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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
冷たい図書委員の少女が恋する乙女だった件
39/40

37話 シスターパニック

二章がこれにてラストです。

よろしければ評価や感想をお願いします。

励みになります。

「でも、どうして俺は止まった時間の中で動けたんだろうな」


 海岸での決着から一晩明けた、木曜日の放課後。俺たちは図書室で駄弁っていた。いつもの放課後をまた過ごせることに俺は密かに喜びを感じているのだが、彼女にも同じ気持ちがあるのだろうか?

 

「それはきっと……これじゃないですか?」


 そう言って彼女は注射を刺すかのようなジェスチャーを取った。

 何だそれ、可愛いなその仕草。


「注射……か?」

「はい、ワクチンです。恐らく理屈は予防接種と一緒なんじゃないでしょうか?」


 砥部は本当の自分は無能だと評した。確かに彼女が今後時間停止の恩恵を受けることは無くなった。

 しかし、これまで培ってきたものが消えたわけではない。知識は残ったままだ。だからこうして、なんだかんだで相談役として頼もしい存在としてあり続けていた。


 それに、俺は彼女の口から正解が欲しい訳ではない。一緒に悩み、言葉を交わし、共に時間を過ごしたいのだ。だから頼りにならなかったとしても、それはそれで構わないとさえ思う。


「逆巻さんは以前、秋月さんとの一件でパラドックスを克服しました。きっとそれで抗体ができたんです。免疫ってやつですね」

「免疫、かあ……」


 そういうものなのか?免疫についてはちょうど生物の授業でやった所だが、果たしてそれがパラドックスにも当てはまるのだろうか。


「そもそもパラドックスなんて謎だらけですし」


 すると、俺の納得のいかない表情を汲み取ったのか砥部が言葉をつけ足す。まあそれはそうだ。現実に起きてる以上仕方なく受け入れているが、今だってパラドックスなんてものに対して不信感は消えていない。


「ただそうなると1つ確かめなければいけない事があります」

「なんだ?」

「秋月さんです」

「そうか、あいつもそうだったな」

「彼女も止まった時間の中を動けていなければ免疫という理屈は当てはまらないので」

「だとすると、お前の理屈は間違っているのかもな」


 昨日俺は秋月に電話をしている。その際、それとなく変わったことはないかと聞いてみたが思い当たることは無さそうだった。だから恐らく、免疫という砥部の仮定は間違っているのではないだろうか。


「何故です?」

「あいつとは既に1度会話をしてるんだ。普通時間が止まったら相談するだろ。でも、そうしてこなかった」


 自分の推測にそれなりに自信があったからか、俺の言葉を聞いた砥部は少し不満そうに口を尖らした。


「確かに、それなら私の理屈は間違っていそうですね」


 それでも、俺の言葉に渋々納得した様子で言葉を漏らした。

 

「いくら天然な人でも時間が止まったことに気づかないなんて事ある訳ありませんし」


 だな。そんな超がつくほどの鈍感いるわけがない。


「2人ともおつかれー。いやー、インフルが長引いちゃって大変だったよー!」


 と、噂をすればなんとやら。ギギッという音と共に扉を開けて、騒々しい少女が図書室へとやってきた。教室でそれとなく挨拶はしたが、やっぱり体調は快調みたいだ。


「にしてもさ、今回のインフルはなんだか不思議だったんだよねー」


 その高いテンションに若干気圧され気味の俺たちのことなど気にも留めず、楽しそうに秋月は話し続ける。


「なんかね、熱のせいか何回も時間が止まったような夢を見たんだよね。なんかこう、ポワポワして不思議な症状だったよ」

「……そりゃ災難だったな」


 秋月にテキトーな返事を返しつつ、俺は砥部と顔を見合わせて呟く。それも2人ほぼ同時に。


「まじかよ」

「まじですか」


 風邪を引いてたとはいえホントに気付いてなかったのか……。時間停止が夢だと思ってたなら俺にも相談しないわけだ。


「なあ秋月、お前は本当に幸せなやつだな」


 知らぬが仏とはこのことか。俺もこれぐらい気楽に生きられたら楽しいだろうなと、秋月を少し羨む。それと同時にこの明るさが彼女な魅力だと再認識する。

 

「え?その優しい目線は何?いきなりどういうことなの説也君?」

「ええほんと、幸せ者ですね」

「砥部ちゃんまでなんなの?どういう風の吹き回し?ていうかなんか2人とも距離近くない?」


 女の勘ってやつだろうか。物理的に俺と砥部の距離が近いわけではないのに、ここ数日でほんの少し縮まった心の距離の変化を秋月は見事に言い当てる。悪いことはしていないのに、なぜだか心臓がヒヤリとした。


「まあ、とにかくこれで全ての謎は解けたな。俺が止まった時の中を動けた理由まで、全て解決だ」


 意図せずとも、秋月のおかげで飛ぶ矢のパラドックスに対する全ての疑問が解決した。そこで俺は砥部に対して総括を述べた。

 完璧に置いてけぼりをくらった秋月は「え?止まった時?」とか1人で騒いでいるけど今は放っておこう。


「じゃあそういうことで今日のところは家に帰ろうと思う。最近は少し疲れたからな」

「分かりました。ではまたそのうち」

「おう、またな」

「えー、まだ私来たばかりなのに……。もう帰るの?」

「お前も元気そうで良かったよ。何か話があるなら明日の学校で聞くよ」


 俺と秋月は同じクラスだ。話ならいつでも気軽にできる。

 

