57.古竜ワンパン、新しい出会い
ある日のこと。
俺は櫛形山にて、滝に打たれていた。
「すぅ……ふぅ……」
「アベルさーん。お昼ご飯ですよー」
金髪の美少女、ティア・セラージュ。
俺の弟子であり、今は嫁でもある彼女が、こちらにやってくる。
ちなみに護衛はない。
不用心……とは思うが、しかし彼女はマテオ製の魔除けの匂い袋を装備していた。
「ありがとう。でもわざわざ来なくても、町の方へ転移したのに」
「えへへ♡ アベルさんと二人きりでご飯食べたかったので」
……可愛いこと言ってくれる。
俺は滝から離れて、タオルで身体を拭こうとする。
「あ・な・た♡ わたしがお体拭きます」
「お、おう……」
ティアは何かにつけて、俺の世話を焼こうとする。
夜も積極的だ。
「その……自分のことは自分でやるから大丈夫だって」
「いえいえ! これも【妻】の役割です! 妻……えへー♡」
どうやらこの子は結婚、というか妻……というか、俺の伴侶になるのが人生の目標みたいなところがあるらしい。
だから、今こうして俺と結婚できたことを喜んでいるんだとか。
まあ……俺としてはティアは良い子だし、この子がいいっていいうなら、別に反対はしないんだが。
ティアの作った昼ご飯を食べながら、のんびりと話す。
「アベルさん最近何やってるんです? 滝に打たれて」
数日前から、俺はあるトレーニングをしてるのだ。
「ああ、それは……」
と、そのときである。
俺の魔力感知に、ひっかかったのだ。
「あー……悪い。ちょっと」
「侵入者ですか?」
「言い方よ……。ま、そのとおりだ。大丈夫だと思うんだが、念のため様子見てくる」
「わたしもいきます!」
まあ、怪我人がいる場合もあるので、ティアに手伝ってもらうことにした。
ティアを連れて、魔力のする方へと大転移する。
「馬車ですかね……? 結構立派な」
「おおい、大丈夫かあんたら?」
馬車は思った通り、森の中で立ち往生していた。
小さな女の子が、俺を見てぎょっとする。
「な、なんやあんた!?」
……変なしゃべり方だな。
それに、異様に小さい。
「俺はここの土地のもんだ」
「! じゃあ、デッドエンド領の……? 助かった! わいら今魔物に追い回されとってな!」
なるほど、逃げていたと。
「馬車の車輪が壊れてこまっとったとこさかい。手ぇ貸してくんないかい?」
「いいよ」
俺はここの領主だからな。
デッドエンドを訪れる客をもてなすのも、俺の仕事だ。
「どうすりゃいい?」
「車輪壊れてるさかい。まずは車輪を外すから……」
「ほい、【全修復】」
俺は右手を前に掲げる。
ぱああ……! と光が壊れた車輪を包み込む。
すると、馬車が元通りになった。
「わ、ピュアちゃんの全修復じゃないですか? 習得しちゃったんですね?」
「ああ。一回見たからな」
俺は大抵の魔法は、一回見ただけで再現ができるようになる。
神聖輝光竜のピュアがこの力を使ったのを一度見ている。
だから、再現できたのだ。
「な、な、ななななぁ……」
ふるふる……と女の子が声を震わせる。
「なんやてぇえええええええええええええ!?」
……なんて、デカい声だ。
鳥たちが一斉に逃げていった。
「あ、あんた!? 今のってもしかして全修復!? あらゆる壊れたモノを、一瞬で壊すっていう、超スキルやんけ!?」
ああ、これってそんな凄いスキルなのか。
まあ思えば、神聖輝光竜のスキルだもんな。
凄くて当然か。
「まあ」
「まあ!? あ、あんた……もしかして」
そのときである。
「あー……ティア。結界」
「はい!」
ティアが一瞬で馬車を包む結界を展開する。
「な、なんや……?」
「今の大声で、敵が気づいたようだぞ」
どどどどどど!
と音を立てながら、敵がこちらにやってくる。
「あれ? でも変ですね。アベルさんがいるのに、魔物がむかってくるなんて」
「あ、アベル!?」
嬢ちゃんが驚いてる。
ん?
「アベルって……あんたもしかして、アベル・キャスター!?」
「ああ」
大魔導士やっていたときの名残から、そこそこ有名人なんだよね、俺。
「に、にげえ……! さすがの大魔導士でもあいつにはかなわへんわ!」
あいつ……?
魔力の感じからして、古竜種なんだけど。
あんなの一撃で余裕で倒せるんだが……。
はっ! まさか、偽装してるとか?
