22話 見つけた異変
翌日の水曜日、つまり7月5日だ。その日から俺は異変探しに躍起になった。
何か変わった行動をしてる奴はいないか?そればかりを追いかけていた。
授業中にも休み時間にも常にそのことばかり。けれどそれらしき手掛かりはなかなか掴めない。
それも後になって考えれば案外納得だ。なぜなら俺は自分のクラスメイトばかりに焦点を当てていたのだから。
事態が動いたのはさらに2日後の7月7日金曜日になってだった。
その日、異変は探さずともやってきた。きっかけは些細な出来事。1つの落とし物から始まった。
昼休み、体育館裏の翳った場所で財布を拾った。特に飾り気のない紺色をした財布。良いように言えば洗練されたデザイン、悪く言えば地味なデザイン。
「珍しいな」
拾った俺は少し驚いた。体育館裏は景色も悪く、風通しも悪い地味な場所だ。こんな場所、俺以外に来るやつなんていないと思っていた。
かくいう俺はこの不人気な場所に頻繁に来ている。なぜなら人が来ないから。景色が悪かろうと、ひと気が無い、それだけで俺に取っては居心地が良かった。
多少の躊躇いはしたものの、俺は拾った財布の中身を確認することにした。人の財布を勝手に見るのは悪いことをしてるようでやましい気持ちになった。いや、実のところ褒められた行動ではないだろう。
それでも生徒手帳とか、身分証だとかの手がかりを見つけなければ持ち主を特定することはできない。
職員室へ届けるという考えも頭をよぎったが、いらぬ疑いをかけられてはたまったもんじゃない。
俺は過去の出来事を思い出す。あれは1年の冬の頃だった。下駄箱で財布を拾ったのだ。色形は覚えてないけど、確か落とし主は他クラスの女子だったっけ。
そして、めんどうごとに首を突っ込みたくない俺は最短距離で職員室へと届けることにした。するとどうなったか。落とし物を受け取った教員に中身を盗んでないかと、それは長いこと拘束されたのだ。ほぼ尋問のような時間が長いこと続いのを今でもよく覚えてる。
俺は親切心で拾ったというのに……あんな目に遭うのは2度と御免だ。だから今度の俺はひとまずは自力で解決を計ることにしたわけだ。
「どれどれ」
現金にはもちろん興味はないのでなるべく見ないようにしつつ、綺麗に整理された財布の中身を確認する。だが、入っていた数種類のカード類の中には公的に身分を証明できるものはなかった。
ただ1つ、唯一の手掛かりとなったのは、どこかのカフェのポイントカード。
その裏面に『スワ様』と刻印があったのだ。
なんという偶然か。俺はこの名を知っている。それも2人も思い当たる節がある。1人は川辺で怪我をしていた少女。俺が立ち直るきっかけを作ってくれた人物だ。
そしてもう1人は体育祭で絡んできた少女。金髪で生意気な雰囲気を纏った人物だった。
諏訪という名はそう多くない。恐らく2人のうちどちらかであるはず。浅はかにも、俺はこれで事態が解決すると思った。
しかし、それが甘かった。
昼休みが終わる前にと俺は早足で職員室へと向かった。諏訪という人間がどこのクラスに所属しているのか確かめだ。
「……」
そして、解を得た俺は言葉を失った。
3人目、俺の知らない諏訪が登場した……なんて単純な話ではない。この学校に諏訪という名の生徒が3人以上いたのなら、それはそれで厄介ではある。けれど、それだけならこんな反応にならない。
事態はより困難を極める。
現実は想定以上に厄介だった。
1年3組、出席番号13番、諏訪愛菜花。諏訪という名の生徒はこの学校で彼女のみ。
そう、諏訪は1人しか存在しなかったのだ。
「どういうことだ……?」
少なくとも2人は存在していなければおかしいではないか。現に俺は2人の諏訪に出会っているのだから……。
これがようやく見つけた異変、パラドックスの手がかりだった。
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