58.師匠も弟子もおかしかったらしい
ドワーフ職人のキムズカジー、その親戚に当たるドワーフ、イッコジーがデッドエンド領へとやってきた。
「しかし噂の大魔導士はん、まさかこない桁外れの力もっとったとは……」
古竜を雷速剣で、瞬殺してみせたのだ。
「あ、イッコジーさん。額にこぶが」
弟子のティアが、イッコジーの額を見て言う。
確かに額が膨れ上がっていた。
「ああ、こないつば着けておけば治る……」
「【完全回復】」
「ふぁ!?」
ティアの魔法によって、額のこぶがみるみるうちに消えていく。
「ふぅ……」
「ちょ!? 姉ちゃん!? あんた今、完全回復使ってあらへんかった!? どんなケガも治す……最上級治癒魔法やで!?」
ティアは俺と違って、神聖魔法(回復や結界など)が得意なのだ。
「はい! アベルさんに教えてもらいました!」
「なんやて!?」
ぎょっ、とイッコジーが目を剥く。
「完全回復言うたら、習得難易度バリ高な高等魔法やないかい! 長い修行の末に、才能のある【聖女】の職業持ちが取得する奥義! それをこんな若い子ぉに覚えさせるなんて!」
……あれ?
そうだったのか、完全回復って……?
「だ、大魔導士はん、いったいどんなマジックを使ったんや?」
「マジックって言うか……まあ普通に実践したり……」
ぽっかーん……とイッコジー。
んー……この顔、マテオで散々見たことあるな……。
「な、なな、なんやてぇ!? だ、大魔導士はん、完全回復使えるんか!?」
「ああ。まあ、あんま得意じゃ無いけど」
俺は回復が不得手であって、できないわけではない。
完全回復を一度見て覚えて、それをティアにやってみせて、やらせてみたのだ。
「大魔導士はん……あんた、やばいで」
「え? なにが……?」
「才能ある聖女が、取得する、完全回復を取得してるところや!」
「いやまあ、でも、大賢者の職業って、あらゆる魔法の行使を可能とするんだろ?」
だから別に、俺が聖女の魔法を使えてもおかしくないんじゃないか?
「大賢者の職業は、確かにあらゆる魔法が使えるようになる。どんな魔法も習得できるようになる。けど! だからといって習得できるかどうかは、本人の資質によるんやで!」
……?
いまいちピンとこないんだが……。
「あらゆる魔法を覚える権利があることと、あらゆる魔法を習得してることは、別って意味ですよね?」
「お弟子はんの言う通りや! 大賢者、聖女じゃないやつはそもそも覚える権利がない。いくら頑張っても覚えられないんや」
なるほど、権利がないやつは、頑張っても覚えられない。
権利があるやつは、頑張れば覚えられる。
でも、完全回復は頑張ってのこの【頑張る】部分が、途方もない頑張り量が必要、ってことだろう……たぶん。
「どない厳しい修行をさなったんや?」
「本読んだら使えるようになった」
「んなっ!?」
「まあ使えたはいいけど、出力が高すぎて、治癒し過ぎちゃうっていう事件があったな。自分の腕で試してぱーん! ってなったこともある。まあ、戻ったけど」
「んなあぁ!?」
「そんで、ティアに教え方を口頭で伝えたら、ティアもできるようになってたな」
「んんなぁあああんやてぇえええええええええええええ!?」
何度も連続してびっくりする、イッコジー。
ええと……。
「一体どれに驚いてるんだ?」
するとイッコジーが肩をふるわせながら……。
「全部やよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
と叫ぶ。
「全部!? おかしいから! まず本読んだだけで覚えてる時点でおかしい。欠損した腕を戻してる時点でおかしい! 極めつけに! 口でテキトーに教えて習得できてる時点でオカシイ!」
ん?
てことは……。
「え、ティアもおかしいの?」
「おかしんやよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そ、そうだったのか……。
てっきり、ティアは普通の分類かと思っていたが……。
「完全回復使ってる時点で、この世界での上澄みなんやよ!」
「そ、そっか……そうだよな……」
勇者パーティなんて言われるレベルには、成っていたわけだしティアのパーティ。
「ちなみに口頭で教えるって?」
「ひゅーんとやって、こう……ひょい、みたいな」
「これでよー習得できたな!? お弟子はん!?」
「アベルさんの教え方が上手だったからです!」
「いやいやくっっっっっそ下手やん! それで理解したあんたもそーとーやで!?」
そっか……ティアも驚かれるガワだったとは……。
「キムズカジーの手紙に書いてあったのは、ほんまやったわ……」
「なんて書いてあったんだ?」
ちょっと気になる。
「この街には英雄しかおらんて」
「英雄しかいない……?」
そんなことはないだろう。
「デッドエンド領民たちは、普通の田舎民だぞ? 全員英雄っておかしいだろ」
「うちもキムズカジーがテキトーほざいとるだけやおもっとったわ……けど……」
ティアを見て、確信めいた感じでうなずく。
「お弟子はんを見て、大げさやないって思ったわ」
「そ、そう……?」
ハードル上げすぎじゃ無いか……?
「大魔導士はん、街に案内してもらえへんか?」
「いいよ」
そもそもキムズカジーに会いに来たみたいだし。
普通に客人だった。
「驚き死しないように、心の準備だけしとかんと……」
「なんだよ、驚き死って……まあ、普通の街だようちは」
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