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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
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4話 真相

いよいよ、少しづつ物語が動き始めます。

ちゃんと恋もしますが、人間ドラマも描かせてください!

SFチックですが、ちゃんと恋しますのでもうしばしお付き合い頂けると幸いです。

「誰も抜かす事ができない」


 秋月玲奈は確かにそう言った。その言い分は支離滅裂で荒唐無稽。なにより、矛盾していた。でもそれは真実だった。

 

 6月8日、木曜日の放課後。

 昨日砥部と話した通り、秋月に用事があったので下駄箱で待つ事にした。

 

 秋月玲奈の周りにはいつだって人がいる。その輪の中に入っていくのは大分ハードルが高い。嫌われ者の俺にとっては尚更だ。


 彼女の帰り際を狙って、体育祭の雑用をこなしてから1階の下駄箱に向かった。まだ校内にいるとは思ったが、念の為秋月の下駄箱を探す。

 扉付きのシューズロッカーには数字が割り振られている。クラスと出席番号を元にした数字だ。例えば俺の場合だと、2年1組で出席番号が11番。だから2111が自分のシューズロッカーという事になる。


 秋月玲奈の出席番号はありがたい事に1番。探すまでもなく最上段の左隅、2101と記されたロッカーが彼女のものだ。


「失礼します」


 他人の、それも女子の下駄箱を覗き見るのは少し罪悪感を感じる。だから、扉を開ける前に手を合わせて一礼をしておいた。

 その様はまるで神社にお参りするかのようだ。だが、ある意味ではその表現も間違っていないと思う。女子高生が履いた靴なんて一種の御神体のようなものだろう。


 扉を開けるとそこには真新しい白のスニーカーが。やはり、まだ下校してはいないようだ。


「この変態!」


 靴を見つけてホッとしたのも束の間、突如として低いトーンの声が昇降口に反響した。ビックリして背筋がピンと伸びる。背後から聞こえた心底呆れ果てたような声に嫌な予感を覚える。

 振り返るとそこには、腕を組んで冷たい視線をこちらに向ける秋月玲奈がいた。その視線はしっかりと俺を捉えている。


 タイミングが良いのやら悪いのやら……いや、最悪だな。これが陽キャの男子ならラブレターでも入れようとしてるように見えるかもしれない。だが俺の場合だとどこか犯罪臭がする。女子の下駄箱を物色している不審者にしか見えない。困った俺は思考をフルで巡らせる。

 ラブレターを渡そうと思った、なんて言ったら信じてもらえるだろうか。いや、無理そうだな……。


「下駄箱からいい臭いがするなんて、女子ってすげえのな」

 

 困った俺は素直で正直な気持ちを吐露した。褒めたらなんとかなるかもしれない、そんな短絡的な思考だった。


「……あんたどういう神経してるの?」


 苦虫を噛み潰したような、不愉快極まりない表情。どうやら俺は選択を間違えたようだ。というか正しい選択があったなら教えて欲しい。きっとどんな言葉を選んでも詰んでいた気がする。


「冗談だって冗談」

「冗談で済んだら警察はいらないわよ」


 それは正論だ。ぐうの音も出ない。だが、警察を呼ばれる訳にもいかないので、話をすり替えるように努めてみる。

 

「まあそう言うなって。本当はお前に用があってここで待ってたんだ」

 

 嘘臭いかもしれないがそれは本当のこと。しかし、こちらを睨みつける瞳には未だ疑いの色が窺える。よほど警戒しているのか一定の距離を保ったまま。


「変態じゃないっていう証拠は?」


 生憎だがそれは難しい。俺は胸や尻よりも太ももやふくらはぎが好きだ。膝裏も好きだし、筋肉質なら尚更良い。そんな性癖を持ってるぐらいには変態なのだから。

 でも、そんな事を言うわけにもいかない。同級生に性癖を暴露したとなったら、それこそド変態だ。どうにかしてこの質問に答えなければ……。

 

