06.勇者へ進化、鑑定スキルで病気を見抜く
ミョーコゥにある俺の家にて。
薬師の美女マテオが謝りにきた。
俺は昨日今日あったことをマテオに話そうとした、そのときだ。
「マテオさん!」
ばんっ! と俺んちの扉が開かれる。
……20代後半くらいの男だ。
街で見掛けたことがあるな。
「どうしたんだい、モンバ?」
モンバと呼ばれた男の背中には、一人の女が背負われていた。
「この娘、櫛形山の麓で倒れてたんだ!」
櫛形山とはミョーコゥ西部に広がる大きな山脈のことだ。
この女は山に用事があったのだろう。
彼女は服装などから、冒険者であることがわかった。
ぎゅっと硬く目を閉じて、額には脂汗が浮いている。
明らかに異常を抱えてるのがわかった。
……というか、なぜここに?
「この街には医者がいないからね! ベルさん、悪いけどベッド借りるよ!」
そうか、医者がいないから、薬の扱いに長けるマテオの元へ来るのか。
俺はうなずいてベッドを貸す。……さすがに病人をたたき出すほど、性根が腐っていない。
冒険者はベッドに寝かされる。
すぐにマテオが診察に入る。……だが、すぐに顔をしかめた。
「魔物の毒だ……厄介だね」
女冒険者の右腕には大きく引っかかれたあとがあった。
傷口は毒に犯されている。
元冒険者である俺にも、この毒がヤバいことがわかった。
何の毒かは特定できない(このあたりのモンスターの生態系を把握してないから)。
が、もうすぐこいつが死んでしまうことがわかった。
「くそっ! 魔物の毒は厄介だね。個体ごとにだす毒が異なる……。解毒するためにはどんな毒か特定しないと……」
つまり、女冒険者を傷つけた魔物を特定できないと、解毒が出来ない、ということだ。
「特定してる時間は無いぞ。こいつもう死にそうだ」
「わかってるよ! ああくそ、どうすりゃいいんだい……」
モンバが叫ぶ。
「毒を一発で調べられないのか!? ほら……鑑定スキルとかで」
「バカ言うんじゃあないよ! 鑑定スキルは、勇者固有の超レアスキルじゃないかい!」
マテオの言うとおりだ。
鑑定スキル。物体(非生物、生物)の持つ情報を読み取る、特別なスキル。
しかしこのスキルは、勇者が持つ固有のスキルなのだ。
一般人では持ってるやつはいない。俺もそうだ。
「か、鑑定する道具とかなかったか? マテオさん!」
「うちが持ってるのは、薬草専用の鑑定魔道具さ。そもそも鑑定魔道具はものすごく高価なんだよ!」
鑑定の能力が付与された魔道具(魔法の効果を持つ道具)というものもある。
しかしマテオの言うとおりだ。
鑑定魔道具には階級があり……。
下級→特定の物体の鑑定。専門家が持っている。
中級→物体の鑑定。大商人が所有してる。凄い高価。
上級→魔物の鑑定。国選鑑定士のみが、国から貸与される。
最上級→人間の鑑定。天導教会所有。(国の所有が許されていない)
以上のように、鑑定の魔道具はどれも高価で希少なのだ。
しかも、人間の状態を調べる鑑定魔道具なんて、天導教会(世界最大の宗教)しか所有していない。
つまり毒を特定するためには、ひとつひとつ薬を試す。
もしくは、鑑定スキル持ちの勇者が偶然ここに来る、以外に方法がない。
「ああくそ! こんなときに、勇者様がこの街にくれば……そうだ、ベルさん、あんた解毒の魔法は!?」
「【解毒】は使えるが……やっぱりどんな毒か特定しないと無理だぞ」
「もう……お手上げだ……」
……こんなとき、ジャークが使っていた、鑑定スキルが俺にも使えたら……。
と、そのときだった。
~~~~~~
ステータス
名前:ヒトミ・ラン(17)
種族:人間
職業:二刀流剣士(S)
状態:猛毒(ヒドラの毒)
~~~~~~
「………………………………は?」
な、なんだ……?
目の前に、半透明の板みたいな物が……急に出てきたぞ……?
「どうしたんだい、ベルさん?」
マテオは注射器で薬を投与しようとしている。
片っ端から薬を試す方法をとろうとしているのだろう。
「…………」
目の前のこれは、なんだ?
