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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
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8話 束の間のラブコメ

お待ちかねのラブコメです。

甘酸っぱいやりとりが書けて嬉しいです。

 爽やかな風が吹き、空は快晴。どこからか小鳥の囀りが聞こえてくるような、のどかな土曜日の午前11時。

 俺は女子と2人で洒落たカフェに来ていた。


 1年前の俺にこんな話をしても絶対信じられないだろうな。だってこんなの、まるでデートだ。


 今日は6月10日。昨日の放課後、俺はクラスのLINEグループから秋月を追加して連絡を取った。

 その結果、葛西臨海公園駅前のカフェで落ち合う事になったのだ。因みにこのカフェは俺のバイト先でもある。


 俺たち2人は端の方の席につき、向かい合って座ることにした。バイト先という事もあり、俺はメニューを全て覚えている。今日は甘さ増し増しのキャラメルフラペチーノの気分。

 既に注文を決めた俺は向かい席の秋月へ視線を送る。彼女はメニュー表を熱心に睨みつけている。どうやらストロベリーかバナナのフラペチーノで迷っている様子。どちらも新発売のメニューだ。


 その様子を見て、昨日の砥部の言葉が頭によぎる。

『だったらまずは、秋月さんに悩みとか迷いが無いか聞いてみることです。その雑誌によるとパラドックスの原因は人の悩みや葛藤だと書かれていますから』


「悩みや葛藤……か」

「ん?なんか言った?」


 声が聞こえていたのか、秋月が問いかけてくる。


「いや、お前にも悩みとかあるのかなって思ってさ」

「何それ。突然失礼な」

「いやな、今お前に起きてる超常現象だが、とある情報によるとパラドックスって言うらしいんだ」

「パラドックス……なんか無駄にカッコいい名称だね」

「それは俺も思った。それで、そのパラドックスの原因は人の悩みとか後悔とからしいんだよ」

「なるほど、それで突然悩みを聞いてきた訳か。まあ勿論、私にだって悩みぐらいあるわよ」

「本当か。例えばどんな?」

「ん〜、もっと身長があればいいのに、とか」

「身長……ねえ」


 そうは言っても秋月の身長は別に低くない。本人にとってはコンプレックスなのかもしれないが、現状で十分そうに見える。


「あとはもっと可愛くなりたいとか、頭が良くなりたいとか。そういうのかな?」


 それから幾つか悩みを聞いてみるも飛び出してきたのはそんなのばかり。

 

「うーん、なんか違うんだよな。そういうのじゃなくて、俺が聞きたいのはもっとこう深い悩みなんだよな」

「これでも十分深刻なんだけど!」


 そう言って秋月は机を両手で軽く叩き、抗議の視線を向けてくる。乙女心というのはどうにも分からない。言葉のどこまでが本気なのだろうか。


「悪かったよ。それで他には無いのか?」

「これよりも深い悩みでしょ。それは今のところ特に無いかも」

「……そうか」


 まあ、そりゃそうだよな。こんな関係の浅い奴に真剣な話なんてできないに決まってる。逆の立場なら俺だってそうだ。信用できない相手に本音をぶつけるなんて簡単にできる事じゃない。


 だから今はこれぐらいでいいだろう。そんなに問い詰めても返って逆効果になりかねない。


「とりあえず注文するか」


 停滞した空気を払拭するように話題を変えてみる。それと同時に、呼び出しボタンを押した。

 こぢんまりとした店内にピンポーンと軽快な音が響く。すると、厨房にいた女性店員が俺たちの方へと向かってきた。


「あっ、私まだ……」

「決まってないなら苺の方にしとけ。そっちの方がうまいから」

「そうなの?じゃあそうする」


 さっきから見ていたがどうせ中々決まらなそうだったからな。秋月には悪いけど、わざと呼び出しボタンを押したのだ。

 ただ、苺のフラペチーノがオススメなのは本当のこと。ここで働く俺が言うのだから間違いない。


「お待たせしました」


 それからすぐに女性の店員がやってきた。


「ご注文はどうしましょ……ってあれ?説也君じゃん」


 何度も言うがここは俺のバイト先。無論この女性店員とは顔見知りだ。俺に気づいた店員が声をかけてくる。


 彼女は2コ年上の大学1年生。名前は善光寺 千種(ぜんこうじ ちぐさ)。明るく気さくでなんでも卒なくこなす、完璧な先輩だ。その表現は誇張でも何でもなく、本当に彼女がミスしているのを俺は見たことがなかった。


「お疲れ様です。千種先輩」

 

 因みに善光寺という苗字があまり好きじゃないらしい。なんでも、響きが可愛くないとか。だから下の名前で呼ぶように何度も強制された。今ではこの通り、完璧に躾けられている。


