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スキルで死んだ幼馴染を蘇らせたら、異常な愛で世界が終わった  作者: 辛子麻世
第2章 この世界が、彼女を許さなくても
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第16話 Rewrite神格候補

 ──翌朝。


 空は、鉛色の雲に覆われていた。

 夜明けのはずなのに、光は薄く、まるでまだ夜が明けきっていないようだ。

 ひやりとした湿った空気が、廃教会の石壁を舐める。


 小屋の粗末なベッドで、リクはゆっくりと目を開けた。

 まぶたの裏に残るのは、昨夜の光景──黒衣の女が放った矛と、弾け飛ぶ定義の鎖。


「……夢、じゃなかったんだな」


 枕元の天井は低く、煤けた木板が並んでいる。

 だが、その木目さえも、今は何か別の世界の記述の一部に見えてしまう。

 体は鉛のように重く、筋肉の奥で鈍い痛みがじわじわと広がっていた。


 あの瞬間、自分のRewriteが──いや、それ以上の“何か”が、ラズを拒絶した。

 あれは本当に自分の意志だったのか。


 ドアの隙間から、紅の色が覗いた。


「リク、起きた?」


 エルが顔を出す。

 紅い花を一輪、耳に挿していて、微笑みは柔らかい。

 けれど、その笑みの裏側に、薄氷のような緊張が張り付いているのを、リクは見逃さなかった。


「朝ごはん、作ったよ。……ちゃんと、普通のやつ」


 手にした木の皿には、温かいスープと焼きたてのパン、ハーブを散らした卵焼き。

 立ちのぼる湯気が、曇天の光に白く溶ける。


 だが、皿を受け取るリクの指が、ふと止まった。


「……エル。昨日のRewrite、怖かった?」


「怖くないよ。……びっくりしただけ」


 視線を外すエルの睫毛が、わずかに震えている。

 そして、彼女の手元──細い指先から、赤い花弁が一枚、ふわりと生まれ、落ちた。


 Rewriteと感情が共鳴すれば、エルの力は“花”を咲かせる。

 それは美しい現象であると同時に、彼女自身が最も恐れる“暴走の兆し”だった。


(俺のせいで……)


 喉が詰まる感覚。言葉が出ない。


 エルが何かを言いかけた、そのとき。


「エル、下がれッ!」


 ノアの鋭い声が飛び込んできた。


 直後、壁が低い唸りとともに崩れた。

 瓦礫と粉塵の向こうから、金属の球体が滑り込んでくる。


 それは“観測球”だった。

 表面は鏡のように滑らかで、どこからともなく冷たい光を放つ。

 耳障りな低音の振動が、床板と骨を同時に震わせる。


「……やっぱり来たか」


 ノアが剣を抜き、刃先を光にかざす。

 その目は、かつての無感情ではなく、はっきりと警戒と怒りを帯びていた。


「神は、お前を“観測対象”に変更したんだ」


「リク、お前は……“神に登録された存在”になった」


「今後、あらゆる行動がRewriteとして記録され、世界に影響する。つまり──」


 ノアの声が低く落ちる。


「お前は、もはや“人間”じゃない」


 エルの瞳が見開かれる。

 息を呑む音が、やけに大きく響いた。


「待って、それって……!」


「世界そのものが、リクを神格として定義し始めてるってことだ」


 観測球が低く鳴動し、映像が浮かび上がる。

 そこには、あの黒ローブの少女──ミレイがいた。


「おーい。見えてる? 神域のミレイちゃんです」


 軽い口調。だが、その金の瞳は獲物を見定める狩人の光を宿している。


「リクくん。おめでとー。正式に、“Rewrite神格候補”に登録されました」


「これからの君の一挙一動が、“世界の記述”に影響を与えます」


 そして、唇の端がゆっくりと吊り上がる。


「でもね──それ、“神殺し”対象にもなるってことだから。よろしく!」


 ぱちん、と映像が途切れた。


 残るのは、観測球の冷たい輝きと、重く沈んだ沈黙。


「……俺は、神になんてなりたくない」


 リクは低く呟く。

 喉の奥にひりつくような痛みがあった。


「ただ、エルを守りたかっただけで……」


 ノアの視線が揺れ、エルの指先からまた花弁が零れかける。


(このままじゃ、リクは……)


 エルは唇を強く噛み、そして言った。


「……なら、わたしがRewriteを教えてあげる」


「ちゃんと、制御できるように……私が、あなたを“人間に引き戻す”」


 その声は震えていたが、そこに宿る意志は鋼よりも固かった。

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