許されぬ恋路
「――え? セライとスザリノの関係?」
「左様。そなたが王女であった折、二人が如何様な関係であったか、覚えておろう?」
王宮内で窓拭きに従事するルーアンに、不機嫌な腹を残す朱鷺が訊ねた。
「またアンタは忙しい時に……!」
仕事中の苛立ちはあるものの、ルーアンは吐息を漏らすと、「そうねぇ……」と記憶を遡った。
「私とスザリノは同い年なんだけど――」
「はあ? 彼の王女とそなたが同い年だと? 嘘を吐くでないぞ、天女中。そなたが如きちんちくりんが、彼の豊満で艶やかな王女と、同い年なはずがなかろうて!」
「殴られたいの、アンタ!」
「るうあん殿! 此処は抑えてもらえませぬか! 後生にございまする!」
「もう! こっちの気も知らないで……!」
ふん、と顔を背けたルーアンを、「ほう、実に興味深い」と水影が観察する。
「それで天女中よ、二人の関係は?」
「ああ、そうね……何ていうか、王女と宰相の息子だったから、小さい頃から一緒にいて、セライがスザリノを陰ながら守っているって感じ? うーん、幼馴染なんだけど、身分違いから、セライが一歩引いてるって感じだったけど、恋人関係とか、そんな風には見えなかったんだけどなぁ……?」
「詰まる所、許されぬ恋路、という訳か」
「そして、同い年でありながら、お二人の恋路に何ら関わりも持たぬ、るうあん殿。真、王女であられたのですか?」
「なっ! 私だって蝶よ花よと育てられてきたんだから! ま、まあ、私の場合は、第一王妃の娘だったから、スザリノ達とは、待遇もまた違ったんだけど……」
「左様な理由でちんちくりんに育つとは、ぬるま湯育ちも考えものよのう」
朱鷺の散々な言い草に苛立ちはあるも、深くルーアンは溜息を吐いた。
「……それで? 二人の関係を聞いてどうするつもり? まさか二人の恋路を応援して、くっつけてあげるとか?」
「まさか! 俺は目的の為にのみ動くまでよ! 王女とかちょう殿をくっつけようなどすらば、俺がすざりの王女と酒池肉林出来ぬようになるでなぁ! 俺は是が非でも、彼の天女を、酒池肉林の地へと誘いとうだけだ! その為ならば、身分違いの恋路など、存分に邪魔立てしてくれるわ……!」
極悪面で笑う朱鷺に、ホント残念な帝ね……、と冷静に引くルーアン。その哀れみの目を、水影が意気揚々と記録していく。