32話 待ち人
放課後、俺は海岸で人を待っていた。
江戸川区の南端にある葛西臨海公園の最も南、つまりここは江戸川区の最南端。そんな東京湾に面した海岸線で、俺は水平線を眺めて立つ。
そろそろ約束の時刻だろうと、スマホを取り出すも、海面に反射した夕陽のせいで画面がよく見えない。
ひたすらに橙色の光だけが視界に入り込んでくる。その光は思わず見惚れてしまうほどに美しい。それこそ、時間なんてどうでも良くなってしまうほどに。
そうして海の方を眺めていると後ろの方から足音が聞こえてくる。
なるほど、俺の体内時計は正常も正常。今がちょうど17時半で間違いないようだ。なぜなら彼女は待ち合わせ時間ピッタリに来る、そういう性格だから。
そして、その人物が来たということは俺の希望は見事に打ち砕かれたことを意味する。だからつい、ため息が溢れ肩が落ちる。
できれば彼女には来ないで欲しかった。俺の予想は外れていて欲しかったのだ。彼女がパラドックスを起こしていたというならそれは、俺にとっては裏切りと同等だ。
だが、この場所に現れたということは残念ながら俺の推測は正しかった。これでとうとう、何度も何度も……何度も固めた決意を行動に移すしかなくなった。
今日この場所でケリをつける。それは確実な決定事項だ。
俺が彼女に伝えたメッセージはこう。
「今日の17時、葛西臨海公園南部の海岸で待っている。もし、お前が俺の予想通り時間停止を巻き起こしている張本人ならそこに来てくれ。そこでケリをつけたい」
気合いを入れる意味でも俺は息を深く吐いてから、思い切って振り返る。
するとそこには黒いローファーと見慣れた制服に身を包み、長い黒髪を潮風に靡かせた少女。
砥部弥生が立っていた。




