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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
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15話 危機

 諏訪との出会いを経て、胸の中には変化が生じていた。俺はなんとか前を向けている。


 そして、事態が移ったのはその日の深夜のことだった。


「明日、体育祭なんでしょ?今夜は雨みたいだけど大丈夫なの?」


 6月27日0時29分。夕食を終えてリビングでダラダラしていると、ニュース番組を見ていた妹の桜が聞いてきた。

 この間と同じように、学校から帰ってくると何故だか桜は家に来ていた。どうやら今日もこのまま泊まっていくつもりのようだ。まぁ、俺としては別に構わないけれど。


「うーん、まあ延期になったらなったで別にそれもありだな。むしろ、その方が助かるかもしれない」


 体育祭が延期になればパラドックス解決までの猶予が生まれることになる。それは願ってもない幸運だ。


「助かるって何が?」

「まあいろいろあるんだよ」

「ふ〜ん。あ!でも朝の4時ぐらいにはやむし、しかも明日は30℃近くになるみたい」

「まじかよ、夏の本番はまだ先だろうに……。最近の気温はどうかしてるよな」

「だね。この気温なら雨が降ってもグラウンドは乾くね」


 そんな会話をしていると、深夜だというのに突然スマホが鳴った。画面を見ると砥部からの電話だった。


 なんだ、こんな時間に……。時間も時間だ。あまりいい連絡ではなさそうだ。


「どうした?俺の声でも聞きたくなったとか?」


 とりあえず応答して軽い挨拶を済ませる。

 

「違いますし、気持ち悪すぎます。本当に気持ち悪いですから」


 すると、なぜか同じ悪口を2回言われた。


「そんなことより本題です。さっき学校の先生から連絡があったのですが、秋月さんがまだ家に帰ってきてないそうなんです」

「帰ってきてない?だってもう夜中だぞ」


 ドクン、と心臓の鼓動が速くなる。

 テレビに表示された時刻を確認すると、とうに0時を回っている。


 明日……いや、日はもう跨いだから今日と言うべきか。とにかくあと数時間後にはいよいよ体育祭が始まる。パラドックスは解決していないが、それでも秋月は逃げるような事はしない。少しの付き合いだけど、それぐらいのことは分かる。

 実際、俺はあいつにリレーのアンカーをやめるように言った事がある。なんなら一緒にさぼろうと冗談半分で言ったこともあった。


 怪我とか病気とか、言い訳なんていくらでもやりようがあったから。

 でも、あいつは逃げる事だけは嫌だと言った。強い意志を持ってそう言っていたのだ。


「逆巻さんならなにか知っているかも。そう思ったんですけど、その様子じゃ知らないみたいですね」

「ああ生憎な。何にも知らないよ」

「そうですか」

「只事じゃないよな?事件とか事故とか、そうじゃなくても今夜は雨だし」

「一つ最悪の可能性があります」


 厳かな雰囲気で砥部が呟く。


「いったいどんな?」

「見落としていたんです」

「だから何をだ?」

「パラドックスについてです。アキレスと亀のパラドックスはゼノンって人が提唱したパラドックスの一つに過ぎないんです」


 ゼノンのパラドックス。そういえば図書室で借りたパラドックス大全という本にそんなページがあった。

 

「アキレスと亀が成立した今、ほとんど同じ理屈のパラドックスがもう一つあるんですよ」


 そこまで聞いて、俺は電話を繋いだまま慌てて自室に走った。突然走り出したもんだから、驚いた桜が唖然としていたが今はどうでもいい。

 そうして自室に着いた俺は例の本を捲る。すると、目当てのページはすぐに見つかった。


「二分法のパラドックス」

「そうです。それです。恐らく逆巻さんも参照してると思いますけど、私の見立てだとそのパラドックスが起きてるんじゃないかと……」


 砥部の解説を聞きながら二分法のパラドックスについての記述を探す。そして解説に一気に目を通す。


 以下その記述である。

『二分法のパラドックスとは噛み砕いた言い方をすれば永遠にゴールに辿り着けない走者の話である。例えば1人の走者があるコースを走るとする。もちろんゴールはしっかりと存在している。そこで走者はまず、スタートとゴールを二分した中間地点Aを目指すことにした。しばらくして走者は難なくAまでたどり着いた。そこで今度はゴールと地点Aを二分した中間となる点、地点Bを目標として走ることにした。それからまた暫く経って走者は地点Bへとやってきた。そこで彼はまたしても同じようにゴールと地点Bを二分した地点Cを目的とすることにした。そんな事を繰り返しているうちに走者はある事に気がついた。中間となる地点は無限に存在するのだ。確かに彼はゴールへと近づいていたが、中間となる地点は無限に作り出すことができる。とすると……、彼はいつまで経ってもゴールへと辿り着く事は出来ないのである。これが永久にゴールへと辿り着けなくなるパラドックス、二分法のパラドックスである。』


 説明を読み終えた俺は妙に納得させられていた。確かに理屈はアキレスと亀に近しい。無限に及ぶ試行によって引き起こされている。これが秋月の身に発現しているのだとしたら今の状況に説明もつく。


 もしこれが本当に起こっているのだとしたら、俺のやるべき事は決まってる。


「なあ砥部、あいつの家って知ってるか?」


 部屋のクローゼットを開けてジャージを羽織る。その勢いのまま、慣れた手つきでズボンも履き替える。

 

「すみません、分からないです」

「いや、仕方ない。情報をくれただけでも助かる。ありがとな。それと、俺は今から出かけるから一旦切るぞ」

「待ってください逆巻さん!別に、まだ二分法のパラドックスが起きてるって決まったわけでは……」


 いいや、俺にはなんとなく分かる。経験した俺だからこそ分かるのだろう。


「なあ砥部、おまえ前に言ってたよな。パラドックスの原因は悩みや葛藤にあるって」

「それは……言いましたけど」

「だとしたらだ。きっと、こういう最悪のタイミングはパラドックスにとって絶好の機会になるんじゃないのか?」


 明日はいよいよ体育祭本番。それなのにパラドックスは解決しそうにもない。不安は一層増幅しているはずだ。

 

「……そうかもしれんませんけど、でも、これから雨なんですよ」

「だからだよ、雨だから行くんだよ」


 秋月がどこかで路頭に迷っているのだとしたら、彼女は雨から逃れる事はできない。止まない雨はないのかもしれない。それでも、今降っている雨がどうしようもなく辛いなら傘が必要だ。

 

「もし進展があったらまた連絡する」

「どうしても行くんですね。分かりましたよ。でしたら、私は良い報告を待っています」

「ああ、待っててくれ」


 俺の言葉を最後に通話は終了した。


 そして俺はスマホと財布と傘だけを携帯して家から飛び出した。


「お兄ちゃん、もう1時近くだよ。こんな時間にどこ行くの?」


 途中、靴を履き替えている所で桜が背後から呼びかけてきた。


「ちょっと探し物だ。朝には帰る」

「探し物って……これから雨だし。そもそも明日が体育祭なんでしょ!」

「なんか体を動かし足りなくてな。大丈夫、悪いようにはならないからさ」


 ひとまず適当な理屈をつけておいた。口から出まかせを言っているので、正直自分でもなんて言ったのかは覚えていない。

 とにかく俺は居ても立っても居られなかった。エレベーターで1階のロビーまで降りた俺は、駐輪場に停めてある自転車にまたがり走り出す。


 この時、時刻は0時50分。小雨が既に降り始めていた。

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