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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
3/40

2話 ストーカーの正体見たりクラスのギャル

少しでも気に入っていただけたら評価・感想等お願いします。

とても励みになり、執筆が捗ります!

 目的のカフェまでは一本道だ。緑道を抜けて、首都高速湾岸線を跨ぐ陸橋を越えればすぐに辿り着く。この時間なら、陸橋の上からはライトアップされた観覧車がよく見えるはずだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、タッタッタッという足音が聞こえてきた。嫌な予感が一瞬よぎる。あんな噂話を聞いてしまったから。


 足音は俺の背後で鳴っている。しかも、だんだんと近づいてきていることは確かだった。


「まさかな」


 自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 冷静になって考えてみろ。背後からの足音はストーカーにしては軽快すぎる。足取りは軽やかでリズミカル、普通に考えてランニングをしているに違いない。

 不審者なら、もっと重くて威圧感のある、詰め寄るような足音をしてるはずだ。


 ここは緑道、車も通らないしランニングをしている人がいるのはいつものこと。実際、朝なんかにはよく見かける。ランニングをするなんて見上げた心がけではないか。

 健康増進、体力増強、前向きな心がなければとても継続できない。顔も知らぬ他人だが、本来ならその努力を褒め称えるべきだ。しかも足音から察するにかなりのペース。これじゃあ相当キツいだろうに、尚更見上げた奴だ。


 それになにしろ俺は走る事の辛さも継続する事の辛さも知っている。いけないいけない。くだらない噂を聞いたせいか、つい疑り深くなっていた。そうして心の中で反省しながら更に歩く事5分。視界が一気に明るくなった。

 顔を上げて見ると、並木道を既に抜けていた事に気づく。木々が遮っていた月の光もここからならよく見える。と、この時俺は辺りが暗くなっている事にようやく気づいた。


 月明かりで夜の訪れを知るとは、我ながらなんと風流なことだろう。そんな趣味は無いが、なんだかいい句が詠めそうな気がしてくる。


 そしてそんな妙な気の高まりも、陸橋を上ることでピークに達する。


 この陸橋は高速道路と一般道を合わせて15車線以上もの道路を跨いでいる。かなり立派な橋だ。よって上るのは意外と疲れるし、高さも割とある。だがその分、橋の上から見える景色は圧巻だ。


 橋を超えた先、俺が目指しているバイト先は駅舎に併設されている。あと1分もせずに着くほど近くにある。

 その駅の名は葛西臨海公園駅。つまり、橋を超えた先にはその駅の名を冠する公園もあるわけだ。


 というか、橋を超えた先には駅と公園しかない。ここは江戸川区の南端。そもそも江戸川区というのが東京の東南端にあるわけで、さらにその端なのだから最果てという事になる。

 公園の南側は海岸となっており一部には砂浜も広がっている。面しているのは東京湾。お世辞にも綺麗な海とは言えないが景色は悪くない。


 そして葛西臨海公園最大の名所と言っても過言でないのが今見えているこの絶景。ライトアップされた観覧車だ。


 ライトアップされた巨大な観覧車と高架を通過する京葉線の電車は夜の闇によく映える。そして橋の中腹あたりのこの位置から見るのが1番綺麗だと俺は思う。

 しかもだ。更にタイミングが合えば、お隣の舞浜にある世界的知名度を誇るテーマパーク。その花火を同時に拝む事だって可能だ。

 

 現代に芭蕉がいたのなら、旅の途中できっと寄り道したに違いない……たぶん、恐らく。


「やっぱいい眺めだな」


 優しく光る夜景につい声が漏れる。並木道を抜けた実感から安心感が満ちてくる。明るい場所に出るとやはり落ち着くな。

 そして落ち着くと、今度は冷静さが一気に身体中を巡っていく。


 今ではもう「さっきまでの心配はやっぱ杞憂だったな」などと、強がりを考えている。人間とはなんて短絡的なのだろう。


 とは言え、やっぱり噂は結局どこまで行っても噂のようだ。緑道をゆっくり歩いてきたが、不審な事は特になかった。


 最初のうちは不審だった背後の足音も変わらず軽快なままだ。軽やかに辺りに響いている。どんな人物だか知らないが、一切ペースを崩さず頑張っているようで素晴らしく思う。

 ランニングを頑張る姿に心の中では応援の感情すら湧いていた……って、あれ?