「ギャルは俺の好みじゃない。俺のタイプはもっとこう、清楚な感じなんだよ」


 答えにもなっていない回答。それでも、俺の少ない頭ではこの回答が限界。

 

「……あっそ、もういいわ。あんたが馬鹿だって事はよく分かったから」


 納得したというよりは呆れ果てたといった反応。

 これみよがしに深いため息までついている。


「で、馬鹿逆巻は私に何の用?」

 

 これは万事休すか……とも思ったのだが、彼女の口から出たのは意外なセリフ。一応、用件だけは聞いてくれるらしい。秋月玲奈、意外と話の分かる奴なのかもしれない。

 

 俺から彼女への用件は2つ。目的や動機を尋ねる事。そして生徒手帳を返す事。だが、その前にハッキリさせなきゃいけない事がある。


「最近話題のストーカーの噂は知ってるか?」


 噂の不審者が、本当に秋月なのかだ。


「はぁ?いきなり何の話」

「いいからいいから、とにかく答えてくれよ」

「まあ、知ってるけど。クラスでも結構話題になってるし」


 クラスの主要人物である彼女のことだ。噂話だとかの情報には詳しいに決まってる。

 さて、問題はここから。どう尋ねるのが正解なのか、さっぱりイメージが湧かない。


「……」

「それがどうしたのよ」


 黙りこくる俺を見て彼女が言葉を求めてくる。

 けれどもダメだ。やっぱりこれしか方法が浮かばない。

 

「……あれ、お前のことだろ?」


 少し間を空けてから、俺は単刀直入に真正面から尋ねた。どれだけ試行錯誤してもうまく聞き出せる自信が無かったから。

 

 辺りに不穏な空気が漂よう。秋月の表情が固くなるのが分かった。


「あんた頭おかしいんじゃない?そんな訳ないでしょ」


 まあ、予想していた通りの反応が返ってくる。本人だとしたら「はいそうです」なんて易々と認めないだろう。


「第一さ、なんか証拠でもある訳?」


 続け様に彼女が反論してくる。それにしても「証拠はあるのか?」ってそのセリフ、それがもう犯人っぽい。追い詰められた犯人のセリフそのものだ。

 

「証拠なら俺が実際に遭遇したことだな」

「そんなの、どうとでも言えるじゃない。言いがかりもいいところね」


 まあそうだよな。証拠としては弱いし客観性が無い。ならば俺しか知らない情報を出すとしよう。

 

「生徒手帳、無くて困ってるんじゃないか」

「……」

「一昨日の18時頃。学校を出て南の緑道、陸橋の真ん中あたり。これだけ言えば身に覚えがあるだろ」


 その言葉に彼女は顔色を変えた。それから慌てて胸ポケットを2度叩く。どうやら落としたことに未だ気づいていなかったようだ。

 胸ポケットの感触を確認し、生徒手帳が無い事を確かめた秋月が俺の方を恨めしそうに見つめてくる。適当な言い訳で誤魔化せない事を理解したのだろう。


「なんだ、本当にバレてるのね」


 さっきまでとは違うトーンで彼女が呟く。その発言は自供したのと同じ事。やはり、噂の正体は彼女で間違いなかったらしい。


「あーあ、参ったなあ」


 彼女の声は辺りに反響してから廊下の奥へと吸い込まれていく。

 なんだか嫌な言い回しだ。追い詰められた犯人が自暴自棄になって暴れ出す、その直前に言いそうなセリフ。


 そんな訳はないと分かっているが、刺されるんじゃないかとすら思ってしまった。


「とにかく、生徒手帳は返しなさいよね!」


 彼女が手をこちらに差し出して、そう告げた。けれど、相変わらず不遜なその態度になんだか素直に返す気にはなれない。


「なんでこんな事をしてるのか。その理由を聞かせてくれたらな」


 一風変わった犯行の理由には個人的な興味もある。落とし物を返してやるのだから、交換条件に事情を聞かせてもらってもいいだろう。


 鞄から秋月の生徒手帳を取り出してひけらかすようにして見せた。


 その動作に秋月は奥歯を噛み締め、さらに恨めしそうに睨みをきかせてくる。

 

