23話 仲裁
1人は黒髪のスポーティな少女、もう1人は金髪の生意気な少女。
確かに覚えてる。
2人の諏訪、彼女たちは同一人物だったのか?いや、それは違う。金髪の諏訪は俺と初対面のような反応を取った。なにより2人の態度、言葉遣い、纏う雰囲気は別物だった。
さらに見過ごせないことがまだある。体育祭で出会った金髪の諏訪、彼女は青色のハチマキを巻いていた。
体育祭のチーム分けは1、2組が青チーム。3、4組が赤チーム。5、6組が黄色チームになる仕組みだ。その理屈でいくと、金髪の諏訪は1年1組もしくは2組でなければおかしい。
黒髪の諏訪だってそうだ。あいつは出会った時、1年4組の諏訪だと名乗った。
しかし、この学校で諏訪という人物は1年3組にいる1人だけ。単純に考えればこれまでに出会った2人の諏訪はどちらも当てはまらない。訳がわからない。
理解に苦しむ不可解な状況に俺は頭をひねる。まあ、何にも手掛かりが掴めずに手詰まりになるよりは良いか。とりあえず1年3組の諏訪を訪ねてみれば何か分かるかもしれない。
そうして俺は、得た謎を一つ一つ解いていく事にした。
ひとまず職員室から自分の教室へと戻り、面白みの無い時間をすごす。そして放課後になってから1年3組の諏訪愛菜花とやらを訪ねることにした。
4階にある1年生の教室の前でいそいそと様子を伺う事軽く2、3分。誰1人として知り合いのいないその教室は妙に入りづらい。俺はなかなか勇気が出せずにいた。
教室にはそれなりに生徒が残っている。全部で10人ぐらいだろう。その中から諏訪愛菜花を見つけ出すのはやや骨が折れる。
手当たり次第に「諏訪はいますか」と尋ねればいいだけの話かもしれないが、面識のない集団の中に入っていくのは気が乗らない。
それに俺は嫌われ者だ。基本的に初期好感度はマイナスの場合が多い。そのせいで尚更気が進まないのだ。
そんな時だ。好機といえばいいのだろうか?だが、良い出来事ではない。そんな出来事が起きた。
「いいから早く飲み物買って来いって」
「うちはミルクティーね」
「ダッシュで行きなよね」
いかにも性格の悪そうな、それでいて漫画のようなやりとりが始まったのだ。
じゃれあい……と言うにはあまりに嫌な雰囲気だ。パシリ、いじめ、この光景を体現するならこの言葉だろう。
「だから、本当に財布を落としたんだって!」
3人の女子に囲まれながらも、指示された女の子は意外にもハキハキとした口調で言い返す。どうやらいじめられて完全に服従してる訳ではないようだ。
「そんな分かりやすい嘘、ある訳ないでしょ」
「ホントだって!きっと体育館裏に行った時に……」
「そういうのいいから、はやく買って来いって!」
「だから財布が無いから無理なんだって。ていうか、そもそも何で私があなた達の分を買わないきゃいけないのよ!」
諏訪の事は既にどうでもよく、どうにかして嫌がらせを受けている少女を助けてやれないかと考え始めていた。だが、彼女は思っていたよりも心が強いようで、いじめっ子らに負けじと言い返している。
「ぐちぐちうるさいなぁ。口答えばっかりしてんじゃねえよ!」
俺の出る幕は無さそうだと思ったのも束の間。それでも、一際大きな声でリーダー格の女子が声を荒げた所で流れが変わった。
「……な、なによ」
絡まれていた少女は遂には言い返す事ができなかった。これで場の空気は完全に掌握されてしまったように見える。
最悪だ。胸糞悪い展開だ。こんな光景を見せられたら気分が悪い。
そして偶然にも今の会話を聞いていた俺は驚いた。こんな偶然はそうそう起きないだろう。
体育館裏で財布を落としたというさっきの発言。俺が拾った財布の持ち主の諏訪愛菜花とは、いま詰められている彼女じゃないだろうか。
だとしたら、この機を逃すのは勿体無い。
恐らく諏訪愛菜花だと思われる目の前の少女。彼女の元を訪ねたところで、なんて声を掛ければいいか分からなかった。恐らく俺は嫌われてるだろうし、上手く信頼を築ける気がしない。
信頼を失うことには慣れているけど、信頼を得ることは得意じゃない。
それでも今なら、自分のくだらない羞恥心と引き換えに少し勇気を出すだけで信頼を得られる。それは実に有難い話だ。
だから俺はようやく行動を起こした。
「じゃあ俺が奢ってやるよ、先輩だからな」
いざこざに割って入る形で俺は教室へと足を踏み入れる。
