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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
冷たい図書委員の少女が恋する乙女だった件
37/40

35話 存在意義

二章はラスト3話です。

最後まで読んでくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。

「私はなんにも成長していませんよ。だからパラドックスなんて現象が起きてるんじゃないですか」


 やっぱり砥部は分かっていない。この言葉がその証明だ。

 だとしたらパラドックス解決への道はきっとそこにある。だから俺はさっきと同じ言葉を繰り返す。


「それだよ。それが勘違いなんだ」


 砥部はやっぱり大きな勘違いをしている。


「私は変わらない、なんて言うけどな。変化ってのは別に良いことばかりじゃないだろ」


 そう、変化とは全てが良い結果になるとは限らない。悪い方向に転ぶこともあれば、またそれが転じて最終的にプラスになることだってある。とにかく、良いも悪いも含めて変化なのだ。

 

「入学当初のお前は真面目で礼儀正しい奴だったよ。でも今はどうだ?しょっちゅう俺に悪態をつくようになったよな。時にはひどい罵倒までしてくる始末だし。お前の見下すような視線と、扇状的な黒タイツにはつい新しい扉が開いてしまいそうになるよ」


 俺が足フェチに目覚め出したのも思えば砥部と話すようになってからからもしれない。そういう意味では既に新しい扉は開かれたような気もする。

 

「この期に及んで私を怒らせたいのですか?」


 俺のふざけた発言に砥部はキッと鋭い視線を向けてくる。でもそれで良い。これが狙いなのだ。

 

「そう、その視線だよ。入学当初のお前はそんな顔しなかったからな。これでも結構お淑やかな奴だと思ってたんだぞ」

「本当はお淑やかな人間じゃなくて悪かったですね」


 俺の本心をありのままに伝えた言葉は簡単にあしらわれていく。だが、その態度こそが答えなのだ。知り合ったばかりの砥部は悪態なんてほとんどつかなかった。

 

「分からないやつだな。つまり、俺が言いたいことはだな……。お前、ちゃんと変われてるぞってことだ。それも大分悪い方向に」

「それは逆巻さんが変な人だからでしょう。あなたのせいですよ。あなたがふざけたことばかり言ってくるから」

「そう。俺のせいかもな。でも、今自分でも認めたろ。お前は悪い方にちゃんと変わってる。大丈夫だ、少しずつ変われてるんだよ」

「ふざけないでください!そんなの屁理屈です!」


 怒った顔で砥部が叫ぶ。口調こそいつも通りだが、そこに込められた感情は重い。


 そして、彼女はもう1つ勘違いをしていることがある。それを今から俺は突きつける。


「それにだな。そもそも別に変わる必要なんてないんだ」

「え?」


 この発言は予想外だったのだろう。砥部は困った顔で言葉を詰まらせる。


「お前が有能だから、なんでもこなせるから、だから俺が一緒にいたとでも思ってるのか?」

「違うんですか?」

「ああ違うとも」

「そんな……。だって今までずっとそうだった。結果を出さなきゃ、有用性を認めてもらえなければ存在価値など無いに等しい。そうやって育ってきたんだ私は!」


 砥部が結果や成果に執着する理由、それが未だ分からなかった。だが今の言葉で納得した。

 それにしても、原因の1つが親との確執だとはな……。まったく、どこの家庭にもある物だな。


 俺は自分の両親を思い浮かべる。

 

 俺の父親は区議会議員をしている。責任と威厳ある立場につく父親と俺の間には大きな確執がある。

 ふと、どこか自分とはかけ離れた存在に感じていた砥部を近くに感じた。彼女も1人で苦労を抱えていたのだろう。


 だとしたらやっぱり俺は彼女の力になりたい。俺と彼女は少しだけ似ているのだ。


「有用性だって?アホらしい、俺にとってはそんな事どうでも良いことだな」

「どうでもいい……ですか?」

「そうだ。役に立つとか立たないとか、そんなの小さい事だ」

「そんなの嘘です!」

「嘘じゃない」

「だって私のお母さんとお父さんは……私が何を為したか、その結果しか見てくれなかった。逆巻さんだって私が役に立つから話しかけてきたのでしょう?」


 親からの重圧と周囲からの過剰な期待。それは心に大きく負担を与える。

 そして、俺もそれを与えていた1人。役に立つから話しかけた……それは全くの間違いではない。彼女に頼りすぎていた俺の過去は消えない。


「確かに、俺はお前を頼れる奴だと思ってた」

「やっぱり……」


 俺の肯定を聞いて砥部は力無く肩を落とす。だが、話はこれで終わりじゃない。俺の言いたいことはまだある。むしろ本当に大事なのはこれからだ。

 

「あのな、だからってそれが理由で一緒にいた訳じゃないぞ」


 頼りにしていたのは数ある要素の一つに過ぎない。

 

