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5. エルフ

背後のあの若者は、なんと直接私の背中にぶつかってきた。目の前の怪物を見て、後ろからゆっくりと近づいてくる怪物たちをちらりと見た彼は、仕方なく背中合わせに私にぴったりと寄り添い、顔にはどうしようもないほどの慌てた表情が浮かんでいた。


二人はそのまま互いにぴったりと身を寄せ合い、荒い息をついていた。いつの間にか、私の右手にはまた棒切れが握られていた。


「一、二、三で、君は左、俺は右へ行くんだ…」と私は小声で言った。


後ろから特に反対意見がなかったのを確認してから…。


「いち…に…さん…走れ!」私は一声叫んだ。すると、二人はなんと同じ方向を選んで走り出してしまった。


横で走っている若者を見て、私は思わず叫んだ。「お前バカか、俺は右って言っただろう!」


「そうですね…」彼は慌てながらも答えた。


「ちくしょう…」私は呟いた。確かに「東へ行け」と言うべきだったのだ…。


こうなったら仕方がない。二人は加速を続けるしかなかった。だが、元々負傷していた私の腕は、加速するたびにさらに痛みが増してきた。しかし、今はそれどころではない。


腕を失うのは小さなことだが、あの怪物たちに追いつかれたら、命も失うことになる。私は目撃してきたのだ、あの怪物たちが獲物を喰らう光景を。教科書で言われているような悠然としたものではなく、血肉が飛び散り、腸や赤黒い心臓、そして緑の胆汁までがむき出しになるような光景だった…。


そんなことを思い出しながら、足はさらに速くなった。しかし、そんな切迫した状況の中、足元に何かにつまずいてしまった。普段なら大したことはないが、この片腕が骨折している状態では致命的だった。


「ちくしょう…」私は心の中で呟きながら、茨の灌木の中に真っ逆さまに倒れ込んだ。


身を翻して逃げようとしたが、目の前にはすでに四体の怪物が囲んでいた。片腕が使えない状態では、もう逃げることは不可能だろう。


仕方なく、周囲の怪物たちを見渡し、できるだけ穏やかな笑顔を作った。もちろん、怪物たちは大きく口を開けてその笑顔を迎え入れてくれた。そんな絶望的な状況に、私は目を閉じた。


「こんなところで終わりなのか…」と心の中で思っていると、記憶の中から何かを思い出しそうになったが、その前に周囲の音が消えたことに気づいた。まさか、もう死んだのか?すぐに目を開けると、目の前の怪物の額には銛のようなものが刺さっており、大きく目を見開いて信じられない様子で前を見ていた。


そんなこと気にしている暇はない。私はその怪物の尻に一発蹴りを入れた。


しかし、蹴ったのが裏目に出た。その怪物は倒れ込み、私の上に覆いかぶさってきた。


それ以降のことは、よく覚えていない。


だが、ある声が私に再び生きる希望を与えた。「おい、大丈夫か?」その声はあの若者、張捷だった。


「俺が大丈夫に見えるか?」私は声を張り上げたが、その声も少し変調してしまった。そして口を開けた途端、彼の胸毛か何かが口に入り、猛烈な吐き気を催した。その重みは片腕ではどうしようもなかった。


「へへ…」張捷は悪びれることなく笑った。その表情には、最初の卑屈さが微塵も感じられなかった。


「もしかして『怖かっただろう?』とか言うつもりか?それならマジでぶっ飛ばすぞ…」私は胸毛の不快感を我慢しながら、咳き込みつつ言った。


「まあまあ、冗談はいいから、早く助けてやれよ。お前らどこから来たんだ、なんでこんなところにいるんだ?」という妙に爽やかな女性の声が耳に入ってきた。


「もちろん、もちろん。何せ俺のボスだからな…」張捷はそう答えた。


いろいろな力技を駆使して、ついに私は引っ張り出された。だが、私が出てきた第一声は、「何だその『ボスだから仕方なく』って…」だった。しかし、胸毛の味を思い出した途端、私は耐えきれず吐いてしまった。


「ははは…」張捷は突然笑い出した。その顔つきからして、こいつが善人でないのは明白だった。そして、最初から善人などではなかったのだろう。


驚いたことに、彼の隣にいた白いハンティングスーツを着た少女も笑い始めた。彼女はヘルメットを外し、香汗をかいた美しい顔に浮かんだ笑みを私に向けてきた。


すべてが早すぎて、まだついていけない。


私はこの機転の利きそうな少女を見て、再び張捷に目を向けた。「彼女は…?」


「俺の生体コンピュータの登録情報によれば、彼女は教会が地上に派遣した責任者の一人で、名前は…えっと、エリエルって言うらしい。俺、ネットで一度君と話したことがあるかもしれないぞ。」初対面の紹介はこうだった。当時、張捷という小僧が、あの乞食のような服を整えていたのを記憶しているが…。


もちろん、あの服装を整えたところで、彼が難民から脱出囚人に進化しただけというのは明らかだった。


私は何も言わず、ただ眉をひそめた。


張捷の説明によれば、以前教会のデジタルコアネットワークで知り合ったとのことだが、あまりにいろいろなことが語られるせいで、私の頭はますます痛くなり、何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。


「まあ、それにしてもすごい偶然だな…」


私はそう答えたが、心の中では「こんな偶然あるか?」とつぶやいていた。宇宙船が偶然この場所に墜落し、偶然この二人に出会うなんて…。


「ゴホン、ゴホン…」私は咳払いをしてその話題を切り上げ。「張捷、ここは一体どこなんだ?この植物、どう見ても普通じゃないぞ。」


この質問は無駄ではなかった。さっきまでは気づかなかったが、灌木がやたらと乱雑に高く生い茂っている。このエリアは草原や森というより、茨のジャングルと言った方が近い。それに驚いたのは、この茨の中に風車草のような巨大な構造物がいくつも隠されていることだ。


どうして建物だと言えるのか?それは、一つ一つが6~7メートルの幅を持つ巨大な風車草のような形をしており、それらがまるで燕の巣のように巨大な窪地に収まっていたからだ。一見すると普通の風車草のようだが、どうしても建物としか思えなかった。


「ふふ、驚いたでしょ?これはエルフ族が誇る『茨の家』群なんだよ!」その小娘は私をからかうように笑いながら言った。血のように赤い瞳には、まるで「田舎者め」と言わんばかりの表情が浮かんでいた。


「エルフ族?」私はこの単語に全く覚えがなく、頭の中を探っても関連する記憶が見当たらなかった。


目の前の白い肌をした少女をじっくりと見つめると、彼女は顔をしかめながら言った。「ひっ、なんていやらしい目つき…見るんじゃないわ。さっさとこれを解体するのを手伝いなさいよ。」


エリエルは嫌悪感をあらわにしながら腕を抱え込むような仕草を見せた。


その後、彼女はポケットからナイフを取り出し、私を唖然とさせる反応の速さで怪物の肉を切り分け始めた。血のように赤い瞳が血まみれの作業と相まって、どこか妖しげな魅力を放っていた。


彼女は手際よく肉を包み、私たち全員にそれを背負わせた。その動作からは、この作業が日常茶飯事であることが伺えた。


その後、彼女はいつも通りといった感じで、私たちに手招きをして「ついてきて」と言うように促した。

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