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クラスの美少女ギャルがストーカーだった件  作者: 嵐山
クラスの美少女ギャルがストーカーだった件
13/40

12話 ターニングポイント

少しでも気に入っていただけたら評価・感想等お願いします。

とても励みになり、執筆が捗ります!

 6月13日、6月14日……、6月20日。俺は自室にある日めくりカレンダーを一気に数枚めくる。


 ここの所忙しかったからカレンダーをめくれていなかった。


 月日はどんどん流れていく。千種先輩からアドバイスを貰ってあっという間に1週間。


 その間、俺と彼女はどこにでもあるような普通の関係を築いた。彼女の悩みや、過去のことについては聞かなかったし、問うようなことを何一つしていない。


 話したことと言えば、LINEでテスト範囲を教えてやったり、宿題を写させてやったり、愚痴を聞いたり……。


 どれも周りのクラスメイトには悟られないようにだが。


 俺たちの関係はだいぶ深まった。気軽に連絡を取り合えるぐらいには縮まったけれど、それでも心の底からは分かり合えていない。

 あと一歩なにかきっかけがあれば……そんな関係が続いていた。そんなある日のことだった。


 ――俺は間違えた。俺たちは道を違え、以降言葉を交わすことは無かった。


 6月21日、水曜日。

 

 放課後。2階にある職員室から3階の教室へと向かっていた。いよいよ体育祭を目前に控え、雑用の仕事も佳境。大量の資料を運んでいる時だった。


 踊り場の窓から外を眺める秋月の背中を見かけた。


 なんだか真剣な雰囲気を纏っていたので声はかけずに様子を伺ってみた。

 

 視線の先、秋月が見つめているのは校庭で練習中の陸上部たち。今はバトンを渡す練習をしているようだ。


 俺は抱え込んだ手元の資料に目を通す。体育祭に関する資料、そこには学年中の生徒の100メートル走のタイムや持久走の記録が載っている。春に行われた体力測定のものだ。

 勿論、プライバシー保護のため体重や身長については渡された資料に載っていないけど。


 ペラペラと資料を10数枚めくって秋月のものを探す。出席番号1番、彼女のものはすぐに見つかった。


「……だよな」


 秋月の記録は以前にも見たことがあった。その時と同じ数字が当然のことながら記されている。


 100メートル走のタイムは12秒前半。かなり……というかものすごく速い。うちの学校の生徒じゃ運動部を含めて誰も敵わないだろう。

 なにしろこのタイムは全国的にも上位に食い込むレベルだから……。


 そんな磨かれた能力を持ちながらも彼女はどの部活にも属していない。陸上部は勿論、その瞬足なら他のスポーツでも強大な武器になるだろうに。

 そんなことを思いながら、俺は結局話しかけずに教室を目指した。彼女の後ろをスッと通り過ぎると、案外気づかれなかった。


「あー疲れた」


 30分ぐらいは経っただろうか。椅子に座ったまま伸びをする。椅子がギシギシと軋んだ。


「全く、どんだけ仕事させんだよ。まあ、ただで利用される気はないけどさ」


 あくび一つと不満を吐き捨てる。


 教室の窓から空を見上げると、既に日が傾き始めている。オレンジの光を乱反射させた観覧車がゆったりと回っている。とても綺麗だ。


 改めて指を使って確認してみる。今日は6月21日。体育祭は6月27日、あと6日しかない。


 秋月の悩みか……。そろそろパラドックスにも蹴りをつけないとだよな。


「明日辺り、久しぶりに思い当たる原因について聞いてみてもいいかもな」


 千種先輩の助言のおかげで仲は深まった。以前と違った反応が得られるかもしれない。


 一仕事終えた俺はそう言い残して教室を後にした。雑用も終えてバイトもオフ。あとは帰るだけ。


 廊下を進み、階段を下り、下駄箱へと向かう。その途中だった。

 階段を降りかけたところ、2階と3階の間にある踊り場。そこで俺はいまだに外を眺めている秋月を見つけた。


 こちらの足音に気づいたのか、今度は秋月が振り返る。そして彼女と目が合った。

 夕陽に照らされているからなのか、瞳は赤く腫れているように見える。


「陸上、興味あるのか?」


 何も悪い事はしてないけど、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気分……そんな変な罪悪感に焦ったのだろうか。まるで言い訳のように疑問が口をついて出た。

 

「……」


 その問いに秋月は難しそうな顔をした。嫌な事を思い出したような、そんな苦い顔だ。


 どこかで聞いた話だが、転校生にとって部活に入る事は意外と難しいらしい。

 既に関係の出来上がったグループに参入するのは勇気がいるし、上手くいかないことの方が多いのだとか。


 ギャルとは言え教養もあるし、俺と会話が成立するぐらいには意外と協調性もある。そんな彼女ならきっと、人間関係だってうまくやっていけるはず。加えて実力だって申し分ない。


「今からでも入部してみたらどうだ?十分な実力があるんだし」


 ふと気づいた時には既にそう告げていた。


「私、別になんも言ってないでしょ。興味ないわよ……陸上なんて」


 背中を押してみたつもりが返ってきたのは反抗的な言葉。それに、なんだかいつもより口調が冷たい。


 とはいえ、その言い分には無理がある。


 体育祭までは残り1週間をきったわけで、このままなあなあの関係を続ける訳にもいかない。そんな焦りもあって、俺はいよいよ彼女を問い詰めてしまった。


「30分も眺めてたんだ。今更否定は無理があるだろ」


 すると、はぁと何かを諦めたようなため息をついてから秋月が口を開いた。


「いつから見てたの」

「お前が外を眺め始めた時からだな」

「相変わらず嫌味な答えね。逆巻らしいけどさ……」


 そう言って秋月が語り出す。意図せぬ形ではあったがいよいよ事態が動き始めた。


 それは彼女の過去についての話だった。


「私……前は茶川原高校って学校に通ってたの。そこで私は陸上部に所属してた」

「……」


 言葉が出なかった。砥部と話したように、もしかしたら茶川原高校に通っていたのではないかと推測していたが当たっているなんて思わなかったのだ。


 そして、そのセリフをとにかく聞き逃してはいけない気がした。立ち尽くしていた足を動かし、残り数段の階段を下る。そうして目線の高さを彼女に合わせた。


「いっぱい練習して、とにかく努力して……。何度も転んで、後悔して、それを繰り返して。繰り返して繰り返して、ようやく結果を出せた。表彰されるぐらいには実力だって認められた。だからホントは今だってやりたいと思ってる。思ってるわよ、私だって!」