「じゃあどうして?」

「俺なんかとまともに話してくれたから」


 虚になっている砥部に向けて、俺は一言一言搾り出すように言葉を投げかける。


「他の女子と違って気を遣わなくていいから。一緒にいて楽だから。それになにより楽しいから。だから一緒にいたんだ」


 俺は去年の夏を期に集団から孤立した。だというのに砥部は俺の元から離れなかった。これまで通りそっけなく、気を遣わず、冷たく、そして温かく接してくれた。

 俺にとって便利な人間だからとかじゃない。砥部が近くにいてくれるから俺は前を向けていたのだ。


「じゃあ、本当の私のままでも……時間停止もなくて頼りにならないような私だったとしても、それでも良いって言うんですか?」

「そうだ。こんな恥ずかしいことを面と向かって言わせるなよな」


 こんなのまるで告白のようなものだ。口にしていて体がムズムズする。ありがたいのは、日が傾き始めたおかげで俺たちの顔を夕日が照らしていること。

 海面に乱反射したオレンジの光が俺の顔色をうまく隠している。恥ずかしくも本心を告げたんだ、顔が赤くなっていてもおかしくない。砥部にそんな顔を見られてはたまったもんじゃない。

 

「メリットとかデメリットとか、人間関係なんてそんな言葉で括れるほど簡単じゃないだろ」

「じゃあ私……、私はここにいてもいいのでしょうか?あなたと一緒にいてもいいんですか?」

「お前がそうしたいなら構わない。俺もそうしたいから一緒にいるだけだしな。好きとか嫌いとか、楽とかめんどくさいとかさ。動機なんてそれで十分だと俺は思うよ」

「でも私はあなたを裏切ったんです。ずっとずっと騙し続けてたんです。それなのに今更一緒にいる資格なんて……」

「あのな、俺が今まで何回裏切られてきたと思ってるんだ。それぐらい今さら痛くも痒くもないって」

 

 砥部が何に悩んでいたのか、その全貌や心の奥底にある気持ちまでは分からない。全てを分かってやることなどできないし、そんなの傲慢だ。

 でも、自分の気持ちに正直に生きる。それは何よりも大事な事だ。俺だってそのことに気づけたのはつい最近のこと。


 そして、そんな気持ちになれたのならパラドックスは収束へと向かうはずだ。

 

「ありがとう……ございます。じゃあ私、私も逆巻さんと一緒にいたいです。これまで過ごして来た時間は私にとっても楽しかったから」

「そうか。それはよかった。この期に及んで俺との時間がつまらなかったなんて言われたら卒倒してた」

「何を馬鹿な事を……。ほんとそういう軽薄な所、あならしいですね」

「だろ、俺らしいだろ。でもお前だって、その遠慮無しに小言を言う感じ、実にお前らしいぞ」

「私らしい…ですか」


 気づけばすぐ近くの岩岸に打ちつける波は穏やかに、日暮れのせいか蝉の声も小さくなっている。


「なんだか少し、胸が晴れました」

「なによりだな。それでどうだ?今でも何がなんでも変わりたいだなんて思うか?」

「それは正直なところ分かりません。でも、今すぐに変わる必要はないような気がしてます。ゆっくりと私は私にできることをやって、いつか両親に胸を張れたら良いと思います」

「そうか。それはなんというか立派な心がけだな」


 その答えが聞けたなら大丈夫だろう。会話をしながら俺は安堵する。

 弱い自分を受け入れて、向き合っていく覚悟を決めたのだ。これを成長と呼ばずしてなんと呼ぶのか。


 これで時間停止にまつわるパラドックスは解決、明日からはまた平穏な日々に戻れるだろう……そんな気がしている。


 目の前の砥部の笑みを見れば、それは更に確信へと変わった。


 諏訪という存在についての疑問は残るが、これでここまで続いた『アキレスと亀』と『飛ぶ矢のパラドックス』という2つのパラドックスは丸く治った。


「そろそろ帰ろうか。もう暗くなるし、駅まで一緒に行こう」


 俺は彼女に声をかける。そして俺が半歩先を行き、砥部が追うように後ろを歩く。


 この歩みは俺たち2人にとっての再出発点のようなものだろうか。まるでそれは、新しく関係性を築くそのスタートラインのようだと不意に思った。


 それから、彼女の小さな歩幅に自然と合わせながら歩くことわずか10歩ほど。

 こんな今まで通りの俺たちの距離感の何が面白いのか、やたらと嬉しそうに微笑む砥部。


 ――そして、その微笑みはたった今消え去った。


「まさか……」


 彼女はそう呟くと、慌てて辺りを見回す。つられて俺も同じように辺りを眺めてみる。


 状況はすぐに理解できた。もう慣れていたから。

 