「なんだ……これ?」


 なんとも言えぬ不快な違和感に歩みが遅くなる。言葉も無意識に口から出た。

 今の今まで心にあった余裕は一転し、心臓の鼓動を早めていく。首都高を走り抜ける車の音がハッキリと聞こえる。体中から嫌な汗が吹き出してくる。


 そうして橋の中腹も過ぎた辺りで俺の体に嫌な予感が走った。


「なんか……変だ」


 目の前を丁度電車が通過して行く。東京駅方面へと向かう電車だ。ガタゴトという電車の音は不気味さを一層際立たせる。


 それから少し遅れて、俺はようやく冷静さを取り戻す。その間も背後の足音は鳴っていた。俺の歩みが遅くなっていた間もずっと、ずっと鳴っていた。依然として速いペースのままで……。


 それが意味することは1つ。


「どんな時も全速力で追いかけて来る。そして、絶対に抜かしてこない」、砥部から聞いたストーカーの噂が脳裏によぎる。

 間違いなくこいつがそうだ。そう確信したものの、ある違和感が拭えない。


 なぜなら1つ、おかしな事があったから。いや、おかしな事は何も今に始まった事ではない。


 どうしてそれに気づかなかったのか。それが悔やまれる。


 俺は不安で俯いていた顔を上げる。視界には光り輝く観覧車が煌々と映る。さっきまではあんなに美しく思えたのに今ではなんの感動も湧いてこない。そしてそんな観覧車を見ながら俺は思考を巡らせる。


 俺の背後にいる人物は走っている。足音からしてそれは確実だ。そして俺は歩いてここまでやってきた。それも今の歩くペースは大分遅い。これも事実だ。

 

 緑道を歩いていたのは時間にして5分ほど。


 つまり何が言いたいのか。5分もあったなら背後の人間は俺を抜かせたはずだ。いや、話はそれほど単純ではない。

 走っていたのなら、俺より速度は速いことになる。ならば、()()()()のではなく、()()()()()()()()()はずなのだ。

 

 走って追いかけていたし、抜かしても来なかった。噂と一致している事からストーカーの犯人はこいつで間違いない。


 ただ、気づくべきだった。噂を聞いた時点で疑問に思うべきだった。

 「どんな時も全速力で追いかけてくるのに絶対抜かしてこない」、その言葉自体に矛盾があった事に。


 速度で勝る物は劣る物をいつかは追い抜く。同じルートを辿っていたならそういう結果になる。

 もっと分かりやすく、例えば時速80キロの車が時速40キロの車を追ったとしよう。全く同じ軌跡を辿って追ったなら、追突は避けられない。それは物理的に当たり前の話だ。


 だが現実はそうなっていない。とすると、なんだか現在の状況は理解の範疇を超えている。異常や超常という言葉が相応しい気がする。


 そして異常に気づいた俺はようやく後ろを振り返る。

 事件に巻き込まれてしまうのでは、そんな恐怖もあったが好奇心が勝っていたのだろう。


 何が起きているのか。はたまた誰が、どんな目的で、どんな理屈でこんな事をしているのか気になって仕方がなかった。


「……え?」


 振り返って、思わず驚歎の声が漏れ出る。夜の闇の中で月明かりに照らされていたのは小柄な人物。顔を見られないように右の手のひらで隠している。


 隠しているのだが、それでもこれだけは分かる。頭隠して服隠さず、そいつはスカートを履いていた。

 スカートに身を包んだ真性のド変態という可能性も考えたが、それなりに膨らんだ胸や長く伸びて手入れされた髪から察するに性別は女で間違いなさそうだ。

 

 素顔は分からないが、思い描いていた犯人像とは対極の存在。予想外の展開に呆気に取られてしまう。

 想像では中年のおっさんを想定していたので、後から考えれば嬉しい誤算だろう。


「あっ、おい!」


 すると、困惑して動けないでいるのを察したのか、そいつは今来た道の方へ走り出した。咄嗟に捻り出した呼び止めも届かない。走り去っていく後ろ姿はどんどん小さくなっていく。

