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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
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1話 変なストーカーの噂

ラブコメです。全力を込めて書きました。

既に17万字程執筆しているため、読み応えはあると思います。

数話でいいので是非読んでいただけたら幸いです。

また、よろしければ評価や感想の方もお願いします。


「はあ……。また、あなたですか」


 古びた図書室の扉を開けると、なんとも言えない本の香りが漂ってきた。落ち着くようで、どこかカビ臭いような香り。

 それと同時に、心無いセリフも飛んでくる。


「別に良いだろ。どうせ誰もいないんだし」


 その冷たい物言いに反抗するように言い返す。

 

 すると、尚更不機嫌そうに彼女が睨みつけてくる。視線の主は図書委員の砥部弥生(とべやよい)

 黒髪ロングと黒タイツが印象的で、ブラウスは第1ボタンまで閉めていたりとガード固めの女子。しかし俺ほどの上級者にもなると、むしろ黒タイツに覆われていた方が魅力的に感じる。


 俺と彼女の関係は他人以上友達未満と言ったところ。同じ2年生だがクラスは違う。去年、一緒に図書委員の仕事をしてからちょくちょく話すようになった。


「確かに図書室には誰もいませんけど……でも、どうせ今日だって本を読みにきたわけじゃないんでしょう」

「まあな。また雑用を押し付けられたんだよ」

「はあ……、そういうのは自分の家でやってください」


 図書室での事務作業や自習は結構真っ当な利用だと思うのだが、砥部はどこか不満げだ。

 その辺の適当な椅子に腰掛け、カバンの中からいくつかのプリントをとりだすと、やれやれといった様子でため息までつく始末。


「それで、また体育祭関連の仕事ですか?」

「ああ、横山のやつに押し付けられた。明日の放課後までにやってくるように、だとさ」


 横山というのは俺の所属する2年1組の担任だ。中年の男で、担当科目は美術。こいつがまたネチネチとした嫌味な奴で困る。


「またですか……。まったく、教師は子供を導く存在だというのに、生徒に仕事を押し付けるなんてあり得ません」


 事情を聞いて砥部が怒りをあらわにする。バンっと机を叩く音までしたので、本当に怒っているらしい。

 

