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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
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6話 馬鹿げた事

 秋月と別れた同日のこと。家が見えてきた頃には17時45分にもなっていた。スーパーで晩御飯の買い物をしてきたため、少し遅くなってしまったのだ。


 通学鞄とは別に食材の入ったビニール袋を握りながら住宅街を歩くと、少し小さめながらも綺麗なマンションが自然と視界に入ってくる。

 マンションは5階建てで、4階の1室に俺は暮らしている。一人暮らしをしている俺にとっては贅沢すぎる建物。


 こんないい所に住めているのにはちゃんと理由がある。

 でもそれは愛情や過保護なんて可愛らしい理由ではない。一言で言うなら、親の見栄や体裁という言葉が合っていると思う。


「あれ?」

 

 エレベーターで上まで昇り、玄関の扉の前に立って鍵を差し込んだところで違和感に気づいた。鍵が開いている。

 今朝は確かに鍵を閉めた。というか閉めるのは最早癖になっている。閉め忘れた可能性は考えにくい。


 となると、可能性は1つ。


 この部屋の合鍵を持っているのは両親と妹の計3つ。両親はまず来ないだろうから、妹に違いなかった。


 既に解鍵されたドアを開き、家の中に入る。下駄箱には放り投げられたように散らかるスニーカーが。俺のものではない。見覚えのある小さめのその靴は、やはり妹の物だ。


「おい桜ー!来てるなら連絡しろよな」

「……」


 どこにいるのかは分からないが、とりあえず大きな声で呼びかけてみる。

 返事はなく、掃除の行き届いた暗い廊下に俺の声が反響した。


 リビングにいるのだと薄々気づいていたが、とりあえず自室に鞄を置いてから風呂場に向かう。朝のうちに掃除しておいたので、ボタンを押すだけで給湯が始まる。


「これでよし!」


 ひとまずやる事は済んだ。手が空いた所でようやくリビングへと向かう。


「おかえり〜」


 扉を開けると気怠そうな声が耳に入ってきた。声の主は逆巻 桜(さかまき さくら)、区立中学に通う3年生。テレビリモコン片手にお菓子を貪りながら寝転んでいるその姿はまさに怠惰そのもの。


「あのなぁ、来るなら一声かけろって」

「まあまあ、可愛い桜が来たんだからそんなに怒らないでよね」

「それもそうかもな。で、急にどうしたんだ?」

「いや、お兄ちゃんが怠惰な生活を送ってるんじゃないかと心配で心配で」

「そりゃあご苦労なこった。俺の方は大丈夫だよ」


 怠惰なのはお前の方だろ、というツッコミを抑えて受け流す。なぜなら桜がそんな理由でこの家に来ないことは分かっていたから。自由奔放でテキトーな奴だ。俺のことを気にするほど面倒見のいい妹では無い。そんなできた妹はフィクションの世界にしか存在しない。

 桜がうちに来るときは大抵、なにかあった時。特に親と揉めた時とかな……。


「また、喧嘩でもしたか?」

「お父さんが悪い!」

「図星かよ。どうせ受験のことだろ?」

「別に、そうだけど……」


 1発で言い当てられた事に不満なのか、口を尖らして答えた。


「私だって頑張ってるんだもん。なのにさ」


 桜は受験生。受験期というのはストレスを抱えやすく、精神も乱れやすい。なにか些細な事でも気になってしまうものだ。それがあの父親ともなると尚更だろう。


 こういう時は深く聞かないのが優しさであり正しい判断だと思う。大抵、不満を口にする人間は答えなんて求めて無い。

 ただ聞いて、受け止めて欲しいのだ。答えなんて本当は当人が1番分かってる。誰が悪くて、何をすべきなのかすら。


「まあ難しいことは言えないけどさ、気の済むまでここに居ればいいよ」

「言われなくてもそうするし。初めからそのつもりだもん」


 相変わらず視線はテレビへと向いたまま、こちらには一瞥もくれない太々しさだ。


「じゃあ俺、先に風呂入ってくるから」


 風呂が沸いた合図のチャイムはまだ鳴っていない。それでも日課のことだ、体感で分かる。体を洗い終わる頃には8分目までは湯が溜まっているだろう。


「はーい」


 テキトーな返事を背に脱衣所へ向かった。慣れた手つきで服を脱いでシャワーを浴びる。後から入る桜に小言を言われないよういつもより入念に洗ってから湯船に入った。


「ふう」


 疲れを吐き出すように自然と声が出た。

 特に何か凄い事をしたわけでは無いのだが、今日は精神的に疲れる日だった。


「超常現象……か。どうしたもんか」


 確かに1年前、俺は同じ経験をした。けれど自力で解決はできず、その糸口も見つかっていない。


「後で桜にも聞いてみるか」


 客観的な意見は重要だ。違う角度からじゃないと見えない物がある。飄々とした桜のことだ、きっと正直な知見をくれるだろう。


「……」


 根拠のない期待を膨らませながら、俺は湯船に頭まで浸かるのだった。

 