「分かった。なんだか分からないけど、説也君頑張ってたみたいだし明日でいいや。またね」

「ああ、またな」


 そう言って俺は図書室をあとにする。図書室は1階にあるので下駄箱までの距離は遠くない。少し歩けばすぐに着く。

 そんな下駄箱までの短い道中で俺は掲示板に目を引かれた。以前にも気になった自主制作映画の宣伝ポスターだ。


 映画のキャッチコピーは『この夏、2人の恋が世界を変える!』という安っぽいもの。この前はくだらない文言だと思ったが、砥部との一件を経た今では見え方が違う。


「恋心が世界を巻き込むこともあるのかもしれないな」


 ふと、そんなことを考えた。


 それからすぐに下駄箱へとやってきた俺は、ここ数日の出来事を思い返しながらバスに揺られて家へと帰った。


 正直、色々思うところはある。砥部からの気持ちとか自分の気持ちとか、それから砥部と両親にまつわる関係、自分の両親との問題だったり……。

 だが、飛ぶ矢のパラドックスについてだけ言えば、これでようやく終わったと言い切ってもいいだろう。


 それでもだ。これで全てが一件落着……って訳にもいかないんだよな。

 未だ胸には疑問が残る。4人の諏訪愛菜花だ。これに関して言えば本当に意味がわからん。


 俺にとって害がないから深く考える必要はないのだけれど、それでも気になるものは気になる。


「次は船堀一丁目、船堀一丁目」


 そんな考えごとをしているとあっという間に時は流れていく。気づかぬうちに家の最寄りまでバスが進んでいたことに車内アナウンスでようやく気づいた。


「これ以上考えるだけ無駄だよな」


 俺は終わりのない思考を無理矢理切り上げて座席から立ち上がる。そうしてバスを降りて数分歩くとマンションが見えてくる。踏み慣れた道を行き、エレベーターで4階まで昇る。


 時刻は16時半。夕陽が何かに遮られることもなく、直で廊下を照りつけている。

 眩しさに目を細めながらも俺は自分の部屋の鍵穴に鍵を挿す。すると、手応えがない。


「なんだ、また来てんのか」


 ぽろっと呟いてから俺は既に開錠されていたドアを開く。


 きっと桜だ。逆巻桜、中学3年生のたった1人の俺の妹。俺の家は父と母と俺と妹の4人家族で、あいつはたまに俺の暮らすこのマンションへとやってくる。

 理由はまちまちで、暇だったり家で嫌なことがあったりするとふらっとやってくる。合鍵を持っているので、こうして勝手に上がり込めるのだ。


「まったく、ちゃんと鍵は閉めろよな。お前だって女の子なんだ。このご時世どんなヤバい奴が入ってくるか分からないんだからな」


 家に踏み込むと同時に桜に説教を垂れる。久々に会って1番にする会話ではないと我ながら思いつつも、俺の言ってることは正しいはずだ。

 100歩譲って俺だけが家にいる時に不審者がやってきても良いが、桜が1人の時にやってきては心配だ。


「……」


 けれどそんな俺の心配も桜には届いていないらしい。いつもなら逆ギレで文句の1つも飛んでくるのに今日はそれがない。


 返事がない、ただの屍のようだ。


「もしかして……」


 俺は玄関に並べられた靴を今一度確認する。

 もしかしたら、今朝家を出る時に俺が鍵をかけ忘れたのかもしれない。だから桜は来ていないのではないかと思ったのだ。


「なんだあるじゃないか……あれ?」

 

 だがそんな心配は杞憂で、玄関には白い靴が2足並んでいる。1つは見覚えがある。並んでいるとは言えないほど乱雑に置かれたスニーカーは桜のもので間違いないだろう。やっぱり桜が来ていることは確かなようだ。


 だがもう1つが分からない。サイズは桜のものよりやや大きいため、別の誰かの物だろう。それも綺麗に並べられている。桜の友達だろうか?


 でも普通、友達を連れてくるなら実家に連れてくもんだろう。この家は俺が1人で住んでいるのだから。


 なんだか不思議に思いつつも、靴を脱いだ俺はリビングへと向かう。廊下を少し進んだ所でリビングの電気がついているのが遠目に見えたのだ。

 百聞は一見にしかず。色々な疑問は膨らんでいたが、見れば分かること。友達なら一言挨拶を、彼氏だったりしたら煮て食ってしまおう。

 

 そうしてリビングのドアノブに手をかけてみると中からようやく声が聞こえてきた。


「「おかえりーお兄ちゃん」」

 

 聞こえてきたのはただのあいさつ。だが聞こえたのは2人分の声だ。ピッタリ息の揃った2人の声。


 は?2人……?


 状況が飲み込めず、俺は慌ててリビングのドアを開いて中を覗き込む。

 するとそこには、地面に寝転びながらテレビゲームに勤しむ桜とソファーに座って本を読む見知らぬ少女がいた。


 そして、見知らぬ少女は俺と目が合ってからこう口にするのだった。


「どうしたのお兄ちゃん?なんか不思議そうな顔してるけど」


 もういい加減にしてくれ。いつになったら普通の日常が返ってくるのか……。


 それは、俺に降りかかった3つ目のパラドックスだった。

ここまでで二章が終わりです。読んでくださりありがとうございます。

もう少し話を続けようと思うのですが、ここからは私生活が忙しくなり投稿速度が急激に落ち込みそうです。


そして少しばかり長文を失礼します。

今後は三章を執筆していきますが、その前に閑話を2つ投稿しようと思います。

ひとつ目が砥部と秋月の出会いです。

2人は体育祭が終わった次の日にはもう顔を合わせており、秋月は砥部にお礼を告げているのですが、その描写をまだ描けていませんでした。本編にはあまり絡んでこないただのコメディパートですが、気になった方は読んでくださると嬉しいです。


2つ目は砥部と逆巻の出会いについてです。砥部が逆巻に惚れるきっかけとなった出来事もしっかり描いていきたいと思います。

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