50.人体錬成し、新たな命まで生み出す神
俺は奈落の森にて、モンバたち自警団に、戦い方を教えてる。
魔力操作はすぐにできるようになった、が。
「ふんぬ! ふぅんぬうううううううううう!」
モンバが壁に向かって、右手を前に突き出して、踏ん張っている。
彼がやってるのは、魔力撃の訓練だ。
「だぁ! むっず……。魔力を飛ばすの、全然うまくいかないっすよぉ、兄貴ぃ」
モンバをはじめとした、自警団の連中全員が、魔力撃ができないようだ。
マテオが言っていた通り、魔力撃も高等テクみたいだな。
「なんかコツことかないんすか?」
「コツ……」
うーん、コツかぁ。
自警団の若い衆たちが、目をキラキラさせる。
「アベル様にコツを教えてもらえればすぐ覚えられそう」
「だって魔力操作も、アベル様のおかげですぐできるようになったしな!」
「アベル様の教え、絶対わかりやすいはず!」
俺は右手を前に出して、説明する。
「こう、ぐぅっとためて、びゅっ! だ」
「「「……??????」」」
あ、あれ?
みんな首をかしげてる? もしかして、伝わってない?
【是:指示が抽象的すぎるかと】
な、なるほど……。
「えっとだなあ。まずこう、ぐぅっと、溜めるだろ。で、びゅ! だ!」
「「「な、なるほど……?」」」
全員が首をかしげていた。
あ、あれぇ?
「ベルさんもしかして、教えるの下手……?」
「そ、そんなはずは……。ティアは、俺の指導わかりやすいって言ってたぞ?」
【否:ティア・セラージュはアベル・キャスターの教え方がドヘタだと思っていたが、気を遣って口に出していなかった。あとティア・セラージュは抽象的な教えを独自解釈する能力にたけていた】
まじかよ……。
「あんた、過去の発言までわかるんだね?」
【是:全知全能ですから】
全知全能スキルは、なんだか得意げだった。
まあ、本に書かれてる文字なので、表情もなにもないけども。
「全知全能スキルを使えば、モンバたちに魔力撃を習得させられるんじゃかい?」
「ん? ああ……そう聞けばいいのか、こいつに」
どうやったらモンバらに、魔力撃を覚えさせられるかってよ。
【解:可能ですが問題があります。全知全能の情報を伝達する手段がございません】
どういうことだ?
【解:全知全能の書に記される情報は、所有者、および視界内にいる契約者にしか共有されません】
なるほど。
モンバたちは契約してないから、全知全能の書で強くする方法を聞いても、その情報を彼らに伝達できないのか。
「俺が全知全能スキルの内容を、口で伝えるのは?」
「無理でしょ。ベルさん教え方下手だし」
ストレートすぎる罵倒……。
いやまあそうだけど。
「じゃあ、マテオに全知全能の書をわたすから、お前が教えてやってくれ。それでどうだ?」
【否:マテオ・ケミストに触れるのは、生理的に無理】
スキルに生理的に無理とかあるのか!?
「ベルさん、燃やそうこいつ」
マテオの目がマジだった。
温厚なマテオが切れるとは……。
「ティアとかに読んでもらうか?」
【否:基本、アベル・キャスター以外に触れてほしくないです】
ルールとかじゃなくて、趣味趣向っていうね。
「んじゃどうするんだい?」
「うーん……」
全知全能が自分で、モンバたちを指導できればいいんだが。
でも、スキルの状態だと、その情報は彼らに伝達できない。
なんとかならんか?
【解:全知全能スキルの意識を、別の肉体に移すことは可能】
「別の肉体って……あ、アタシにとか!?」
【否:魂のある肉体の器に、意識を移すことは不可能】
「魂がない……たとえば死体ってことかい? そんなの都合よく転がっちゃいないよ」
まてよ。
「魂のない肉体ならすぐ用意できるぞ?」
「はぁ?」
ぽかーん、とするマテオ。
「どういうことだい?」
「魂の入ってない肉体を用意すりゃいいんだろ」
「だから、死体はないんだってば」
「別に死体じゃなくてもいいんだろ」
俺は地面に手を置く。
「錬成」
「は? 錬成って……え、えええええええ!?」
ぼこぉお! と地面が隆起する。
そこには、無表情の子供が立っていた。
子供の頃の、俺だ。
「べ、ベルさん!? なにこれ!? 分身かい!?」
「いや、人体を錬成した」
マテオが絶句する。
ん? どうしたんだろうか。
「窒素とかリンとか、人間を構成する素材って、意外と手軽なんだってな。で、それらを魔法で加工すれば、人間の形をしたカカシができるわけで……」
さらに、ぽっかーん……としてるマテオ。
え? な、なんだ……?
