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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
4/40

3話 砥部弥生は頼りになる

少しでも気に入っていただけたら評価・感想等お願いします。

とても励みになり、執筆が捗ります!

 放課後になって、押し付けられていた雑用をこなしてから図書室へ向かった。

 

 錆びついて重い扉を開けるとギギッと軋むような音がする。この音は未だに慣れない。何回聞いても苦手だ。

 それと同時に、最早お決まりのセリフも聞こえてくる。


「また来たんですか」


 声の主は砥部弥生。相変わらず気怠そうに受付席に座っている。


「そんなに嫌そうにすんなって。今日はちゃんと用事があって来たんだよ」


 そう言いながら、俺は定位置となった窓際の席に腰掛ける。それに用事なら本当にある。事実、今日はストーカーの噂について相談しに来たのだ。


「ならまあ、仕方ないです。で、どんな用です?」


 怠そうにしているが機嫌は悪くないようで、砥部はすぐに話題に食いついてきた。ただ、態度は相変わらずで、私を楽しませてみろと言わんばかりの上から目線。


「変なストーカーについてだ」

「ようやく自主する覚悟ができたんですか?」


 こいつは何がなんでも俺を犯人に仕立て上げたいらしい。


「そうじゃなくてだな……犯人が分かったんだよ」

「それはまた突然ですね」

「昨日の今日だしな。俺だって急展開だと思ってるよ」

「それで、全く信用できないですが……一応聞いてあげます。誰なんですか?」

「2年1組に秋月っているんだが、分かるか?」

「ギャルっぽい人ですよね?」


 秋月という少女のイメージはギャルという認識で共通のようだ。


「そう、そいつだ。そのギャルが犯人だったんだよ」

「またまた、そんな訳……」


 真実を単刀直入に告げたつもりだが、砥部は全然信じていない様子。まるで妄言を聞くかのように呆れている。

 それでも俺に出来ることは一つだけ。真剣な眼差しで彼女の瞳を見つめた。目と目が合う。


「……」

「……」


 言葉はなくとも、そこには意思の疎通があった。


 砥部は俺が大真面目だという事をようやく理解したようだ。

 

「一体、この1日の間に何があったんです?」

「昨日の帰り道、お前と別れてすぐだ。バイト先に向かう途中で噂のストーカーに遭遇した」

「つまり追いかけられたってことですか?」

「そういう事だ」

「男の、それも嫌われ者のあなたをストーキングするなんて……やっぱりありえないですよ」

「いやそれが本当なんだって……」


 客観的に見れば、彼女の言っていることは至極真っ当。嫌われ者というのは一言余計だが、俺を追いかけて得られる物なんてあるのだろうか?


「第一、動機はなんだって言うんです?秋月さんはギャルですよ。あの、見るからに頭の悪そうなギャルなんですよ。そんな人がストーカーなんて……」


 よっぽど納得できないのだろう、彼女は少し必死になってそう言った。それにしても、ちょっと言い過ぎですよ砥部さん。その発言は全国のギャルを敵に回してるって。


 でもまあ、言いたい事はよく分かる。俺だって同じ気持ちだ。

 それでも、確かな証拠があるのだから目を背ける事はできない。

 

「動機は確かによく分からないんだけどさ。これを見てくれよ」


 砥部は論理的な人間だ。不確定な要素では物事を信じてくれない、その事は重々理解している。だから俺は物的証拠を手渡した。


「生徒手帳……ですか?」


 砥部がキョトンと困った顔で瞬きを2回。俺は口をつぐんだまま、ページを捲るように手振りで促した。


 指示に従って彼女が流し読みでパラパラとページを巡っていく。全てのページを見るのに20秒も掛からなかった。

 秋月の生徒手帳であることを確認した砥部は訝しげな視線をこちらに向けてくる。この顔は、何かまた良くない想像をしてるのだろう。変な誤解を招く前に事実を告げておくことにした。


