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王女の杯

 スザリノの自室に入った朱鷺ときは、その見渡す限り清廉な造りの部屋に、感嘆の言葉を漏らした。

「嗚呼、流石は王女様にございますなぁ! どれも趣向に凝り、王女様の胸の内を表しておられるように見受けられまする」

 絹の天蓋てんがいが寝所を包み、鏡台や机、椅子が広大な部屋に整然と並ぶ。表向きには華やかであっても、その実、寂寞せきばくの念があると、朱鷺は笑いながらも感じ取った。

「どうぞ、あちらのテーブルへ」 

 侍女達が酒宴の用意を整え、朱鷺は部屋の中央にあるテーブルに促された。椅子に座り、妖艶な体つきのスザリノから杯を受けた。

「おや、王女様御自ら酒を注いで下さるとは、光栄の極みにございまするなぁ?」

「王族として、地球よりお越し頂いた視察団の方を、私自らがおもてなしするのは、当然のことですわ」

 微笑みを浮かべるスザリノの杯に、朱鷺もまた酒を注ぐ。

「王族――。何とも芳しい響きにございますなぁ。第一王女であらせられるすざりの王女殿下と、斯様に酒を酌み交わせる日が訪れるとは、思いも致しませなんだ。我が世からすらば、月の女人は皆天女様にございますれば、王族という殊勝な天女様を、是が非でも、我が酒池の地へと、誘いとうございますなぁ」

「それが、あちらの世の常なのですか?」

「いえ、私の願望に過ぎませぬよ。ただ、その殊勝な天女様は、また特別な想いに、御心揺さぶられておられるご様子。それが未練というものであらば、一層私が断ち切って差し上げまするが?」

 端正な顔立ちで、漆黒の瞳がスザリノを揺さぶる。それでも「面白いことを仰るのですね」とスザリノは微笑んだ。

「女人は、想い人への想いを断ち切らんとする際、見た目を改めるという手段に出るのが、我が世ではいにしえよりの常にございますれば、王女殿下もその御姿、例えば御召し物を変えられるなど、されてみては如何いかがですかな?」

「召し物……服装を変えるのですか?」

「左様。しくも今、王宮内にて、我が世の羽衣装束が流行しておる最中。侍女の方々を含め、女官や女中が召されている装束を、すぐさまご用意致しまするが、如何いかがにございましょう?」

 スザリノがシルクドレスに目を落とし、「そう……ですね」と承諾する。

「であらば、すぐさまお持ち致しまする!」

 思惑通りに事が進み、急き立った朱鷺を、「お待ち下さい!」とスザリノが制止した。

「はて、如何いかがされましたかな?」

「あの……やはり羽衣装束は、私には着ることは出来ません」

何故なにゆえに?」

 ぎゅっとシルクドレスを握り俯くその姿に、「せらい殿ですか?」と朱鷺が問う。顔を反らし沈黙するスザリノに、朱鷺は小さく吐息を漏らした。


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