 結局、俺が一歩踏み出した頃には遥か遠く、見えないとこまで行ってしまった。


 その逃げ足はかなり速く更に謎が深まる。それだけ足が速いのなら尚更、歩いている俺の事などすぐに抜かせていたはずだろう。いや、どれだけ手を抜いたとて、あのペースで足を動かしていたなら抜かさざるを得なかったはずだ。

 

 それにそもそもストーカーだったとして、どうして男の俺を付けていたのだろうか……。動機があまりに浮かばない。


 ただ、俺がここまで呆然としているのにはもう1つ訳があった。それは少女の洋服に見覚えがあったから。

 その服は見間違える事はないほどによく見知ったもの……うちの高校の制服だったのだ。


 暫く呆気に取られていた俺だったが、首都高を走り抜ける車の排気音にハッとする。


 誰か目撃者はいないかと辺りを見回してみる。けれど、日も落ちきった今の時間帯。通りかかる人など1人もいない。


「あれ?」


 それでも何も発見が無かった訳ではない。ぐるりと見渡してある物に気づき声をあげる。


 少女が去っていった方になにか落ちている。固まった足をなんとか動かし近寄って、その場にしゃがみ込む。

 そうして落とし物を拾い上げてみると、なんとそれは紅葉高校の生徒手帳だった。人の物を勝手に開くのに多少の罪悪感はあったが、それより興味が勝る。


 中を開くと、1ページ目には顔写真と所属クラスが載っていた。


『2年1組 秋月 玲奈(あきづき れな)


 確かにそう記されていた。


「秋月って……同じクラスだよな」


 彼女は2年1組のカースト上位の女子生徒。派手目な茶髪に我儘気質なギャル……というのが俺の中での印象。


「あいつが例のストーカー?」


 そういえば体型は似ていた気がする。


 こんな時どう対応するのが正解なのかは分からなかった。学校では教わっていない。


 結論から言うと、その日はそれ以上何もできなかった。バイトの時間も迫っていたし、頭が混乱していた。


 この出来事を一刻も早く砥部に話したいと思いながら、俺はとにかくバイト先へと走るのだった。


 6月7日水曜日。ストーカーの一件があった次の日。その日は学校で、何度も秋月と目が合った。俺が見過ぎなのか、はたまた向こうも勘付いているからなのか。もしくは恋の予兆なのか、理由は分からない。

 いや恋の予兆でない事ぐらいは分かっている。悲しい事にそれだけは無いと断言できる。


 「にしても、あの後ろ姿……」


 昨日の出来事を頭に思い浮かべる。


 バイトが終わったのは21時半。砥部も一応は女子だ。そんな時間に電話するのも憚れたので、翌日の放課後に直接訪ねる事にした。砥部はどうせ図書室にいるだろうからな。


 つまり、未だに俺は誰にも相談できていない訳だ。


 そして犯人の特徴はと言うと、腕で隠していたせいもあってストーカーの顔はハッキリと見えていない。それでも去っていく後ろ姿は鮮明に覚えている。髪型は茶髪のポニーテール。鞄には亀のストラップがついていて、左手にヘアゴムが巻きつけられていた。

 にしても、腕にヘアゴムを装備してなんの意味があるのだろうか。女子がたまにやっているあの行動だが、俺には理解ができない。腕に装備するとステータスが上昇したりするのだろうか?


 まあそんな事はどうでも良く、今日一日観察してみた結果、それらの特徴はどれも秋月玲奈に当てはまっていた。

 落とし物の生徒手帳という確実な証拠を抜きにしても、ストーカーの正体は彼女に間違いない。


 今、俺の頭にあるのは1つだけ。クラスでそれなりの地位を持つギャル、そんな彼女はいったい何をしたいのかという疑問だ。


「クラスメイトのギャルがストーカーとか……情報が渋滞してんだろ」

 

 日陰者とギャル、属性相性は最悪だ。本人を問い詰めるにしても、俺みたいな嫌われ者からしたら近寄り難い。


「やっぱとりあえず、砥部に相談してみるか」


 購買で買ったパンを1人体育館裏で食べながら、そう決心するのだった。

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