09.Sランク美人冒険者に勧誘&弟子入りされる
ヒドラを極大魔法で葬り去った後……。
ミョーコゥの街にある、俺の小屋へと戻ってきた。
極大魔法によって、えぐりとられた櫛形山なのだが……
ピュアが放った光のブレスによって、元通りに修復された。
鑑定スキルで調べたところ、【全修復】という神聖輝光竜が持つSSSランクスキルであることが判明。
壊れた非生物を、元の状態へと修復するトンデモスキルだった次第。
さて。
俺たちが小屋に戻ってしばらくすると、寝かしつけていた女冒険者が目を覚ます。
確か、ヒトミ・ランという名前だった。
「ここは……どこでござるか? 拙者は……」
独特なしゃべり方の女だ。
年齢は10代半ばくらいだろう。桜色の髪をポニーテールにしている。
身に着けているのは、キモノ、という極東でよく着られる民族衣装だ。
防具、武器の形状、何より独特のしゃべり方から、極東出身であることがわかった。
「気づいたかい? うちはマテオ。ここ、辺境の街ミョーコゥで薬師を……」
マテオがヒトミ・ランに状況を説明してやってる。
だというのに、ヒトミは彼女ではなく、俺の顔をじっと見つめていた。
「……大魔導士殿?」
「は?」
「そうだ! やっぱり、大魔導士アベル・キャスター殿ですよね!?」
ヒトミは病み上がりだというのに、ベッドから飛び出ると、俺の前までやってきた。
口ぶりからして、俺のことを知ってる……?
まあ冒険者やっていれば、俺の顔くらいは知っているか。
「アベル殿! お久しゅうございます!」
「……久しぶりと言われても、俺はお前を知らんぞ」
「拙者は覚えております。10年前、あなた様は極東を訪れてくださった。そしてわが父の領地を、お救いなさった!」
……そういえば、現役の時はここゲータ・ニィガ以外の国も、あちこち派遣されていた。
極東も確か現役の時に訪れた覚えがある。
領地を救った……と言われて思い至るのは、極東の領地のひとつ、シナノってところだ。
領地に住み着いた魔物のせいで大洪水が発生。
俺は魔物を退治し、領民たちを助けた……。
「そのときの、領主の娘でござります」
「……そうだったのか。すまない、忘れてて」
「気になさらず。それより、アベル殿とまたこうして再会できるとは、拙者感激でござる!」
俺はこの子から事情を説明してもらった。
ヒトミはSランク冒険者らしい。
ギルドからヒドラ退治の依頼を受け、仲間たちと一緒に、櫛形山へ向かう。
しかし予想以上にヒドラに苦戦。
ヒトミは仲間を逃がすために囮となる。
刺し違う覚悟で放った奥義で、ヒドラを退けることには成功。
その後、気絶し、モンバに保護され、ミョーコゥへ運ばれた……という次第らしい。
「瀕死の拙者を助けてくださり、誠に感謝申し上げます。アベル殿」
ぺこり、ヒトミが俺たちに頭を下げる。
「……俺は何もしてない」
「何照れてんだい。治療からヒドラの討伐まで、全部あんた一人で片づけたようなもんじゃないか」
言わなくてもいいことまで、マテオのやつが言ってしまう。
ぽかん、とヒトミが口を大きく開いた。
「い、今何と……? ヒドラの討伐……?」
「そこの大魔導士さんがヒドラを倒したよ。一撃でね」
「なんと! すごい! さすが大魔導士殿でござる! 拙者のかわりに、人々のためにヒドラを倒してみせるだなんて!」
ヒトミが目を輝かせながら俺を褒める。
俺は、正直このことを言いたくなかった。
「……俺は自分の都合でヒドラを倒しただけだ。人のためになんて倒してない。褒められても迷惑だ」
「まったくもう、照れ屋なんだからあんたは。ま、そこがダーリンのかっこいいところだけどね♡ 自分の手柄をひけらかさないとこ素敵だよ」
じっ、とヒトミが俺のことを見つめる。
「……なんだ。用がすんだのなら帰れ。仲間が心配してるだろ?」
仲間が今どこにいるのかわからないが、リーダーが囮となって残ったのだ。
パーティメンバーたちも心配してるだろう。
「アベル殿。無茶を承知で、お願いがあります」
「……聞くだけ聞いてやる」
「どうか、拙者の仲間になっていただけないでしょうか?」
……スカウト、ということか。
「急にどうした?」
「今回のことで、拙者は自分の未熟さを痛感いたしました。今のままでは、より強い敵と相対しても、負けてしまいまする。ですが、アベル殿がいれば!」
なるほど、より強くなりたいから、俺を仲間に入れたい、か。
「断る。それはお前の都合でしかない」
「がーん……。そ、そうですよね……」
明らさまにがっかりするヒトミ。
マテオは励ますように肩をたたく。
「そもそもなんで強くなりたいんだい?」
「強くなって、か弱きものたちを救いたいのです。かつて、大魔導士殿が、拙者たちの領地を救ったときのように!」
……まっすぐに、ヒトミが俺の目を見てきた。
俺のように、だと?
