白外套の裾から覗く足取りは、地面に触れるたびに文字列の残光を刻む。


「言語拒否。第壱次抹消措置、開始──」


 彼女の名は、《静句のメモリア》。

 肩までの淡いエメラルドグリーンの髪に、一本だけ深い墨色の筋が走る。

 瞳の奥では、金属光沢を帯びた“文字”がゆっくりと流れていた。

 彼女が口を開くたび、霧の中から音がひとつ、またひとつと消えていく。

 まるで世界が、言葉を奪われていくかのように。


 ──言語削除。それが、彼女のRewriteに付与された制裁能力だった。



「しゃべれなくなる……! リク、避けてッ!」

 エルが叫ぶ。


 瞬間、風が爆ぜた。

 ノアの剣が空間ごと切り裂き、銀光が弧を描く。

 その一閃が、メモリアの腕を裂き、赤い光の粒子を散らした。


「リクは“まだ人間”よ! 強制査問は、神域でも違反だ!」


「……ならば、“人間としての証明”をしてもらおう」

 クライヴの目が、深く細まる。

 一歩、地面を踏みしめるたび、足元から淡い記述光が広がる。


「問う。Rewriteにより、“世界に花を咲かせよ”」

「それができぬなら──“制御不能の神格候補”として削除対象に指定する」


 沈黙。

 リクの手が震えた。


(花……?)

 エルのRewriteの象徴。

 自分は何度試しても、花の代わりに棘だらけの“荊”しか咲かせられなかった。


(無理だ……俺には……)


「リク」

 小さな声が、震えを止める。

 エルがそっと手を握っていた。

 その指先は、ほんのりと温かい。かすかに、花の香りがする。


「思い出して。“咲かせたい”って願った、あのときのこと」

「風が吹いたらいい、空が晴れたらいい……私が、笑ってくれたらいい──そう願ったときのことを」


 胸の奥で、何かが灯る。

 深く息を吸い、心で世界に語りかける。


「咲いてくれ」

「お前が、“咲きたい”と願ってくれるなら──」


 手のひらに、小さな光が集まり始めた。

 荊ではない。棘でもない。

 それは──エルが髪に挿していた、紅の花。


「花が……!」

 ノアの息が詰まる。

 メモリアの目が、見開かれる。

 クライヴの表情に、わずかな揺らぎが走った。


「……Rewriteによる花の記述を確認。記述安定性:暫定合格」


 花は咲いた。

 だが、それは“願い”と“代償”を同時に証明するものだった。


「今回の査問は、これにて終了。次回は神格適性審査──最終段階に入る」

「……そのときまで、生きていれば、の話だが」


 そう言い残し、クライヴたちは霧とともに姿を消す。


 静寂。

 だが、胸に残った鼓動の速さは、誰にも隠せなかった。


「リク……やったね」

 エルが微笑みかける。

 けれど、その笑みの奥には、淡い悲しみが滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