89.バカラ、本物の神を前にする
大司教バカラの前に現れたのは、邪神アベル。
神聖皇国民、そして彼らがあがめる主に仇をなす、敵。
バカラは思う。アベルはなんとも愚かな男よと。
ここはアベルからすれば、敵地のど真ん中だ。
視界にいるものすべてが敵という中に、アベルは丸腰でやってきた。
自殺にも等しい行為だ。
バカラは信者どもに、アベルを殺すように命令しようとした。
が、駄目だった。
なぜなら……。
「か、体が……動かない……!」
バカラの体が完全に硬直していた。
麻痺の呪いをかけられたのか! と一瞬思った。だが、呪いをかけられたなら、聖職者である自分はすぐにわかる。
これは呪いではない。
ではどうして体が動かないのか?
「き、貴様ぁ! 何をしたぁ!」
アベルに問うてみるも、彼はため息をつく。
「別に、何も」
「嘘をつけぇ! 体が動かせなくなる、なにか力を使ったのだろう!?」
「使ってないって」
嘘を言ってるようには見えなかった。
だが邪神の言葉をうのみにすることもできない。
「お、おいおまえら! 何をぼさっとしてる! この邪神をひっとらえよ!」
だが、バカラ同様に、周りにいる聖職者たちもまた、体を動かせないでいるようだ。
こうなったら……。
「【天導命令】!」
バカラが、特殊なコマンドを発動した。
天導命令。
それは、大司教にのみ許されたコマンド。
発動されると、天導に属するものたちは、大司教の命令を何が何でも遂行しようとする。
たとえ、体が動かなくても、無理やり。
「が、ぎぃい」「い、てええ!」「痛いよぉ!」
彼らが動けないのは、単に緊張により、筋肉が硬直を起こしてるだけだ。
そこへ、体を強制的に動かす命令を発動。
体を無理に動かした結果、体を構成する筋肉、骨が、悲鳴を上げる。
ぎろり! とアベルがバカラをにらみつける。
どさ!
どさどさどさ!
「な、な、なぁ!? ぶ、部下どもが……き、気絶したぁ!?」
その場にいた全員が泡を吹いて倒れている。
バカラはその場に尻もちついてしまった。
体が冷たくなり、がたがたと震えだす。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
「な、何をした!? いったい何をぉ!?」
「失礼。少々威嚇した」
「い、威嚇!? あれが……!?」
「ああ。まあ、ただちょっと、魔力を込めてにらんだだけだが……」
……なんてやつだ。
バカラは驚愕する。
アベルは少し威嚇しただけで、天導の聖職者たちの意識を奪ったのだ。
なんという、すさまじい力。
「さて。親玉はおまえ、ってことでいいんだな?」
アベルに、ロックオンされた。
敵だと思われた。それだけで……。
「あば、あばばばばばば……」
ぶくぶくと泡を吹きながら、バカラは気を失った。
アベルは「え、よわ……こんなんで気絶するのかよ」と、少々困惑した様子でそう言うのだった。
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