04 バイオロボット
おかしな話だが……
つい最近まで、私は宇宙船の中で単調で退屈な日々を過ごしていた。
あの頃、私とチームを組んでいた張捷は、嫌でも私と地球についての見解や、着陸後にどのように行動すべきかを話し合わなければならなかった。
私の見解は当然、教会の見解に基づいており、その見解の重要なポイントは、地球の情勢について非常に悲観的であるということだ。
例えば、地上のバイオロボットの問題について。
張捷は、いわゆるバイオロボットの問題がそれほど深刻だとは思っていなかった。火星はすでに平和になっているので、地球の技術が火星よりも進んでいるとは信じられなかったのだ。
しかし、私は彼に厳重に警告した。鸢野伶人が日本を平定する必要があるのを知っているか?それは、かつての政府が倒されたからだ。日本だけではなく、多くの大国の政府が倒された。資本主義でも共産主義でも、満たしているのは人間のニーズだけで、ロボットのニーズではないからだ。それでも、バイオロボットが問題ではないと思うのか?
張捷は、「これらのデータはすべて歴史に基づいているだけで、その問題は時間とともに消えたかもしれない」と答えた。
そして……
「リーダー、大丈夫ですか?」
耳元で若者が心配そうに声をかけてきた。それはもちろん張捷だ。彼の顔は端正ではあるが、何日も食事をしていないせいで蝋のように黄色くなり、その上、不格好な鼻と耳のせいで唯一見るに耐えるのはその心配そうな目だけだ。しかし、この心配そうな態度も、ひどく痛みを抱える私にとっては迷惑でしかなかった。むしろ冷徹な私立病院の医師のほうがマシだと思った。
「余計なこと言うな……」私は十階建てのビルのように大きなサボテンに寄りかかりながら、彼に厳しく言った。この若者は麻布の服を着て、穴だらけのボロボロのズボンを履いていた。その姿は農民というよりもむしろ難民に近かった。そのズボンは辛うじて羞恥心を隠せる程度で、幸いにも今は夏だが、冬だったら風が吹くだけで震え上がってしまうだろう。
そんな見た目の彼と、同じくみすぼらしい格好の私は、繁茂した低木地帯を歩きながら、文明人としての自覚など微塵もないように見えた。
しかし、今の私はそれどころではなかった。針で刺されるような痛みが腕から伝わり、気を失いたくなる衝動を抑えながら過ごしていた。
腕が折れる感覚は、現代都市の人々でさえ想像できるくらい最悪のものだ。
ましてや、目の前には役に立たず、ただ邪魔するだけの子供がいる。
私はサボテンに寄りかかり、歯を食いしばり目を閉じながら、片手で動かせない負傷した腕を支え、大きく息を吐きながらみすぼらしい格好をしていた。その姿は狼狽そのものだった。
「クソッ、こんな怪我で俺様がやられるわけがないだろ!」私は動かせなくなった左手を見つめながら歯を食いしばった。
激しい痛みが腕から伝わり、その中心部分はすでに腫れ上がり始めていた。
「リーダー、僕が背負いましょうか……」目の前の若者は状況が分かっていないのか、なおもおどおどしながら言った。
「余計なことを言うな!」私はすでに非常に苛立っていた。私の険しい顔つきは、まるで餓えた狼のようだった。これなら、生きたまま喰らい尽くされるくらいの勢いで、相手を黙らせることができた。「骨折くらいで、俺が……」
「リ、リーダー、何をするつもりですか……」若者は私の様子に困惑し、止めようとするそぶりを見せたが、私の目つきを見て恐怖を感じ、震えながら手を引っ込めた。私にとってはもうどうでもいいことだった。
「ッ……!」歯を食いしばり、決意を固める。
私は右手で自分の左腕の橈骨を掴み、力強く捻った。
「ゴキッ!」という音が響き渡り、自分でもはっきりと聞こえるほどだった。豆粒のような汗が額から流れ落ちた。
ただ一瞬の動作だったが、私はその痛みによって倒れそうになった。目の前で私の大きな動作に驚いている若者を睨みつけながら。