「なによ、馬鹿逆巻の癖に偉そうに」


 それからできる限りの反抗としてそんな言葉を前置いて、いよいよ観念したのか絞り出すように話し始めた。


「別に、私だってこんな大事になるなんて思ってなかったのよ。それにそもそも、私はストーカーなんてしてないもの」


 その言い分はよく分からない。言葉の意図が上手く読み取れなかった。


「どういうことだ?」


 俺の問いかけに彼女は頬を引き攣らせる。

 すぐに答えは返って来ず、なにやら口をもごつかせて言い淀んでいる。その様子から、やはり何か複雑な事情がありそうだ。


「……」

 

 沈黙が数十秒ほど続く。その沈黙を生み出したのは彼女であり、それを終わらせたのも彼女だった。

 ようやく気持ちと言葉の整理がついたのだろう。幾度か咳払いをした後で彼女が口を開く。


「変なのよ……私の体」

「まあ、ストーカーなんてしてるぐらいだしな。確かに変だ、変態だ」

「そう言う事じゃない!それに変態はあんたでしょ。真面目に聞きなさいよ」

「分かったよ。今のは俺が悪かったって。これからは真面目に聞くから落ち着いてくれ」


 少し揶揄っただけなのに、こんなに怒るとは……。なんだか虫のいどころが悪そうだし、もう揶揄うのは辞めておこう。

 

「全く、そんなんだから嫌われるのよ、この馬鹿逆巻」

「いや本当に俺が悪かったのは認めるよ。だからさ、その馬鹿逆巻って呼び方やめてくれないか?一言余計なんだよ」

「……分かった。じゃあこれからは馬鹿って呼ぶわ」

「……もういい、勝手にしてくれ」

 

 一言余計なのは『馬鹿』の方なのだが、こればっかりは揶揄いすぎた俺が悪いか。これ以上無駄話をしていては本題が進まないし、もう受け入れるとしよう。


「それで、体が変って言うのはどういう事なんだ?」

「そのまんまの意味。2週間ぐらい前から体がおかしいの。異常っていうか、なんていうか」

「異常って言われてもな。具体的にどうおかしいんだ」

「どうせ、説明したって理解できないわよ。それに信じないでしょうし」

「それは話してみないと分からないだろ」


 どうせ信じない、その前置きはなんだか妙な気がした。そんな言い方をされたら、こちらも少し構えてしまう。

 

「……まあいいわ。あんたにどう思われようと構わないし。それじゃあ、あんまり気乗りしないけど話すわ」

「ああ、頼む」

「そうね。単刀直入に説明するなら、誰も抜かす事ができないって所かしら」

「誰も抜かせない?」

「そう。抜かさないんじゃなくて、抜かせないの。ほらね、意味が分からないでしょ。でもこれが、これ以上に無いぐらい簡潔な説明なのよ」


 彼女は平然とした態度で淡々と告げる。至って大真面目な様子。


「要するにさ、正体不明の現象。理屈も分からないような異変が起きてるってこと。超常現象って言ったら分かりやすいかしら」

「超常現象……」

「私はただ普通に走ってるつもりなのよ。なのに、前にいる人を追い抜けない。どれだけ全力で走っても距離が縮まってくれないの。歩いている人も、杖をついたおばあさんですらね。まるで、何か見えない力が働いているみたいに。こんなの、科学で説明できない現象でしょう。だから超常現象としか言いようが無いじゃない」

「……」


 彼女の言い分は予想だにしていなかった内容だった。あまりに突拍子も無い話、そんな話を聞かされた俺は驚いて言葉を返せない。

 その様子を見た秋月が、予想通りといった口振で更に言葉を続ける。


「ほらね。こんな話を聞かされたら誰だってそんな反応をする。頭にはてなを浮かべて戸惑うの。だから、そう簡単に誰かに打ち明ける訳にもいかないでしょ」


 なるほど……。その言葉を聞いて、彼女が渋っていた意味がようやく分かった。

 確かにこんな突拍子も無い話、気軽には話せない。一歩間違えれば頭のおかしな奴認定されてしまうだろう。


 そう思うと、俺の追い詰めるような聞き方は少し悪い事をしたような気がする。

 