「まあ、横山の奴は確かにムカつくけどな。でもしょうがないって」

「いいえ。いくらあなたが全校生徒から嫌われてるとはいえ、大人まで加担するなんて間違ってます」


 彼女の言葉通り、俺は嫌われている。それもただの嫌われ者じゃない。教師からさえも疎まれているという1000人に1人レベルの嫌われ者。逸材だ。

 もちろん押しつけられた雑用も嫌がらせの一つ。ただ、そこまでされるのには理由がある。それに俺はこの事を仕方のない事だと割り切っている。


 だから、

「良いんだよ。俺が疎まれるのはしょうがない事だ」

「でも……」

「いいんだって、あれだけのことをしたんだから」

「本人がそこまで言うなら私にとやかく言う権利はありませんけど……」


 セリフとは裏腹に、砥部の口振は未だ不満そうだ。本心では納得いっていないのだろう。


「そもそもさ、社会なんて元々間違いだらけだろ」

「間違いだらけ……ですか?」


 そう、この社会はもとより矛盾だらけ。理不尽で、不合理、納得のいかないことばかり。それを指摘するなんて今更のことだ。


「大きな不満で言えば政治とか規律とかさ。するべき事があるのに後回しにされたり、明らかに矛盾している規則とかあるだろ」

「……」


 砥部にも思うところがあるのか、黙って頷いた。


「あと、他にもたくさんあるぞ。横山の口癖なんていい例だな」

「横山先生の口癖……?」

「あいつよく言うだろ。『大事な事なので一度しか言わない』って」

「確かに言いますね」

「それっておかしな話だろ」

「言われてみれば確かにそうです。矛盾してます」

「だろ。大事な事ならさ、何度でも言えばいい。むしろ、何十回と繰り返し言うべきなんだよ」

「珍しく正論です」

「珍しくってなんだよ!」


 砥部が僅かに笑みを浮かべながら小馬鹿にしてくる。ぎこちない笑い方が彼女らしい。


 と、まあそんな具合に、挙げたらキリが無いぐらいにはこの世界は矛盾で満ちている訳だ。


「そういえば、聞きましたか?あの噂」


 それから暫くしてからのこと。会話も落ち着き作業に没頭し始めた頃。がらんとした図書室に砥部の声がこだました。

 視線を向けると、本を読んだままの砥部の姿があった。


 にしても、あの噂……か。困ったことに全くピンとこない。


「どんな噂だ?」

「最近よく聞くやつです」


 相変わらずこちらに目もくれず、ページを捲りながら答えた。その振る舞いから察するに、彼女にとってそれほど大事な話ではないらしい。


 それはそうとして、俺には噂話を共有するような間柄の人間がそもそもいない。学校で俺が話すのはただ1人、今話している砥部だけ。だから噂話なんて知る由もなかった。


「良い話か?」

「悪い話です」

「……」


 即答された。ならあまり聞きたくはない。

 何も言い返せないでいると、ぱたと本を閉じて砥部がようやくこちらを向いた。なにか言いたいことがある事は確かだ。


「どうかしたか?」

「いえ、あなたにとっては()()()()()話、という言い方の方が合ってるかもしれないと思いまして……」


 その言葉にますます意味がわからなくなる。


「いったいどんな噂なんだ?」


 本日2度目の質問を繰り返す。そろそろ教えて貰いたいものだ。

 真剣さを示すため、俺もペンを置いて砥部の瞳を見つめる。

 

「最近、学校近くの緑道に変なストーカーが出るって話です」


 砥部の口から飛び出したのは予想していなかった角度の話題だった。噂話なんて言うぐらいだから、恋バナとかだと思ったのだが……。


 それにしても変なストーカーの噂……か。それは確かに悪い話だ。物騒だし、男の俺でも少し不安になる。なるのだが……腑に落ちない点が1つ。

 

「なんでそれが俺にとって都合の悪い話なんだ?」

「だって、そんな変態的な事をする奴なんてどう考えても犯人はあなたでしょう」


 いつも通り、なんの迷いもなく曇りない瞳でキッパリと言い切った。まったく悪気がなさそうな淡々としたその物言いが、返って嫌味ったらしく感じる。


「ちょ、待てよ!そんな訳ないだろ」


 流石に濡れ衣を着せられるわけにはいかない。否定しようとした俺はキムタクみたいになってしまう。


「犯人ではないと?」

「当たり前だろ」


 俺は絶対にストーカーなんてしない。そんなハイリスクな方法は絶対に取らない。そういう性格だ。


「俺ならそんなバレるような犯行は絶対しない。するならもっとこう、絶対バレないように望遠レンズで盗撮とかだ。お前だってわかるだろ」


 今日は6月6日火曜日。砥部との付き合いはかれこれ1年と2ヶ月にもなる。流石に砥部だって俺の性格は理解してるはずだ。

 

「死ねば良いのに……」

「何か言ったか?」

「いえ、独り言です」


 バッチリ聞こえていたが嫌味のつもりで尋ねてみた。しかし、独り言だと言うのでそういうことにしておこう。


 所で、俺の胸につかえてる事がまだ1つ。


「俺がストーカーじゃないのは確定としてだな」


 眉を顰めながら砥部に尋ねる。


「変なストーカーってどういうことだ?」


 ストーカーなんて、みんな変な奴だろう。変じゃない、まともなストーカーなんてものが存在するなら見てみたいものだ。……いや、やっぱストーカーだし見たくは無いな。


「言葉通り、犯行が変なんですよ」

「というと?」

「どんな時も全速力で追いかけてくるらしいです」

「……」


 想像して俺は身震いした。なんだそれ、怖すぎるだろ。そんな状況、ホラーゲームかホラー映画の演出でしか見たことが無い。


「ていうかさ、それって最早ストーカーなのか?もうそれ以上の何かだろ」

「いえ、それがですね。ギリギリ、ストーカーなんですよ」


 ギリギリ、ストーカーって……そんな言葉は初めて聞いた。いくらなんでもパワーワードがすぎる。


「そのストーカーは走って追いかけてくるので、大きな足音をたてていますし息づかいだって荒いみたいです。ですが、絶対に抜かしてはこないらしいんです」

「抜かしてこない?」


 その言葉は少し気になった。過去に少しだけ因縁があったから。


「ええ。どれだけ走って逃げても、遂に疲れて走れなくなったとしても……決して抜かさずに追って来る。そして、それ以上の行為は何もしてこない。私が聞いたのはそういう噂です」

