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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
冷たい図書委員の少女が恋する乙女だった件
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21話 飛ぶ矢のパラドックス

 図書室へと向かい廊下を歩いていると昇降口の掲示板に目を引かれた。派手な色使いのそのポスターは明らかに異質だったから。

 恐らく最近貼られた物なのだろう。汚れなどは見られず真新しい。


 『この夏、2人の恋が世界を変える!』。どこかで聞いたような、よくあるキャッチコピーを掲げているそれは映画の宣伝らしい。

 といっても有名監督の映画ってわけでもない。体育祭が終わった今、次に控えているのは夏休みが明けてすぐに行われる文化祭だ。


 ポスターに記された情報からすると、これは1年3組による宣伝のようだ。どうやら1年3組は文化祭で自主制作映画を公開するつもりみたいだ。それにしても現時点でポスターまで作って宣伝するとは凄いやる気だなと感心する。


 それと同時に恋愛ものというのはどうもチープに思えて気に入らない。いや、気に入らない理由はそれだけでもないか。

 恋愛話の1つも俺の元へやってこない、その事への僻みによるものだろう。

 

「たかだか1人や2人の恋で世界が変わるなんていい迷惑だな」


 負け惜しみのような独り言を呟き、俺は映画にはさして興味もないのでポスターに背を向ける。

 

 それからようやく目的地に着き、図書室の重い扉を開くと軋むような嫌な音が辺りに響く。この音にも最近ではもう慣れた。


 そして当然の流れで適当な椅子に腰掛け、砥部に一連の出来事を話し始める。時間停止についてだ。


「まだですか?ついこの間1つ解決したばかりでしょうに……ほんと、しょうがない人ですね。考えられるのは『飛ぶ矢のパラドックス』じゃないですか」


 するとどこか気怠そうに、これまた慣れた流れで砥部が相談に応じてくれる。


「飛ぶ矢のパラドックス?」


 その言葉は初耳だった。

 

「ええ、若しくは逆巻さんの妄想、幻覚……でしょうか」

「じゃあ間違いなく前者だな」

「大穴で、アダルトビデオの見過ぎという線も考えられますが……」


 少し顔を赤らめながら、砥部がもう一つの可能性を口にする。恥ずかしいなら、そんなセリフ言わなければいいのに……。


「で、飛ぶ矢のパラドックスってのはどんなのなんだ?」


 尋ねながら自分でもパラドックス大全という本を捲る。この間の一件から借りっぱなしにしている図書室の本だ。


「運動に関するパラドックスです」

「運動……ねえ」


 回答に耳を傾けながら目当てのページを探る事1分弱。ようやく欲しい答えが見つかった。


 ええと、なになに?


「飛ぶ矢のパラドックスとは、運動は存在しないとする理論であり、噛み砕いて言うと全ての物は停止しているとするパラドックスのことである……か」


 なるほど、時間の停止と関係がありそうな説明だな。


 で、肝心の理屈はと言うと……、『時間を最小単位に切り取った時、その瞬間において飛ばした矢は止まっている。どの瞬間で切り取ったとしても矢は止まっているのだから停止した瞬間の集合である時間においても矢が動くことは無い』……か。


「うん、なるほど分からん」


 アキレスと亀については割と分かりやすかったけど、今回の理屈はより難しい気がする。


「ヘルプだ砥部。小学生でも分かるように解説してくれ」


 割と無茶振りをしている自覚はあるが、それでも砥部なら答えられるだろうという、根拠の無い自信があった。


「そうですね……。逆巻さんはシネマトグラフというものをご存知ですか?」

「シネマトグラフ……って言うと、映写機の初めのやつだろ」


 ついこの間、世界史の教科書のコラムで読んだ知識でなんとか対応する。


「そうです。世界初の映写機と呼ばれるそれです。フランスのリュミエール兄弟が開発した一台で撮影、映写、現像を行える画期的な機械の事ですね」


 長々とした解説口調の説明、非常に助かる。まるでシネマトグラフの回し者かの如く分かりやすい解説だ。


「で、それがどうかしたのか?」

「飛ぶ矢のパラドックスについて分かりやすく教えてあげてるんですよ。だから黙って聞いてください」

「お、おう」

「まず、シネマトグラフの仕組みですが、あれはどのようにして映像を流しているのか分かりますか?」

「それぐらいならまあ……。あれだろ。何十、何百もの写真を連続して流してるんだよな」

「ご名答です。アニメーションなどにも言える事ですが静止した画像を連続して流す事で映像が生まれるわけです」


 最も身近で誰でも実践できるもので言えばパラパラ漫画だろう。


「では、同じような原理で考えます。例えば高性能の、それも現代の科学では不可能な程高性能のカメラがあったとします。そのカメラは1秒間に数万、数億、数兆もの写真を撮ることができるでしょう」

