恋敵
「――ほう、見合いとな」
朝食を運んできたルーアンが、メイドらが噂していたスザリノの見合い話を、朱鷺に伝えた。簡略な絵を交えて、ルーアンが説明する。
「この国には正統な王家から分派した幾つか王家があって、その王家同士で結婚することで、月の王家の純血を守ってきたの。お父様が亡くなって、クーデターが起きてから、正統な王位継承権の順位が入れ替わって、今は第一王女であるスザリノのお婿さんになった王太子が、次の月の王ってワケ。それで今日、スザリノがお見合いするのが、オルフェーン王家のザルガス王太子。正直言ってイケメンだし、頭も良いし、これ以上ない、有力なスパダリ王太子ね」
「すぱだり? はて、未知なる種族か?」
「スパダリって言うのは、スーパーダーリンの略語よ。顔が良くて、背が高くて、高学歴、高収入。おまけに料理上手な男の人のことを指す言葉よ」
ルーアンの説明とは裏腹な、禍々しいスパダリ王太子画に、「あれが真に実在しておるのであらば、正しく、未知との遭遇にございますな」と、水影がこそっと朱鷺に告げた。
「ふむ。すぱだりか。いよいよ恋敵の登場よ」
「恋敵? 一体何方の恋敵にございまするか?」
「決まっておろう、安孫。無論、この俺、都造朱鷺の恋敵よ」
「はあ……すざりの王女に惚れておいででしたか」
「そうなの? 腹黒……」
心中、穏やかでないルーアンの複雑な表情を、「ほう、実に悩ましい」と、水影が観察する。テーブルで椅子に座って朝食を取る朱鷺が、「俺はすべての天女を愛しておるでなぁ!」と宣言して、黒い液体を飲んだ。
「ふむ、この〝こおひい〟とやらは、げに真、頭が冴える飲み物よのう」
「左様にございますなぁ。この〝こおひい〟と〝ぱん〟の組み合わせは、最高にございますれば」
「〝ぱん〟に付ける、〝ばたあ〟とやらも、格別ですぞ!」
「コーヒーとパンとバターね。いい加減、横文字にも慣れなさいよね、アンタ達」と、ルーアンが呆れた口調で言う。
「いやぁ、あちらが世では朝夕のみの台(食事)であったが、一日三台の月が世の習慣、是が非でも、あちらが世でも広めねばな!」
本来の目的である異文化交流も、三人は着々と見聞を広めていた。
「それで、本日の見合いとやらは、せらい殿の耳にも入っておいでか?」
「勿論よ。だってお見合いのセッティングも、その席で進行を務めるのも、王族特務課の仕事だもの。当然、課長であるセライが、今日のお見合いの進行役をするはずよ?」
「ふむ、左様か……」
朱鷺の顔に、思惑宜しく口角を上げる様が浮かんだ。