「うんお疲れ。それにしても、女の子と2人きりなんて。さてはデートだな」

「違いますよ」

「え〜ホントに〜?」

「ホントに違いますから。それより、注文いいですか?」

「はいはい分かった分かった。私はお邪魔って事ね。それで注文は何でしょうか。お客様」


 ニヤニヤしながらタメ口と敬語混じりの接客で、揶揄うように千種先輩が告げる。この人がこの状況を楽しんでることは確実だ。


「それじゃあ苺のフラペチーノ1つと、いつもの1つでお願いします」

「はいはい承り〜。それじゃ、あなたもゆっくりしてってね」


 そう言うと、千種先輩は秋月にも目配せをした。それに対して秋月はたじろぎながらペコリと頭を下げる。今の所、パワーバランスは秋月の方が劣勢のようだ。

 それにしても流石は千種先輩。このギャルを圧倒する程のコミュ力とは……。恐るべし、完璧人間。


「ね、ねえ。あんたあの人とどういう関係よ?」


 千種先輩が去った後で、秋月が食い気味で尋ねてくる。


「ただのバイトの先輩だよ。俺もここでバイトしてるからな」

「バ、バ、バイト!?こんなお洒落なカフェで!」

「ちょっと声でけえよ。もう少し静かにしろって」

「ご、ごめん。つい……」


 別にそこまで驚くことは言っていないのだが、彼女の驚き方はどこか過剰だった。


「こんな嫌われ者がカフェでバイトなんて……。やっぱ東京の人はみんなお洒落なんだ」

「ん、なんだって?悪いがよく聞こえなかった」

「いや、別に何でもない」


 反省しているのか、今度はボソボソとやけに小さい声で呟いた。反応からして恐らく独り言だったのだろう。言葉は上手く聞き取れなかった。


「にしても、そんな驚くことじゃないだろ。バイトなんてみんなしてる事だし」

「で、でも校則にバイト禁止ってあったし」

「確かにそうだけど。暗黙の了解って言うのか。流石に堂々とはできないけどさ、バイトについては教師だって黙認してるぞ」

 

 言い終えてから、「お前だってギャルなんだし、バイトの一つぐらいしてるんじゃないのか?」という意味の視線を彼女に送ってみる。


「え、私?」

「ああ。お前はしてないのか?」

「う、うん。だって校則に駄目だって書いてあったから」

「ギャルなのに?」

「べ、別にバイトしてないギャルだっているでしょ!」


 うーん、そう言われてもな。俺の中のギャルのイメージは年がら年中遊んでる姿。放課後は勿論、休日だって遊んでる気がする。

 遊んでるって事はつまり、金をいっぱい使ってるという事。だから必然とバイトもしてるもんだと決めつけていた。


 それに、律儀に校則を守っているギャルというのもなんだか変な感じがする。


「まあ、でもあれだ。校則を守るのはいい事だし、そのままでいいんじゃないか」

「だよね!私別に変じゃないよね?」

「そうだな。別に変では無いな」


 考えてみれば、どちらかというとおかしいのは俺達の方なのかもしれない。暗黙の了解だなんだと勝手な理由をつけて、さも常識のように振る舞っている。歪んでるのはきっと、彼女じゃない。


 それにしても、これからどうするかな。


 俺はチラリと腕時計に目をやった。時刻は午前11時15分。まだ一日は始まったばかり。だというのに、今日の目的は既に達成してしまった。

 出会ってまだ10分ほどだが、聞きたかった事は彼女の悩みや迷いについて。ただそれだけだ。


「深刻な悩みは特に無い」と言われてしまった以上、今の所どうすることもできない。深追いしても不審なだけだ。


 勢いでカフェに呼び出してしまったものの、他に特に話すことも無いし、ましてや何を話せばいいかもよく分からない。

 俺はわざわざこんなとこに呼び出したことを後悔した。電話でも、それこそメッセージ上でのやりとりでもよかったじゃないか。


 ああもうどうすんだ。こんな早く解散するのも不自然だし、なんか悪い気がする。

 なにかに助けを求めるように店内を見渡してみた。すると商品をお盆に乗せ、こちらに近づいてくる千種先輩と目があった。彼女はニコニコと怪しげな笑みを浮かべている。なんだか良くない事を考えていそうだ。


「お待たせしました。こちらストロベリーフラペチーノとキャラメルフラペチーノです」


 彼女はマニュアル通りのセリフと共に商品をテーブルに置いた。その後で何かをエプロンのポケットから取り出した。


「それと、これよかったらどうぞ」


 そして、その何かを机に置いた。俺と秋月、2人の視線は一点に集まる。


 差し出されたのは水族園のチケット。ここから歩いて5分ほどの場所にある葛西臨海水族園のものだ。しかも2枚ある。


「なんですか、これ」

「え、チケットだよ。水族園の。見れば分かるでしょうに」

「そういう事じゃなくて、意図を聞いてるんです」

「いや、それも見れば分かるでしょ。2人で行ってきたらって事に決まってるじゃん」

「行かな……」

「水族園!楽しそうかも」


 「行かないですよ!」と言おうと思ったのだが、その言葉は秋月に遮られた。


 顔を上げるとそこには目を輝かせている秋月の姿があった。まるで純粋な子供のような瞳。期待と憧れに満ちた瞳だ。


「もしかしてお前、行った事ないのか?」

「うん」


 ここ江戸川区にはレジャー施設がほとんどない。区外に行けば遊園地やら映画館なども沢山あるし、電車に乗れば10分や20分そこらで都心まで行ける。

 