「とんでもないカメラだな」

「そうです、とんでもないカメラなんです。それで、今回はとりあえず仮定として1秒間に1億枚の写真を取れるとしましょう」

「ハンパねえな」

「ハンパねえんです」


 なんだろう。なんか話し方からして馬鹿にされてる気がするのだが……。だが今は大人しく聞いておくことにしよう。

 

「それで、その高性能カメラが機能をフルで発揮して連写した場合。1枚目と2枚目で違いは見られるでしょうか?」

「2枚目の写真は1枚目の写真が撮影されてから1兆分の1秒後の光景か」


 つまり10のマイナス12乗秒、単位にすると1ピコ秒後。


「……恐らく違いは分からないだろうな」

「そういう事です。2枚目と3枚目、または100枚目と101枚目を見比べたとしても、違いを見つける事はできないはずです」

「なるほどな」


 そこまで言われたらあとは流石に察しがつく。

 

「切り取った瞬間を前後で見比べてみると、どの瞬間にも運動は確認できない。つまり、瞬間の集合体である時間の中でも物体は運動をしないと言えてしまうわけです」

「ようやく分かった気がするよ。だけどこれも勿論、間違った理屈なんだよな」

「その通りです。パラドックスという以上はこの理屈は矛盾しています」


 まあ、理屈も何も普通に考えれば分かる。実際に時間が止まるなんて事はありえないし、俺は実際に運動をしている。

 写真の例えだってそうだ。1枚目と2枚目を比べても2つに違いはないだろうが、1枚目の写真と1億枚目の写真を比べれば流石に変化が確認できるはずだ。


「ですからその論理の穴をつければ解決するのでは無いでしょうか?」

「だな……。でも、厄介なのはそれだけじゃ無いんだよな……」

「どういうことです?」


 首を傾げて、まっすぐこちらを見つめて彼女が呟く。


「誰がパラドックスを引き起こしているのか……。それが分からないんだ」

「……そうですか。それは大変ですね」

「なんだよ他人事みたいに」


 言い放った通り、砥部のセリフはなんだか余所余所しかった。あれだけ熱心に解説をしてくれたのに、その割にはどこか興味なさげだ。


「だって実際に他人事ですから」

「それはそうかもしれないけどさ……なんか無いのか?」

「でしたら異変を見つけてみるのはどうでしょうか?」

「異変?」

「パラドックスを引き起こしている以上は何か異変を起こしている人物がいるはずです。それこそ以前のストーカーの噂のように……」


 言われて俺は秋月の事を思い出した。パラドックスの影響を受けているなら意図せずとも奇抜な行動に出てしまう筈だ。だから妙な噂だとかを辿っていけば自ずと答えは見つかるって訳か。


「そっか、それもそうだな。さっそく参考にしてみるよ、ありがとな」

「これぐらい礼には及びませんよ。それより、秋月さんの様子はどうですか?最近見かけませんけど……」


 ああそうか。砥部は秋月とは違うクラスだから知らないのか。にしても、一応秋月のことを心配してやってるんだな。こいつって意外と優しいよな。


「それなら心配いらない。風邪で休んでるだけだからな。人間関係とかについては上手くやってるみたいだ」


 体育祭前夜に、あれだけ長い時間雨に打たれたんだ。風邪をひくのも無理もない。


「LINEをしてみたけど、もう暫く休んだら治りそうだって言ってたぞ」

「そうですか。最近、感染症も流行ってますからね。私は来週予防接種を受ける予定ですし」

「そうか、予防接種ねぇ……。そういえば暫く注射なんてされてないな」


 今年の感染症は流行が早いな、なんて考えながらサラッと受け流す。

 

「まぁとにかく参考になったよ。ありがとな」


 そう言い残してその日はひとまず図書室を後にした。バイトへの時間が迫っていたため仕方なくだ。出来るならもう少し図書室でゆっくりしていたかった。


 それから、学校を後にして緑道を南の方へと1人で歩く。


「異変を起こしてる人物、日常の異常……か。そう簡単に見つかるか?」


 吐き出した独り言はすぐに蝉の声に掻き消されてしまう。そして、そう思ったのも束の間、異変は割とすぐにやってくるのだった。

砥部と秋月の出会いはまだ描けていませんが、体育祭の後で直接顔を合わせています。

閑話として、どこかのタイミングで投稿したいと思います。

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