「……なるほどな」


 腑に落ちない点もあるし馬鹿らしい話だと思った。だが、彼女の説明には納得した。噂の真偽はともかく、付いてくるだけで何もしてこないなら痴漢では無いし暴漢でも無い。正しくギリギリストーカーという言葉が相応しい。


「そりゃ確かに変なストーカーだな」


 その話を聞いて、小学生の頃だかに読んだ都市伝説に関する本を思い出した。『口裂け女』とか『ターボババア』みたいな現代妖怪に関するものだ。


「まあ、そういう事ならさ。男の俺はともかくお前は気をつけろよ」

「言われなくても分かってます。それに……私は大丈夫ですから」

「そうか……ならいいけど」


 何が大丈夫なのかは分からないが、それ以上追求する気はおきなかった。

 

 話もひと段落つき、20分ほど経った頃。聞き慣れたチャイムの音が学校中に響いた。音につられて、壁にかけられた古時計に目を向ける。時計は丁度18時を示している。

 窓から外を眺めると、空は燻んだオレンジ色をしていた。太陽は既に沈み、ギリギリ明るさを保っていると言った感じだ。


「もうこんな時間か」

 

 つい話し込んでしまった。そのせいで作業はほとんど進んでいない。呟きながら、俺は急いで荷物を鞄に詰め込む。


「なにか用事でも?」


 急いでいるのを察したのか、砥部が尋ねてきた。その右手には図書室の鍵が握られている。図書室は18時に閉館のため、砥部も帰り支度をしているのだろう。

 

「バイトだよ、バイト」

「いつものカフェですか?」

「そうだ」

「そう……ですか」


 俺のバイト先はどこにでもあるチェーン店のカフェ。店舗は学校を出てすぐの一本道を南へ歩くこと10分ほどの場所にある。京葉線、葛西臨海公園駅に併設されたこぢんまりとした店だ。


「それがどうかしたか?」

 

 勘違いかもしれないが、砥部のセリフがなにか含みを持ったように聞こえたので聞き返す。


「いえ、特には……。ただ、あのカフェに行くなら例の緑道を通らないと行けないなぁ、と思っただけです」


 言われてみれば確かにそうだ。そう考えると少し不安になってくる。時間も時間だし、辺りは暗くなりつつある。


「言わなくてもいいものを……」

「何か言いましたか?」

「いや、なにも」


 不満を小声で口にしてみるも、砥部に自覚は無いらしい。彼女の言葉通り、バイト先に向かうにはストーカーが出ると噂の緑道を通らなくてはならない。回り道をするという案もあるが、恐らく18時半からのバイトには間に合わなくなる。


 いざ言われると、そんなに気にしてなかったのにどんどん意識してしまう。


 再び時計に目を向けると18時5分。まだ6月とはいえ、気を抜くと辺りは一瞬で暗くなる。

 うじうじしている間にも時間は進んでいく。暗くなってしまっては余計気が進まない。俺は胸に不安を抱いたままとにかく立ち上がった。


「悪いもう行く。とにかくお前も気をつけてな!」


 砥部に再度忠告して図書室を後にする。すっかり静まり返った校舎にバタンとドアの閉まる音が響く。

 それから早足で正門を抜け、バイト先へと向かった。バス通学のため自転車は無い。店へは歩いて向かう。


 緑道に足を踏み入れると、道の両端に植えられた木々が風に煽られ怪しく揺れた。

 その日はいつもよりも一層、不気味に映った。

実は以前何話か投稿していた作品です。

イチから展開などを見直してより良い作品に仕上げた所存です。

既に3章まで書いておりますので順次投稿していきます。

評価・感想、頂けると励みになります。やる気が増して執筆速度が上がりますのでよろしくお願いします。

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