 風呂から上がり、リビングに行くと胡座をかいてゲームに熱中する桜がいた。ジャンルはアクション。剣を持った忍者の主人公を操作する高難易度のゲーム。


「足の速い人間が、それより足の遅い人間を追い抜かせない。そんなことあると思うか?」


 プレイ中だが遠慮なしに、桜の背中に疑問を投げかける。

 

「なにそれ、なぞなぞ?」


 画面から目を離せないため、ゲームをしたまま桜が答えた。けれど返ってきたのは質問への答えではなく質問への疑問だった。やはり、俺の言ってる事は常人には理解し難いらしい。

 

「いや違う。現実での話だ」

「つまり、お兄ちゃんの頭がいよいよおかしくなったってこと?」

「それも違うな、俺の頭はもともとおかしい」

「結局おかしいんじゃん」


 これでも真面目に聞いているのだが、返ってくるのは馬鹿にしたようなものばかり。つまり桜は馬鹿らしいとでも言いたいわけだ。


「なあ桜」

「なに?お兄ちゃん」

「俺はな、決してふざけてるわけじゃないんだ。その上で質問に答えてほしい」


 真面目な調子で伝えてみる。それでも桜の態度は変わらない。リモコンから手を離す様子もなく、相変わらず小馬鹿にしているというか、信じていない感じだ。


「質問を変えよう」

「……」

「足の速い人間がそれよりも足の遅い人間に追いつけない。考えられる原因は何がある?」

「ねえさっきから何の話?でもまあ、それなら幾つかは思いつくかもね」


 テレビの画面にデカデカと表示された『死』の文字。ゲームオーバーになった桜がため息をつきながら、ようやく話に乗ってきた。こちらに向き直るその態度は未だめんどくさそうだ。

 

「例えば?」

「怪我をしているとか」

「怪我……か」


 秋月は怪我なんてしてないし、俺の時も怪我や体調不良はなかった。現に俺が陸橋で秋月と対面した時、あいつはかなりの速さで逃げて行った。

 要するに、目の前に誰もいなければ全力疾走をする事だって可能なのだ。怪我という条件は否定していいだろう。


「他には?」

「手を抜いてたら、ありえるんじゃない?」

「……」


 客観的な視点からしたらこれが1番あり得る線。なにか理由があって……弱みを握られていて……、考え出したらキリがない。でも今回はそういうベクトルの話ではない。


「他は?」

「あのねー。さっきからよく分かんないことばっかり!今忙しいんだから後にしてよね」


 少し質問がくどかったのか、ゲームオーバーにイラついていたのか、桜が怒り出した。


「忙しいってゲームしてるだけだろ。それに、それ俺のゲームだし」

「ゲームが終わったら勉強するし。休憩時間も有限なんだもん!」


 まあ、休憩時間が有限というのには納得だ。


「とにかく、何があったのかは知らないけどさ、今は私の部屋に入ってこないでよね!」


 ドンッ、と桜が俺を部屋の外へと突き飛ばした。続け様にバタンと大きな音がして扉も閉じられる。どうやら締め出されたみたいだ。


 それにしても、

「リビングなんだから、いてもいいだろ……」


 それに、親に与えられているという自覚はあるが一応俺の家だし。行く場所のない俺は自室へと戻ることにする。それしか選択肢は無かったし。


 その後、桜は結局一泊していった。


 まともなやりとりは出来なかったがそれでも得たものはある。客観的な視点ではやはり、『馬鹿げてる』という事がよく分かった。


「やっぱり砥部が頼りだな」

因みに桜がやっているゲームはsekir○というゲームです。これは私の趣味です。

また、主人公の一人暮らし設定ですがしっかり理由があります。

父親が格式高い人物のため息子の見栄えを良く保つ必要があるのです…詳しくは後ほど書ければと思います。

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