「例のストーカーが去り際に落としていったんだよ。これなら証拠として十分だろ」

「確かにその話が本当なら認めざるを得ないです。でも、本当に?」

「ああ、悩ましい事にな。全部本当なんだよ」


 事実は小説よりも奇なりとはよく言った物で、噂の正体を掴んだ所で依然として不可解な事ばかり。謎はどんどん深まっていく。


「ほんと、目的はなんなんだろうな」


 改めて、2人の心境を確認するように呟いた。


「本人には尋ねたんですか?」

「いや、聞いてない」


 随分と簡単に言ってくれる。こんな事、簡単に聞ける訳ないだろう。


「聞いても否定されるに決まってる。それに、考え直してもみろ。俺がクラスのギャルに直接聞けると思うか?」

「それは、無理……ですね」

「だろ」

「なにしろ嫌われてますから」

「……」


 できることなら直接尋ねたいに決まってる。でも、十分な人間関係が構築できていないのだからそれは難しい。


「そういえば、話をしていて思い出したのですが」


 考え事をしていると、砥部が唐突に口を開いた。

 

「どうした?」

「来週から近隣の見回りが強化されるらしいですよ」


 それは淡々とした物言いだった。でも、今後に関わる大事な話でもあった。

 恐らくストーカーの噂を鑑みての対応だろう。きっとどこかで噂が大人の耳にも入ったのだ。そんな話を聞かされたら、大人達は何もしないわけにもいかない。


「妥当な対応だな。でも、そうなると」

「犯人が捕まるのは時間の問題かもしれませんね」

「……だよな」

 

 これが嫌いな人間ならどうでもいいし、むしろ犯人の正体を密告してやる所だ。だが、今回はそうでもない。

 別に仲の良い生徒って訳ではないし、接点がある訳でも無い。おまけにカーストも真逆の存在だ。助けてやる義理なんてものが無い事は明らかなのだが……なんだろうこのモヤモヤは。


 何か引っかかる。胸の中にあるのは微かなわだかまり。彼女の犯行には不明な点が多すぎる。何かやむを得ない事情があるのかも知れない。

 もし重大な悩みを抱えていて、仕方なくこんな事をしていたとする。大事になってから「あの時、俺が話だけでも聞いてやっていたら……」なんてなったら後味が悪い。


 もう後悔だけはしたくない。


「なあ砥部、やっぱり俺さ……」

「なんです?」

「聞いてみるよ。動機とか目的とか」

「それは、その方がいいですけど……ハードル高くないですか?」

「そりゃあ高いさ。高いに決まってる。でも、どうしても気になるんだよ」

「そうですか」

「ああ」

「でしたら結果、待ってます。話が聞けたら私にも教えてくださいね」


 なんだかんだ言って、砥部もこの状況を少し楽しんでいるようだ。人間というのは結局のところ、噂話だとか誰かの秘密とかが好きな生き物なのだろう。

 

「了解だ。それに、どうせまた俺の方から相談させて貰うだろうしな」

「それはご免ですけどね。ていうか私以外に相談相手はいないんですか?」

「なんだよその質問。今更聞かなくたって分かるだろ。俺と話してくれる奴なんてこの学校にお前だけ、これでも頼りにしてるんだ」

「そう……ですか。別に、逆巻さんみたいな嫌われ者に頼られたって嬉しくないですけど」

「そうかよ」


 他愛無い話も交えながら、俺はようやく決意を固めた。秋月玲奈、本人に直接話しかける決意を。

 それに、生徒手帳だっていつまでも俺が待ってる訳にはいかない。返してやらないと困るだろう。


「じゃあそういう訳だから、相談聞いてくれてありがとな。またなんか進展があったら頼むよ」


 そう言って、その日は図書室を後にした。それから正門を出ると、丁度バス停に停車しているバスが見えた。


 都バスは先払い制だ。だからいつものように定期券の機能を有した交通系ICカードをタッチして乗車する。

 銀色を基調として後は電車とバスのイラストが描かれているだけの特に飾り気のないICカードだ。


 そしていざ乗車してみると、他の乗客はお年寄りが数人に子ども連れの夫婦が1組。中途半端な時間だからだろう、学生の姿はなかった。これはラッキーだと、最後部の座席に腰掛ける。


「やっぱり問題は抜かさないのか抜かせないのか……つまり意思の問題だよな」


 川沿いの、すっかり緑の葉を茂らせた桜並木を横目に呟いた。

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