「何をぼーっとしている!ちょうどいい棒を見つけて、布で固定しろ!」私は彼に怒鳴りつけた。その声には容赦がなく、善意のかけらも感じられなかった。私は大きく息を吐きながら、その目には涙が浮かんでいたが、それを流すことはなかった。
「は、はい……」若者は完全に呆然としていて、何をすべきか分からないようだった。私は目を細めながら、骨が折れて再結合する際の痛みに耐えつつ、腕の処置を進めた。そしてようやく少し楽になった。
目の前の若者を見つめながら、私は頭の中でぼんやりとした思考を巡らせた。似たような経験を以前にもしたことがあったような気がするが、今とは少し違っていた。こうした細かいことを考えるのは嫌いだ。ただ、怪物のような耐久力と神経、そしてここ数日の奔走によって、状況をようやく理解し始めていた。
「張捷、所属:地球戦区第2派遣分隊、元火星Ⅸ区警督……」
まるで個人履歴書のような紹介文が目の前に浮かび上がり、私は眉をひそめたが、それ以上読む気にはなれなかった。
「張捷……」私はその名前を小さくつぶやき、目の前の若者が「はっ」とした声を上げるのを無視して、ただここ数日間の出来事を静かに思い返していた。率直に言って、すべてが予想外で目まぐるしかった。正直、地球に降り立った時点でトラブル続きだった。誰も予想していなかった地対空ミサイルによる攻撃を受け、予定の着地点から大きく離れた場所に不時着させられた。そして、バイオロボットの問題に直面することになった。
私の護衛としてついてきたこの若者、張捷は、地上に降り立った時の不用心さも手伝い、苔のような植物について「食べられる」と延々と語っていた。
だが、次の瞬間、彼はその苔の茂みから現れた「バイオロボット」の頭部にナイフを突き刺した。教科書で見たことがある「バイオロボット」は、突如立ち上がり、その恐ろしい姿を見せつけた。四肢の体躯を持ちながら、そのスピードは八足の蜘蛛すら凌駕する。鋼鉄のように硬い脚、体中にむき出しのトゲ、まるで血まみれの口のように見えるそれらは圧倒的な威圧感を放っていた。
張捷はその姿を目の当たりにして完全に呆然となり、一歩も動けなくなってしまった。そんな彼をなんとか救い出すために、最初は彼を引っ張り、次には背負って逃げざるを得なかった。そして、彼がその「脚」の一撃で捕まらないようにするため、私は自分の腕を盾にしてその脚を受け止めた。結果は言うまでもないだろう……。
無限に広がるような荒涼とした大地で、私たちは数日間走り続けた。茂みが一面に広がるこの地形がなければ、バイオロボットとの距離を取ることすらできなかっただろう。だが、この若者がようやく状況を把握し始めた頃には、私たちはすでに完全に疲弊しきっていた。
「俺は本当にどうしようもないバカだ……」私は自嘲するように低く呟いた。
そんな中、張捷は何も分かっていないような無邪気な顔で言った。「リーダー、どうします?この周りはどんどん高くなる茂みばっかりで、抜けられそうにありませんよ」。
その顔はまるで「哀れな猿」とでも形容できそうなものだった。少し賢そうな目をしていなければ、完全に類人猿に分類されてもおかしくない。
「お前、俺に聞くな!俺が何で知るんだ!俺が気をつけろって言ったのに、お前はなんでちゃんと聞かないんだ!」私は怒りを抑えられずに叫んだ。こんなクソみたいな場所に飛ばされただけでも最悪なのに、こんな間抜けまで連れてきたと思うとイライラが募る。
俺が分かっていれば、最初から追い詰められるような状況にならなかった。分かっていれば……。
自分の手下がどうしてこうも役立たずばかりなのか、過去の記憶を探ろうとしたが、それはまるで雪のように散り散りに消えていく。
「す、すみません……」若者は顔を赤らめ、気まずそうに俯いた。
私はその姿に呆れながらも怒りを飲み込み、「ついて来たいなら、とっとと高い場所に登って現在地を確認してこい。お前のバイオコンピューターは飾りじゃないだろう!」と強引に命令した。
