60.超大手ギルドの社長とキスして進化させる
イッコジーを連れて、俺たちはマテオの茶屋へとやってきた。
ここは茶屋として、そして街の寄り合い場としてもつかわれる。
この場には代表である俺、補佐であるマテオ、そしてキムズカジーも同席してる。
「イッコジー、もう来たのか。来るのが早いのう」
どうやらキムズカジーが、イッコジーに近況報告の手紙を出していたらしい。
イッコジーが俺を見ながら言う。
「あの手紙の内容が、ほんまやったとはなぁ」
「なんて書いてあったんだ?」
興味本位で聞いてみる。
キムズカジーが何故か誇らしげに答える。
「村人全員が英雄クラス、デッドエンドはまさに、【英雄村】じゃとな!」
「え、英雄村ぁ……?」
なんだそりゃ……。
「つーかミョーコゥは村じゃないぞ」
「英雄街より、言いやすいと思ってのう」
えいゆうむら、と、えいゆうまち……。
ううん、どっこいどっこいのような……。
マテオがため息をつく。
「まあよその街からみれば、ミョーコゥは規模の小さい、村みたいなもんさね」
「なら英雄村でええじゃろう?」
イヤイヤ……。
「村人全員が英雄クラスだって?」
「うむ。全員の基礎能力は超人並、彼らが装備するのは全部伝説の武器。さらに、魔除けの匂い袋という、レイアアイテムを量産するという……まさに規格外の村じゃ」
全部大げさ……。
とおもったんだが、たしかにモンバたち自警団は、俺が鍛えたから全員ほどほどに強い。
彼らが装備する魔剣(魔法を付与した剣)は、神威鉄に大魔導士が魔法を付与したそこそこのもの。
加えて、青月草を量産し、領民全員が魔除けの匂い袋という、国王が直々に買い付けるほどのレアアイテムがたくさんある……。
うん、英雄村っていうのは、あながち言いすぎじゃない気がしてきたな……。
「うちは大魔導士はんの英雄っぷり、規格外っぷりを、見誤っとったわ。まさかここまで凄いとはな……凄すぎやでぇ……」
……なぜか目を♡にしてる、イッコジー。
え? なにその熱いまなざし……?
「んんっ。んで、イッコジーさん、だったね。【うちの】ベルさんに、いったいどういう要件があってきたんだい? まさか、キムズカジーに会いに来ただけじゃあないんだろ?」
マテオが【うちの】ってところを強調しながら言う。
うちのって。いやまあ、結婚してるから、うちの旦那って意味じゃあってるのか。
「おっと、せやったな。本題の前に、自己紹介しときますわ」
イッコジーは居住まいを正すと、懐から、紙を取り出す。
手のひらサイズの紙片を、俺に渡してきた。
「銀鳳商会、頭取。イッコジー・K・クラフト……?」
ぎんおう……。
どっかで聞いたことあるような……。
「なんだってぇ!?」
今度は、イッコジーではなくマテオが驚く番だった。
……なんか俺の周りの人たち、驚いてばっかりな気がする。
そんな驚くことたくさんあるかな……?
「銀鳳って知ってるのか?」
「ああ! 銀鳳商会っていや! 最大手の商業ギルドじゃないかい! 国内外に支店がたくさんある!」
ま、まじか……。
そういや、どこの街にも、銀鳳って名前のつく商業ギルド(や系列の商店)を、あちこちで見掛けたような……。
「そんな大手ギルドのギルマス直々に、いったいデッドエンドに何しに来たんだ?」
「もちろん、商いを」
商売……?
「人が欲しがるようなもんなんてなんかあったかな?」
「さすが大魔導士はん、謙虚なお方やなぁ!」
いやいや別に謙虚とかそういうのじゃなくて……。
「魔除けの匂い袋、魔法付与された神威鉄の剣。今欲しいのは、この二つですわ」
なるほど……。
前者はわかる。マテオたち、ケミスト一族の秘奥であり、国王お墨付きの便利アイテムだからな。
「マテオ……よかったな。一族が作ってきたものが、大手に認められて」
マテオがじわ……と少し目に涙をためる。
ぐし、と目元をぬぐっあとに言う。
「ベルさんのおかげだよ」
「俺? 何かしたか?」
マテオが目を点にしたあと、苦笑する。
「青月草を地上で育成する、なんていう前代未聞なことすら、あんたにとっちゃ凄いことだと思ってないんだね」
ああ、あったなそんなことも……。
「あれは俺が凄いっていうか、創生スキルが凄いってだけだろ」
「でもその凄いスキルを使ったのはあんただろ? じゃあんたがすごいよ」
そう……かなあ……。
まあそういうことにしておくか。
「次に神威鉄の剣……実物みしてもらえますかい?」
「ああ、いいぞ」
俺は異空間から、しまってあった神威鉄の剣の在庫を取り出す……。
「なんやてえええええええええええええええええええええ!?」
でた、なんやて。
また俺が何かやってしまったようだ。
「どうかしたか?」
「だ、大魔導士はんって、アイテムボックス持ちだったん!?」
「いや、違うぞ」
「なんやちがうか。さすがに……」
「空間魔法使っただけだぞ」
「なんやてえええええええええええええええええええええ!?」
またも驚かしてしまった。
そんなにびっくりしたら、心臓に悪い気がするけどな。
「空間魔法っちゅーたら、古代魔法やん!」
ああ、しまった。
古代魔法ってすごいんだったか。
「すまない、古代魔法ふつうにつかえるんだ、俺」
「な、なるほど……考えてみれば大魔導士。使えてもおかしくない……か。しかし羨ましいわぁ」
ん?