「それで、こんな馬鹿みたいな話。やっぱりあんたも信じられないんでしょう?」

 

 黙っている俺に彼女が問いかける。

 彼女の表情は依然として平静を装っているが、どこかガッカリしているようにも見えた。


 その表情と口振から察するに、きっと今までにも誰かに相談した事があったのだろう。けれど、誰も理解を示してくれなかった。そして今回も同じだと思ったからガッカリしているのだ。


「いや、信じるよ」

「ええそうよね。やっぱりこんな話信じられ……って、え?」


 ポツリと一言。けれども、力強く思いのこもった言葉を俺は呟く。

 今まで信用されてこなかったのかも知れない。それでも、人の答えも聞かずに勝手に決めつけないでもらいたい。驚きこそしたが、俺は彼女の主張を疑ってなどいない。

 

「誰も抜かす事ができない」、彼女は確かにそう告げた。頓珍漢で支離滅裂な発言だ。こんな事を言われても意味が分からない……普通の人間だったなら。

 別に自分が優れた人間だと言いたい訳ではない。ただ、俺には普通の人間に無いような経験があった。誇れるようなモノではないけれど、その経験があるから彼女の話が嘘では無いと分かる。


「ねえ、あんた今信じるって言った?」


 俺の返答が想定外だったようで彼女が驚いた顔で振り返った。


 靴を履き替え、鞄から交通系ICカードを取り出しているその様子からして今にも帰ろうとしていたようだ。どうせ俺も信じないと見切りをつけたのだろう。


「言ったよ。俺はお前の事を信じる、確かにそう言った」

「ちょっと、あんたねえ。私は超常現象が現実に起きてるって言ってんのよ。それを本当に信じるっていうの?」


 余程俺の発言が信じられないのか今一度聞き返してくる。まったく、そう何度も聞き返して

「お前は信じて欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだ?」

「それは……、信じて欲しいけれど」

「じゃあ素直に言葉を受け取ったらどうだ」

「でも、こんな非現実的な話を。ていうか!あんたの方こそ、どうしてそんな簡単に信じられるのよ」


 そんなの決まってる。俺には信じる以外の選択肢なんて無いのだ。『超常現象』という言葉を聞いたあの瞬間、頭の中で全てが繋がった。


 全ては偶然。噂を聞いたのも偶然だったし、俺がストーキングされたのも偶然。生徒手帳を拾ったのだって勿論偶然だった。


 俺と彼女が出会ったのは奇跡だ。もし出会わなければ、今回の一件はただのストーカー事件で終わっていただろう。

 本当は何もかもが違うのに……。


 超常現象。それはオカルトだとかの類の話。妄言の様で、馬鹿げていて、フィクションの様な話。けれど、俺は知っている。身をもって体験したから。


 不思議な現象、それは実際にあり得ることなのだ。


「俺も経験したんだよ」


 まさかもう一度、この現象と向き合うことになるとは思ってもいなかった。過ぎた事であり、誰も信じてくれなかった出来事だったから。だからこそ、彼女の言い分を聞いた時には驚きを隠せなかった。

 そして、だからこそ俺はなんだか秋月玲奈を放って置けなかったのだ。確信はなかったが、どこか既視感のような物を感じていたから。


「去年の話だ。1年生の頃、俺も誰も抜かせなくなったんだ。お前と全く同じ現象だった」


 去年の夏。茹だるような暑い季節のこと。


 原因不明の現象が俺を襲った。そして俺は()()()()()()()()()()()

 秋月玲奈と同じ現象……その経験がある俺には、彼女の話を疑える訳がなかった。

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