怒りを堪えつつ作った「笑顔」が逆に怖かったのか、張捷は「はい、はい!」と震えながら返事をし、そそくさと茂みの奥へと走り去って行った。
私はその場に倒れこむように寄りかかり、痛む腕を抱えながら荒い息を吐き続けた。この数日間の奔走を思い返すだけで、胸が息苦しくなった。
「俺は何の罰を受けているんだ……」自嘲するように呟きながら、周囲の様子を観察する。ここが人間の居住エリアではないことなど、もう諦めていた。
目を閉じ、少しでも疲れを癒そうとしていたその時だった。
「うわああああ!」突然、耳元で叫び声が響いた。
目を開けると、張捷が全速力でこちらに向かって走ってきている。そしてその背後には、また新たな「仲間たち」が現れていた。だがその「仲間たち」とは、頭に外向きの牙を持ち、よだれを垂らし、身長1.4メートルから1.6メートルの四足歩行の怪物たちだった。全身が緑色の皮膚に覆われ、常に肉を欲しているような表情を浮かべている。
「リーダー!助けてください!」張捷は叫び声をあげながら、必死にこちらへと駆けてくる。その足取りはまるで生きるために本能だけで動いているかのようだった。
巨大なサボテンの棘に身を寄せながら、隙間をうまく使って立ち上がると、手で力いっぱい硬いサボテンの棘を1本折り取り、怪物たちとは逆の方向に全速力で走り出した。
「冗談だろ?」低く呟きながら、振り返ると土埃を巻き上げながらこちらに迫ってくる、その盆のように大きな口を持つ異形の怪物たちが見えた。元々疲労困憊だった俺だが、この状況では体力の温存など考えている暇もない。ただひたすらこのお馬鹿な小僧と一緒に再び全力疾走を始めるしかなかった。
「ゴールド!!」怪物たちの口から低く響く、奇妙な音調の声が聞こえてきた。おそらく何かのスローガンを叫んでいるのだろう。こういう時が、あいつらが情動を示すタイミングだというのは分かっている。多分、あのお馬鹿がもう少しで捕まるということだろう。
振り返る余裕はなかったが、耳元ではそのお馬鹿がまた叫ぶ声がはっきりと聞こえた。「おいおい、こっち来るなよ!リーダー、助けてくれ!」
俺は歯を食いしばり、怪我をした腕で走るのは元々厄介だったが、ここで自分についてきたこの馬鹿小僧を本当に見捨てるのかと考えると、やはりできない。
「俺って本当にバカだな…」再び低く呟き、身を低くしてややディスク投げのような構えをとり、半身を回転させると、巨大なサボテンの棘を怪物たちに向けて投げつけた。その棘は唸り声のような風切り音を立てて飛び、あの小僧に当たったのか怪物に当たったのかは分からないが、とにかく俺は振り返らずにひたすら走った。
その棘は空を裂くように飛び、張捷の頭皮のすぐ上を「シュッ」と掠め、そのまま怪物に向かって突き刺さった。
頭皮が痺れるような音が聞こえ、その棘は生物ロボットの鎧に突き刺さり、地面に深く突き刺さった。その鎧には無数の亀裂が走った。
張捷は頭の回転が速く、この一瞬の隙を利用してすぐに距離を広げた。
怪物は痛みを感じたのか、一瞬よろけた。致命傷ではなかったが、明らかに動揺している。正気を取り戻した周囲の数体の怪物たちは、さらに激昂し、奇妙な力がその体から湧き上がった。それは力というよりも怒りそのものと言えるようなものだった。
「ゴールド!!」まるで天を揺るがすような咆哮が背後から響き渡った。
周囲の空気が固まったかのような緊張感に包まれ、自分の足も少し硬直して動きが鈍くなったように感じた。
そんな絶体絶命の状況で、目の前にほぼ同じ大きさの怪物が突然現れた。それはそれほど高くないサボテンの頂上にいたが、急に跳び下りてきた。まるで漁師が網にかかった魚を回収するかのように、その顔盆ほどもある大きな口からは、ゾッとするような冷たい笑みが浮かんでいた。
その光景を目の当たりにし、俺の顔が一瞬引き攣った。
「クソッ…」口元で低く悪態をつきながらも、その表情には大きな動揺を見せなかった。