いじめっ子3人と被害者の少女、そして彼女たちのやりとりを傍観していた数人の生徒の視線が一気に俺の元へと集まってくる。
他クラスの人間、それも他学年の生徒。ましてや嫌われ者と名高い有名人。完全に異物を見るような嫌な視線だ。
「な、何よあんた?」
「今コイツと話してるんだけど」
突然の乱入者に若干の動揺は見せたものの、取り巻きの2人は流石だった。気丈にも突如現れた不審者こと俺に言い返してくる。
依然態度は揺るがない。相変わらず反抗的で性悪だ。
「でもその子は財布を無くしたって言ってるぞ。だから大人しく俺に奢ってもらった方がいいんじゃないか?」
「ふざけるんじゃないわよ。誰があんたなんかに!」
「そうよそうよ。部外者は引っ込んでなさいよ」
諏訪だと思われる少女から信頼を得るには好機だと思った。それは本当だった。
でも、それだけが理由じゃない。俺がこの少女を助けようと思ったのはそれだけが理由ではない。これは俺の信念に関する問題だ。
例え彼女が諏訪じゃなかったとしても、俺は彼女を助けたいと思っていただろう。
これは持論だが、人は最低限の努力、主張をするべきだ。それが例え、どんな理不尽だったとしても。理不尽にいじめられ、自分に非がなかったとしてもだ。
場に呑まれ、空気に屈して環境を受け入れるような事はいけない。勝ち目がなくても一言、自分の意思で反抗するべきだ。
それさえできたのなら、後はもう周りの責任だ。大衆が、第三者が、浮動層が行動しなければならない。
その点、目の前の少女は見事だった。屈せず、自分を持っていた。そして自分を貫いた。それは誰にでもできる事じゃない。俺だってそうありたいと思うほどに彼女はかっこよかった。
そうして彼女は自分の意思を貫き通したのだから、あとは周りが動くべきだ。だから俺は彼女を助けようと思ったのだ。
「いやいや、お前らがあまりに惨めなもんだからさ。だってお前ら飲み物一本買えないぐらい貧乏なんだろ。そりゃあ部外者だけど介入したくもなるさ」
ダメ押しに明らかな嫌味を込めた言葉を更に放ち、いじめっ子らの表情を一瞥する。すると、彼女達のただでさえ陰険な眉間にシワができていた。怒りや悔しさによる物だろう。
よし、効いてる効いてる。だったらもう少し言ってやるとするか。
「あんまりにも必死に物乞いしてるから可哀想で可哀想でさ。ほら、はやく行こうぜ。俺が奢ってやるから」
「だ、誰がアンタなんかに!ていうか部外者が入ってくるんじゃないわよ」
「そうよそうよ!それにアンタなんかに奢って貰わなくてもお金ならあるんだから」
「あーあ、なんか白けたわ。こんな奴ほっといてもう帰ろ」
「そうね、気分も最悪だし今日はもう帰ろ」
そう言うと3人はすごい速さで荷物をまとめるとそのまま教室から出ていった。途中、「あいつ、1コ上の噂の先輩だよ。あの嫌われ者の」とかなんとか聞こえるぐらいの声量で話していたが、誇張抜きに俺は悪名が相当高いらしい。
そして、一見するとこの場の掌握権は彼女らにあったようにに見える。めんどくさくなった彼女らが撤退してあげた、そんな空気になっている。だが、これで良い。目的は達成した。
そもそも目的はメインターゲットの討伐じゃない。真の目的は討伐ではなく撃退だったのだから。だからこれで良いのだ。今頃クエストクリアのBGMがかかっている頃だろう。
そんなこんなで、騒ぎを沈めることにはひとまず成功した。
そして、取り残された俺と、恐らく諏訪愛菜花だと思われる女生徒の目が合う。
それから僅かな沈黙を破って彼女が二言。
「あ、ありがとうございます。でも、どうして助けてくれたんです?」
「助けを呼ぶ声が聞こえたから……とか?」
「は、はあ……。そうですか」
どうやら掴みは失敗したらしい。流石に今のセリフは気持ち悪かったか。完全に引いてるし。砥部ならツッコミを入れてくれるんだけどな……。
「と、とにかく一旦場所を変えないか?」
微妙な空気に苦しみつつも、なんとか言葉を捻り出す。
いじめっ子どもが居なくなったとはいえ、教室にはまだ何人か生徒が残っている。この場で話を続けるのは気まずい。
「構いませんけど……」
そんな訳で俺達は体育館裏へと移動することにした。
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