「なるほど。ベルさんに救われたことで、ベルさんみたいに強くなって、誰かを助けたいって思うようになったんだね」
「そのとおりでござる! アベル殿が仲間になってくだされば、より多くの人を助けられると、思ったのでござるが……」
すごく残念そうに肩を落とす。
……せっかくの申し出を、突っぱねてしまい、少しばかり心が痛む。
不調が治り、俺は力を取り戻した。いや、現役の時よりも、はるかに強い力を身に着けている。
ヒトミが言うように、強い力を持っていれば、たくさんの人を救えるかもしれない。
でも……。
「俺を当てにしないでくれ。俺はもう、引退した身なんだ」
力が戻ったからと言って、心の傷が癒えたわけではない。
……家族同然に思っていた弟子たちから、役立たずだと言って追放された。
あれがまだ、自分の中でトラウマになっている。
強い力を今は持っていても、盛者必衰、いつか衰えるに決まってる。
そしたら、また追放されてしまうかもしれない。
……俺はもう、辛い思いをしたくないのだ。
「断ってごめんね。でもベルさんは、昔色々あって、ひどく疲れちまったみたいなんだ」
「そうだったのでござるか……」
「ああ。ベルさんも意地悪で断ったわけじゃない。だから、気を悪くしないでおくれよ」
……マテオがフォローしてくれた。
彼女には、すべての事情を話したわけではない。が、事情を察してくれてたようだ。
……その気遣いが、俺にはありがたかった。
「あいわかりました。とても、とても、残念ですが……勧誘はあきらめます」
「すまんな」
「代わりに! 弟子にしてほしいでござる!」
「……は? 弟子、だと?」
何を急に言い出すのだ、この子は……?
「アベル殿、どうか拙者を弟子にしてほしいのでござる! 拙者強くなりたいゆえ!」
「……弟子と言われても困る。だいたい俺は魔法使いで、あんたは剣士じゃないか。何を教えればいいというのだ?」
「魔物との戦いのノウハウを。手取り足取り教えていただく必要はございません! おそばに仕え、御奉公いたします。その中で、強さの秘訣を、見て覚えます!」
奉公って……。
「それくらいいいんじゃあないかい?」
「マテオおまえ……」
「身の回りのお世話をしてくれるってんなら、ありがたいことじゃないか。あの子の面倒も見なきゃいけなくって、人手がいるだろ?」
あの子、とはつまりピュアのことだろう。
結局俺はピュアの父として、彼女を育てる羽目になった(いくら追い出そうとしても無駄だった)。
「拙者掃除、洗濯、料理、すべて心得ております。……その、アベル殿が望むのであれば、よ、夜伽のほうも喜んで!」
「……せんでいい」
はぁ。
まったく、どうして俺を一人にしてくれないんだ、誰も。
俺はただ、心の傷を、一人静かに辺境の地で癒せればそれでいいと思っていたのに。
「お願いします、アベル殿! どうか、おそばに置かせてください!」
……正直、俺は弟子なんていらない。
この先もとるつもりもない。そもそも、俺はまともな魔法教育を受けてないんだから、誰かに物を教えられるわけがないのだ。
「どうか、お願いします。あなたのように、強くなりたいのです」
……どうにも、この子は頑固そうだ。
だめだと言って追い出しても、出ていかないだろう。
仕方ない。
「わかったよ。弟子にする。これでいいか?」
「! ありがとうございます! やったー!」
子供のようにはしゃぐヒトミ。
またうるさくなりそうだ……
「さっそく【王都】にいる仲間に文を出してきます! 憧れの、偉大なる大魔導士殿のもとで、弟子にしていただくことになったと!」
呼び止める間もなく、ヒトミが飛び出して行ってしまった。
……しかし、ヒトミは王都を拠点としてるのか。
まさか、俺がここにいるって、王都にいるジャークたちに知られてしまうのでは……。
いや、ないな。彼らは彼らで忙しいだろうし。
だいいち、俺がここにいるからって、彼らがここへ来る理由もないからな。
必要無いって、追放されたわけだし。
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「弟子が出来たよ、やったね!」
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