 拳には爪が食い込むほど力が込められていて、悔しさが痛いほど伝わってくる。それに何より、俺は彼女の努力の成果を知っている。

 100メートルのタイムを見たから分かる。あれは生半可な努力で達成できるものじゃない。


 尚も彼女は言葉を続ける。


「目一杯走れたらって、何度も思ってる……」

「だったら尚更、好きな部活に入るべきじゃないのか」

「何よ……それ。そんな無責任な、勝手な事を言わないで!」


 溜まっていた感情が爆発するように吹き出し、秋月の力強い言葉が校内に響く。


「部活に入ったってどうせ無理じゃない!」

 

 溢れ出した言葉は止まらない。後はただ、堰を失ったように流れ尽くすだけ。


「パラドックスなんて訳のわからないもののせいで誰も抜かせないんだから!あんただって分かってるでしょ」

「ああ分かってる」


 誰も抜かせないのに陸上競技なんてできるわけがない。なら、俺の言葉は無責任だったろうか?それは違う。軽い気持ちで告げた言葉じゃない。

 秋月にどんな過去があって、どんな悩みを抱えているのか。それは知らない。


 もしかしたら、本人自身もパラドックスの原因にアテなんてないのかもしれない。俺はその可能性だって考えていた。けれど、陸上部に入っていた過去を聞いてしまった今ではその線は追えなくなった。

 彼女はやっぱり俺に隠し事をしていた。それを責めるつもりは毛頭ないし、それを聞くためには順序があるのは当然だからだ。問題はそこじゃない。


 彼女の抱える悩みが陸上がらみだというのなら、だったら尚更陸上に向き合うべきなのだ。陸上部に入ってどうなるのか、そこまでは想像できないし保証もしてやれない。

 だが、向き合わなければ解決できない事も事実。だから俺はこう告げるのだ。


「でも、だからこそなんだよ。だからこそやるべきなんだ。そういう弱い気持ちがパラドックスの原因だから。だから向き合わないと解決しないんだよ」

「人のことだからってそんな簡単に……。そんなの無理に決まってる。あんたの言ってる事は無責任なのよ。そもそも、あんただって自分では解決出来なかったんでしょ!」

「それは……」


 その通りだ。でも、だからこそ彼女には同じ轍を踏んでほしくない。

 

「なのにどうして?どうしてそんな事が言えるのよ。もし駄目だった時、痛い目を見るのは私なのよ!また私なんだよ」

「……」

「どうせあんただって、心の底では他人事だと思ってるんでしょ?じゃなきゃそんな発言できないわよ」

「そんなことは……。俺はただ、本当に解決しようと思って」

「そうやって分かったようなことばっかり言って。みんなに嫌われても能天気でいられるあんたなんかに、私の事なんて分かる訳なかったのよ」

「……」

「私だって本当は笑っていたい。みんなに優しくしたいし、されたいの。好きなことだってもっともっとやりたい。こんな偽物の取り繕った私じゃなくて、ありのままでいたいのよ!」


 その時、彼女の瞳から特大の涙が1つこぼれ落ちた。それに続くように2つ3つと、いくつもの水滴が頬を伝う。

 俺にはそれを眺めることしができない。こんな時、なんて言ったらいいのか分からなかった。それはきっと、俺が辛い時に誰も助けてくれなかったからだ。優しさを受けたことのない俺には正解がわからなかった。


「今日はもう……帰るわね」

「ちょっと、待てって」


 何もできないけど、ここで帰らせてはいけない気がした。ここで帰らせたら全てが切れてしまう気がしたから。


「私の事はもういいから。こんな馬鹿みたいなことに付き合わせて悪かったわね」

「何言ってんだよ。もう少しで解決できそうなんだ。ようやくパラドックスの原因が分かりかけてきたんだよ」

「それだけど、原因なら何となく分かってるのよ。だからあなたのそれも、もうお節介だから。無理しなくていいわよ」


 彼女が冷たく言い放つ。

 

「なあ、待てって。お前が話してさえくれれば俺はきっと力になれるから」

「もういいって言ってるでしょ……。そもそも私、あなたに助けてくれなんて1度も言ってないから」


 去っていく背中を見て、脳裏に浮かび上がるのは去年の記憶。真っ先に浮かんだのは背を向けた両親の姿、そして仲の良かったクラスメイト達の背中。


 鼓動が早くなっていく。それはまるで古傷が開いたような感覚だった。


「数週間の仲だってのに、結構堪えるな」


「お節介」、その言葉が重く心に刺さった。思い返してみると確かに俺は、助けてくれなんて言われていなかった。

 俺はどこかで自分の価値を彼女に押し付けていたのかもしれない。彼女の助けとなれる自分に存在価値を見出して、自分を肯定したかったのだ。


 結局は自分のため。秋月のことなんて考えていなかったのかもしれない。


 これから俺はどうしたらいいのだろうか。自分は何のために存在しているのか。それすら分からなくなりそうだった。

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