すぐに、マテオが俺を見て小声で尋ねる。
「……ベルさん、何が見えてるんだい?」
「……なんか、半透明の板みたいなのが」
「!」
マテオはすぐに何かに気づいたのか、モンバに言う。
「悪いね、モンバ。店のカウンターに乗ってる、道具箱を持ってきておくれ! 大至急!」
「ああ、わかった! 頼んだぞ!」
モンバが奪取で小屋から出て行く。
あとには俺とマテオ、そして毒で苦しんでいるヒトミとか言う冒険者……。
「ベルさん。あんた、鑑定スキルを使ってるよ」
「!? どういうことだ!?」
「その半透明の板は、鑑定スキルを使ったときに出現する、特別な【窓】さ」
「窓……」
「そこには人間の持つ情報が書かれているはず……!」
なぜマテオがそんなことを……?
いや、でもそうか、国立魔法学校の首席卒業だったな、この娘。
俺の知らない知識も持っているのだ。
……しかしこれが、鑑定スキルで見える窓……。
「状態はなんて書いてあるんだい?」
「ヒドラの毒」
「! ヒドラ……なんて強力な毒。だが……特定が出来たなら……! ベルさん、【解毒】を! 」
「ああ……!」
ヒドラ。冒険者時代に戦ったことがある相手だ。
頭の中で毒の持ち主をイメージする。
……あとは魔法を使うだけ。
……魔法、使えるだろうか。
竜を治せたのはたまたまって可能性が……。
「大丈夫! うちの見立てだと、あんたはもう大丈夫! 魔法はもう普通に使えるよ!」
……主席がこう言うんだ。
俺の体は、治ったんだ。そう信じよう。
「【解毒】!」
瞬間、ヒトミの体の上に魔法陣が出現する。
カッ……! と魔法陣が輝くと……。
しゅうううう……。
「見て! ベルさん! 傷口の毒が消えていくよ!」
「え、あ。ああ……ほんとだ……」
魔法、普通に使えた。
ヒトミの顔色も戻っている。……死なずに済んだみたいだ。良かった……。
ほっとしたら力が抜けて、その場にへたり込む。
でも……二度の魔法の行使で、確信を得た。
俺の体は、現役時代のころまで、完全に戻っている、と。
呆然とする俺を他所に、マテオが持っている素材で薬を調合。
マテオは冒険者に薬を飲ませる。
傷口があっという間に塞がった。
「たいした薬師だな……」
「たいしたもんなのは、あんただろ、ベルさん!」
ばしばし、とマテオが俺の背中を叩く。
「あんた……鑑定スキルを使ったじゃあないか!」
「え、ああ……そうだったな。でも……なんで……?」
俺の職業は大賢者だ。
勇者固有の、鑑定スキルを持ってるはずがない……。
「自分に鑑定スキルを使ってみたらどうだい?」
「それも……そうだな。……【鑑定】」
~~~~~~
ステータス
名前:アベル・キャスター(33)
種族:人間
職業:大勇者(SSS)
状態:健康
~~~~~~
「なっ!? だ、大勇者……!?」
なんだこれは……?
「どうしたんだい?」
「俺の職業は大賢者だったのに……。違うもんになっていた。大勇者って……」
唖然とする俺、そして、マテオ。
「信じられないよ……。一度与えられた職業は、死ぬまで変えられない。これは神が定めたルールさね」
俺もそれくらい知っている。
「職業が変わった事例なんて……いや、待てよ」
「どうした……?」
「職業の変更は無理だけど、進化することはできる、と本で読んだことあるよ」
「進化……そんな、あり得るのか?」
「なくはない。ただ……超レアな事例さね。凄まじい才能を持つ、選ばれし人間が、何かとてつもない偉業や試練をなしたとき……進化すると」
偉業や、試練……?
そんなのいつした……?
疑問が、増えていく。だがこれだけはわかった。
~~~~~~
ステータス
名前:アベル・キャスター(33)
職業:大勇者(SSS)
種族:人間
状態:健康
~~~~~~
……状態。健康。
俺の体をむしばんでいた、病は……綺麗さっぱり消えたってことだ。
「なんにしても、すごいよ、ベルさん! 勇者でもないのに人間が、鑑定スキルを駆使して、病人をなおしちまうなんて! 前代未聞さね!」
凄い凄いと褒めてくれて、嬉しい反面……。
やはり、疑問が頭をもたげる。
いつの間に俺は、大賢者から大勇者へと進化したんだ?
どうして、進化できたんだろうか?
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