 そんな中で唯一誇れる区内の施設。それこそが葛西臨海水族園。国内最大級のペンギン展示場を有し、見所はなんと言ってもマグロの大水槽だ。2200トンの巨大な水槽には190匹以上のマグロが飼育されている。


 幼少期には両親によく連れて行ってもらったもんだ。こどもの日には入場料も無料だし、他に行くところがない区内の子供は全員が行った経験があるはず。だから、彼女のリアクションは珍しいと思った。


「この街に住んでいれば子供の頃に一度は行くもんだけどな。ですよね?千種先輩」

「そうだね。私も子供の頃はよく行ったよ」


 うんうんと頷きながら先輩が少し上を向いた。きっと昔の思い出に浸っているのだろう。


「俺なんて今でもたまに行くし」

「……そういえば言ってなかったわね。私、2年生になってから転校してきたの。だからこの辺のことを全然知らないのよ」

「そうだったのか」


 なるほどな。それなら行ったことが無いわけだ。新鮮なリアクションだったのも納得がいく。

 

 それにしてもどうして俺は知らないのだろうか。責められるべきは俺の人間関係だ。

 転校生が来たらそれなりに騒ぎになるはずだろ。だと言うのに、秋月が転校生だったなんて全く知らなかった。


「まあとにかく、後は2人で決めてね。お姉さんはお邪魔そうだし戻るから。じゃあごゆっくり〜」

「あ、はい。ありがとうございます」


 俺たちに気を遣ったのか、千種先輩が厨房へと戻っていく。一応、お礼をその背中に伝えておいた。

 

 それから俺と秋月は互いに顔を見合わせ、互いに息を呑んだ。気恥ずかしさ半分、どうしたらいいのか分からないという気持ちが半分といった所だろう。


 先に口を開いたのは俺の方だった。少し勇気を出して一呼吸置いてから言葉を口にした。

 

「そうだな。特に行くとこも決めてなかったし、これから行ってみるか」

「え、もしかして2人で?」


 秋月が聞き返してくる。彼女は若干頬を赤らめていて、動揺しているように見える。

 おいおい、ギャルの癖にこんな事で赤面しないでくれ。こっちまで恥ずかしくなるだろ。


「そりゃまあ2人でだろ。チケットだって2枚だし」


 喋りながらテーブルの上に置いてあるチケットに視線を向ける。当たり前だが、やっぱりそこには2枚のチケットが置いてある。


「でもまあ、気分じゃなかったり、俺となんかじゃ嫌だって言うなら無理にとは言わないけど」


 彼女とはまだ数日の付き合いだし、なにより俺は嫌われ者だ。無理強いすることはできない。だから慌てて言葉を付け足した。

 正直な所、断られたら傷つくから予防線を張ったという意味合いの方が強い。自分のために保険をかけたのだ。

 

「別に嫌じゃ無い。ただ、男子と2人で出掛けるなんて初めてだから……」


 俺の予防線に対して、手元のおしぼりをいじりながら秋月はそう答えた。その発言は到底ギャルとは思えないピュアすぎる発言。

 ギャップ萌えというやつだろうか?つい不覚にもドキッとした。

 

「意外だな。ギャルだから遊び慣れてると思ってた」

「だってしょうがないじゃない。転校してきたばっかなんだから!男子の友達なんていないのよ」

「それもそうか。勝手に決めつけて悪かった」

「別に謝らなくていいわよ、怒ってないし。だからさ、その……案内してよね」

「案内?」

「はぁ、ホントに察しが悪いのね。あんたを異性の友達1号に登録してあげるって事。変な秘密も共有してるわけだし、ただのクラスメイトって訳にもいかないでしょ」


 友達か。秋月の態度や口調は相変わらず高圧的だけど、それでも言われて悪い気はしないな。むしろ、どこか心の底で喜んでる自分がいる気がする。


「で、友達なんだから2人でどっかに行くのは変じゃないでしょ。だから水族園を案内してって言ってるの!」

「なんだそういう事か」


 だったらもっと分かりやすく「行く」とひとこと言ってくれれば良いのに。まあでも、この態度が彼女らしいと言えばそれまでか。短い付き合いだけど、少しずつ秋月の事が分かってきたような気がする。


「分かったよ。だったら任せとけ。地元民としてしっかり案内するさ」


 そうして、そんなこんなで俺達は急遽水族園へと行くことになった。超常現象に追われていたはずがこんな展開になるとは。


 これじゃあ本当にデートだな。

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