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白兎の正体

 朱鷺ときはセライに父、ハクレイを引き渡した。

月友つきともとの大事な約束ですからな。この御方の引導は、貴殿からお渡しされよ」

「有難うございます」

 しっかりと朱鷺を見て、セライは礼を言った。

「ようやく僕と同じ境地に立てるね」

 両手を拘束されるハクレイが、諭すようにセライに言った。はっと胸に込み上がるものがあるも、「貴方のことは、公平な裁判の下に、国民の総意に委ねます」と感情を押し殺し、言った。

「そう。優しいね、母親に似て」

 ぐっと拳を固めるも、セライは鎧兵と共に、ハクレイを牢獄へと連れて行った。宰相だった男の背中を、じっと見据える水影が、言った。

「はくれい殿は、最初から斯様かような結末を望まれておいでだった様に、見受けられまする」

「そなたが眼から見て左様に感ずるのであらば、真やもしれぬな」

 どこかで一杯食わされた感覚のある朱鷺も、水影の洞察に頷いた。

 安孫あそんは王族の下で、反乱者にも鎧兵にもスープを配っている。その中心では、ルーアンが歌を歌っていた。

「母……」と徐に朱鷺が呟いた。

如何いかがなされました?」

「いや、天女中の母御のことを想うてな。今猶、僻地におられるのやと思うと、心がいとうてな。……されど、真、の王女の歌声には、聞き覚えがある。はて、何処いずこで聞いたか?」

 その時、大役を終えた白兎が元の大きさに戻り、二人の前にピョンと飛び出た。一瞬で、その姿を変えた。金瞳に腰まで伸びるさらさらの黒髪、羽衣装束に身を包み、若く美しい姿で、朱鷺に微笑みを向けた。その瞬間、朱鷺の記憶が蘇った――。

 まだ父が帝であった時分、幼い日に御所の庭で、一人の美しい天女を見た。その天女には二人の幼い娘がいて、一人は黒瞳、もう一人は金瞳であった。その金瞳の娘が、陽だまりの下で歌を歌った。その歌声と愛らしい天女姿に強く惹かれた朱鷺が、隣に立っていた父に、『ゆくゆくは、の姫を妃に迎えます!』と宣言した。その宣言に父は頷き、天女は微笑んだ――。

「……うか。天女中こそ、我が初恋の相手であったか」

 大切な記憶を思い出した朱鷺に、安堵するように、天女が元の白兎の姿に戻っていった。ピョンピョンと飛び跳ねながら、安孫の下へと向かっていく。

「これは一体、如何様いかようなことでありましょうや?」

「さてな。の兎がみいな王妃であるのか、みいな王妃がの兎であるのか、他所から来た兎には分からぬのう。……だが、何とも幸福に満ちた表情であられた」

「白兎は正統王家にとって、希望の証。であらば、の御顔が、それを表わしておるのやもしれませぬな」

「ん? 深くは追及せんのか?」

「なに、まだまだこちらが世について学ぶ所存にございますれば、己で答を導き出しまする」

 月の文献を読み解き、いずれすべての謎を解明することに、文官の水影は情熱を注ぐのだろう――。そう微笑を浮かべる水影を見て、朱鷺は何度も頷いた。その視線が、幸せそうに笑うルーアンに向いた。



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