 真っ先に異常だったのは音だ。気づけば波の音も風の音も聞こえない。人の話し声や蝉の鳴き声だって当然聞こえてこない。


 もう終わったはずのその現象。

 時間停止は今まさに起きていた。


「どうしてだ。パラドックスは解決したはずじゃ」

「そんな……、私だって自分の本音を話しましたよ。それで打ち明けて、今はこんなに胸の奥が澄んで……。あ!」

「どうしたんだ?」


 妙な所で砥部は言葉を詰まらせる。


「……そうですか。それですか。そういうことですか」


 言葉の意味は全くわからない。だが、何か心当たりがあるらしい。いや、無ければ困るのだ。そうで無ければこれ以上の解決策が分からない。


「今度はそうきますか。いえ、本当はこっちが本題ってわけですか……」

「なあ砥部、いったい何がどうなってるんだ?」

「すみません逆巻さん。ちゃんとここでケリをつけます。終わりにしますから」


 ケリをつける。それは俺が砥部を呼び出す時に使った言葉。砥部にはまだ何か、心にひっかかるものがあるというのだろうか。


「私、勇気を出します。だから、少しだけ時間をくれませんか?」


 勇気……?いったい何のことだ。

 事態は飲み込めていない俺だが、不幸中の幸いにも今は時間が停止している。どれだけ待った所で時間が進むことはないわけで、帰りが遅くなる心配もない。となれば彼女の望みを拒否する理由はないだろう。


「よく分からないが、分かったよ。好きにしてくれ」


 俺は彼女に勇気が出るのを待つことにした。


「……」


 その間、俺は黙って彼女を見守っていた。だが結局、体感で10分、20分と待っても彼女が何かを話し始めることはなかった。

 何かを言おうとして言葉が出ない、そんなことをもう何度もやっている。


「なあ、なんだか分からないけど、そんなに無理するなよ」


 気温は30度近くある。だが、暑さのせいではないだろう。冷や汗のような嫌な汗を額に浮かばせ、苦しそうな表情を砥部はみせる。そこまで無理をする理由が俺にはいまだに分からない。


「それに、何か分かってることがあるんだったら、そろそろ俺にも教えてくれないか?」


 再び起こった時間停止。その原因に心当たりがありそうだったので彼女に従い黙っていたが、そろそろ待ち続けるのも限界だ。


「もう少し、もう少しなんです。あと少しで」

「だからあと少しって、何があと少しなんだ?俺にも何かできることがあるなら協力するからさ。いやむしろ協力したいんだ。等身大のお前の姿を知ったからこそ、同じ目線に立ちたいんだよ」

「勝手なことばかり行って……。そもそも、やっぱりこれは逆巻さんに原因があるんですからね」


 無言をすこし貫いてからボソリと砥部が呟く。ギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの声量だ。


「ええ、分かりました。分かりましたとも。じゃあ協力してもらいますよ」

「ん、でどうすればいい?」

「私の手を握ってください」


 そう言って突然彼女は両手を俺の方へ差し出す。


「は?今なんて?」

「だから手を握ってくださいって言ってるんです」

「いやいやどうして?それに何の意味があるんだよ」


 その頼みはすぐに「はいそうですか」とはならない。だって、そりゃそうだろう。

 女子の手だぞ。普通に繋いだことすらないんだ。急に言われたって困る。実に困る。だって料金制かもしれないだろう……というのは冗談だが、実際金がかかってもおかしくない。


 なにより、砥部弥生は性格こそ難しいが、学年の男子からは密かに人気がある。そんな彼女に迫られたら、気が引けてしまうのは仕方ないことだ。


「勇気です。あなたが握ってくれれば勇気が出るんです」


 表情はほんのり赤く、体を震わせる砥部は至って真面目な瞳で俺を見つめている。どうやらふざけているわけではないらしい。


「……分かったよ。後で痴漢だなんだとか文句を言うなよ」

「言いませんよ……そんなこと」


 これまで何度も繰り返してきた軽口のたたきあいをしながら、恐る恐る彼女の手を取る。細く、冷たく、そしてその芯はほんのり温かい。


「で、これでなにか変わるのか?」


 恥ずかしさを悟られないよう、やや強めの語気で尋ねる。

 

「はい、変わります。おかげで勇気が湧きました。逆巻さんの手って意外と安心感があるんですね」

「そうか、だったら早くしてくれ。じゃないと空気が持たないからな」

「ですね……。実は、パラドックスの原因は先ほどのやりとりだけでは不完全だったみたいなんです。だから今度こそ、ここでケリをつけます」


 そうして彼女は今一度深い深い深呼吸をすると、今日イチの爆弾発言を口にした。


「私はあなたが好きなんです」


 停止した時の中で、俺たちは世界に2人きり。紛れもなく、砥部の話し相手は俺で間違いない。


 つまり、俺は告白を受けたのだった。

超ラブコメしてます!

佳境です!

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