羨ましい……?
「どういうことだ?」
「アイテムボックスっちゅーたら、全商人の夢のひとつやで。鑑定スキル、アイテムボックス、その二つがあれば商人として大成功できるさかいな」
なるほど……。
モノ正しく評価する鑑定スキル。
どんなものも収納できるアイテムボックス。
どちらも商人には欲しいスキルだろう。
「イッコジーは持ってないのか?」
「ありませんわ。うちの職業は【宝石の錬金術師】や」
ん?
なんだ、聞いたことない職業が出てきたぞ?
「マテオ、なんだ宝石の錬金術師って?」
「錬金術師の上位・職業や。通常、錬金術師が錬成できるものには、練度に応じてきまっとるんや。けど宝石の錬金術師は、修行せずとも宝石の錬成に最大補正がかかるのさ」
つまり、修行せずとも宝石が錬成できる……ってことか。
結構破格だな。
だから、大ギルドのギルマスやってるんだろうな。
「上位な職業でも、アイテムボックスって持ってないんだな」
「鑑定、アイテムボックスは超稀少スキルさね」
「なるほど……」
ん?
「でも、ならもう1つランクアップすれば、アイテムボックスってゲットできるんじゃ……?」
「そう簡単にランクアップなんて……あー……」
あったな。
ランクアップ簡単にできる方法……。
きらん、とイッコジーの目が輝く。
「あるんですか、簡単にランクアップできるなんちゅー、夢のような方法が!!!!!!!!!!!」
ゆ、夢……って、大げさな。
しかしどうしよう……。
聞かれて、無視するってのもなあ。
世話になってるキムズカジーの知り合いに、嘘はちょっと……。ううん……。
「あ、あるにはあるんだけど……」
「どない方法なんです!?」
ちら、とマテオを見る。
彼女が腕で大きく【×】を作る。うん。だよな。
こういうの、よくないよな。
キスすればランクアップできるよ、なんて言えない。
だいいち相手は会ったばかりの女だぞ?
他にも妻が居る状態で、そんなこと……できるわけがない。
よし、黙ってこう。
「解:マスターとキスをすることで、従者契約を結べば、ランクアップが可能です」
「「おいいいいいいいいいいいいいいいい」」
全知全能スキルこと、ミネルヴァ(人間姿)が、突如として俺たちの前に現れたのだ。
「おまえなんで言っちゃうんだよ!?」
「領地の未来を考えた結果、ここで大商人と恩を売っておくのは必要かと」
イヤまあたしかにそうかもしれないが……。
「キス!? キスするだけでランクアップできるんかいな!? する!」
「え?」
イッコジーは、まあちょっとロリっぽい(ドワーフだから)が、めちゃくちゃ美人だ。
そんな美人が……。
目を閉じて、俺の頬を手でつつむと、キスをしてきた。
「え?」
しかも、幼い見た目に反して、結構テクニック持ちだった……。
『条件を達成しました』
『イッコジーの職業が、【黄金の錬金術師】へとランクアップしました』
……また、声が聞こえた。
なんだか久しぶりだし、ミネルヴァの声に似ていた。
「解:わたしの意思伝達音声は【世界の声】を利用しております。似ていて当然かと」
な、なる……ほど……?
「す、すごいで大魔導士はん! 黄金の錬金術師や! アイテムボックス、鑑定スキルつき! さらに錬成練度が超アップ! 石ころを黄金にだって簡単にできるようになったでぇええ! うぉおおお! 凄すぎるぅうううううう!」
どうやらランクアップして、喜んでいるようだ。
ま、まあ……ミネルヴァが言うとおり、彼女に恩を売った……と考えれば良いか。
「よくないよ♡」
「ですよね……」
マテオさん怒ってました……。
彼女は焼き餅やきなんだよな、結構。
「ごめんマテオ。もうキスはしないから」
「うん……まあ、今回は必要経費さね。でもそれ以上は……だめだよ?」
わかっている。
キス以上のことをすれば、たしかにイッコジーに良いことがおきる。
だが、さすがに。
さすがにそれは教えられない。
「告:マスターと性行為をし、マスターと本契約を結べば、無限の魔力が獲得できます」
「「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」
何言っちゃってるのこの女ぁ!
イッコジーもなんか「準備万端や!」とか脱ぎだす始末だし!
ああもうめちゃくちゃだ……。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「アベルやべえ!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!