そうだとしたら、かなり……。
『見つけたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
「ひぃい! べ、ベヒモスやぁ……!」
……あー。
地岩竜ベヒモスだった。古竜の一種だ。
黒い肌を持つ、大きな竜である。
うん、古竜種だ……。
『みつけたぞ矮小なる存在よ! 我が餌となるのだ!』
「あーちょっと君……」
『ぬ? なんだ貴様!?』
「この子のこと付け狙うの辞めなさい」
ぎょっ、と嬢ちゃんが目を剥く。
「な、何言うてんの大魔導士はん! 相手は古竜やで!? 言うこと聞くわけないやん!」
まあそんな感じがするけどさ。
「今帰るなら、俺も無傷で帰してあげるからさ」
『わ、わはははは! これは面白い冗談だ!』
イヤ別に冗談なんて言ってないんだが……。
『貴様からは、魔力がまったく感じられぬ! ということは、貴様は獣人だろう?』
「魔力を、感じさせない……?」
ティアが困惑していた。
ああ、ティアには説明する前に、こいつがきてしまったからな。
「確かに獣人たちは、魔力を一切持たないが、俺は獣人ではない」
『ふん! 人間だとしたらなおさら問題だ! 人は誰しも魔力を持つ。魔力を持たぬ人間なんぞ……欠陥品では無いか!』
あー……そう解釈しちゃうのね。
「最終通告だ。帰りなさい。死にたくないなら」
「す、すごい……古竜相手にまったく物怖じしてへん……。この余裕……さすが大魔導士はんや……」
ぎろり、と古竜がこちらをにらみつけてくる。
『あまり大きな言葉を使うなよ、人間! 弱く見えるぞ!』
「いや、まあ、だとしたらおまえの目は節穴ってことになるんだが……」
『ふん! 口だけは達者だな! いいだろう! この古竜ベヒモスが直々に食らってやる!』
あー……面倒なことになった。
ん。まあ、ちょうどいいか。
空間にしまってあった、魔剣を手に取る。
雷速剣。
こいつの試し切りちょっとしてみようと思っていたとこだ。
「さ、来いよ」
『死
ね? へ?』
古竜が、頭だけになっていた。
「な、ななな、なんや今の!? 大魔導士はんが、消えた! と思ったら、竜がバラバラになってるやん!」
ふーむ、こうなるのね。
なるほど……
『ど、どうなっているのだ!?』
「ああ、この雷速剣の効果だよ。雷速ってスキルが付与されてさ、超スピードで動けるようになるんだよね。で、俺は単におまえをぶつ切りにしたわけ」
高速で動けるようになった状態で、切りまくった。
技術もへったくれも無い、戦闘ともいいがたい行為である。
『なぁ!? なんだそれはぁ!? 信じられぬ……まさか……国宝級の宝剣か!?』
「え、ああ……まあ、そう言っていたな」
『だとしても解せぬ! たかが人のつくりしアイテムで、我が魔力無効化の鱗を切ることはできぬはず!』
あ、魔力を無効化する鱗を持ってるんだ。
へえ、便利。あとで剥いでおこう。
「無効化つっても、許容量はあるんじゃないか?」
『た、確かに……だ、だが! 貴様はそもそも魔力ゼロだぞ!? なのに、どうして許容量を超える魔力を発揮できるのだ?』
なんでって……。
「魔力を制限してるだけだが?」
少しだけ、魔力を、感じられるレベルに解放した。
ぶくぶく……と泡を吹いて古竜が死んだ。
「おまえを切る一瞬だけ魔力をほんの少し解放して……って、おい、死んでるじゃないか……」
人に説明させるだけさせておいて……まったく……失礼なやつだ。
まあいいか。
「嬢ちゃん、ケガは……って、嬢ちゃん?」
ばっ、と嬢ちゃんは俺の元で土下座していた。
「助けてくださり、ありがとうございました! 大魔導士はん!」
「あ、いや別に……てゆーか、土下座しなくて良いし、敬語もいいよ」
「ありがとうやで……!」
「で、君は?」
そう言えば名前聞いてなかったな。
嬢ちゃんは立ち上がって言う。
「わいはイッコジー。イッコジー・クラフトや」
イッコジー……。
ん? クラフト……?
「もしかして、キムズカジーの?」
「親戚や」
「ああ、ドワーフだったか……道理で……ちっこいと思った」
どうやら職人のキムズカジーの親戚のようだった。
「キムズカジーのやつから、すげえのがいるって聞いてきたけど……なんかもう想像の10000000倍くらい凄いひとやったわ」
「ですよね! さすがアベルさんですっ」
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