「どうした?」
「いや……いやいやいやいや! ベルさん!? あ、あんた……今までさんっざん、常識はずれなことしてたけど……これはちょっとレベルが違いすぎるよ!」
「なにが?」
「人体錬成じゃないかい、これぇ!?」
人体錬成……?
まあ、人体を、魔法で錬成してるから、人体錬成か……。
「人体錬成って言えば、賢者の石、黄金の錬成についで、錬金術師たちの悲願の一つじゃないかい!」
錬金術師……。
確かにそういう職業もあるな。
あんま今まで関わったことないから、詳細については知らないけども。
「悲願って……?」
「錬金術師たちには、いくつもやりたくてもやれないものがあったんだよ。それが、人体を作ること」
「いや、できるが?」
「だからぁ……! ……はぁ。まあいいよ。ベルさんはなにせ賢神だからね。神なら、人体くらい錬成できるか……」
なんか、諦めの表情でつぶやいてる……。
「まさかこれも、普通じゃないのか……?」
【是:そもそもアベル・キャスターは賢神となる前から人体錬成ができていた】
マテオがまたも驚愕する。
「人体なんて、なんのために作ってたんだい?」
「カカシだな。囮にするんだよ。魔物に襲われて、逃げるときとかな」
「なるほど……生きたカカシにするんだね。でも……あれ? 動かないね」
そう、そこなのだ。
「魔法で作った人間は、動かないんだよ。ただ肉の器でしかないんだ」
「なるほど……。でも、動かなくても、人間を魔法で作るなんて神業だよ。さすが、ベルさんだね」
まあ、なんにせよだ。
「全知全能スキルの意識をこいつにうつせないか? 魂のない器だろ?」
【是:全知全能の書をカカシに持たせれば、意識が移ります】
俺は言われたとおり、全知全能の書を、カカシに握らせる。
すると……すぅ……と幼児姿の俺が目を開ける。
「どうだ?」
「解:肉体に魂が定着しました」
このしゃべりかたは、全知全能スキルだ。
どうやら成功らしい。
「ちょ、前隠しなよ……」
マテオが上着をぬいで、全知全能にかける。
そういや全裸だったな……。自分の全裸(子供の頃の姿だが)は、見てて恥ずかしいな……。
「モンバ、こいつに話しかけてみてくれ」
「えっと……」
モンバをはじめ、自警団の連中は困惑していた。
でもすぐにうなずくと、モンバが言う。
「はじめまして、モンバっす! あなたのお名前は?」
「解:名前は未設定です」
どうやら問題なく、コミュニケーション取れるようだ。
「全知全能、モンバに魔力撃を教えてやってくれ」
「是」
全知全能が言葉で説明する。
「魔力撃を行う場合、手のひらに魔力を一点に集めます」
「こうっすか?」
「是:次に、水鉄砲のように、内から外へ、魔力を放出する」
「うーん……むずいっす……」
「解:では、右手の指を前に向け、銃のような形をとってみてください。そこから、銃弾を発射するイメージで」
「はい……って、うぉおおおお!」
ちゅいぃいいいいいいいん……。
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
極大の魔力の塊が、モンバの人差し指から放出された。
神威鉄で作られた壁に、傷ができた。
「できたっすー! この全知全能さん、めっちゃ教え方わかりやすいっす!」
確かに……とマテオがうなずく。
「相手の理解度にあわせて、教え方を柔軟に変えていた。確かに、ベルさんより遥かに教え方上手さね」
「そ、そうだな……」
言外に俺が教え方下手とディスられて、微妙な気もちになった……。
が、まあ、全知全能のほうが、適任だったってことだろう。
「今後もこの女に教師役やらせれば、ベルさんは家で別のことできるね」
「否:不可能です」
「あん? どうしてだい?」
なるほど、俺は直ぐに全知全能の言いたいことがわかった。
「魔法で錬成した人体は、作ったやつから一定距離離れると、元の素材に戻ってしまうんだよ」
つまり、俺が全知全能から離れると、土に戻ってしまうのである。
「そりゃちょっと面倒さね。何か良い方法はないかい?」
「是;アベル・キャスターが、名前をつければ問題が解決する」
ん?
名前をつける……?
「全知全能ってことか?」
「是」
そ、それでどうして問題が解決するんだろうか……?
まあ、もし本当に可能なら楽で良いな。
物は試しだ、やってみるか。
「えっと……全知全能さん……とか?」
「否:端的に言ってダサいです」
そ、そっか……。
スキルにダメ出しされた……。
うーん……となると、なるべく頭の良い感じの名前がいいか。
「頭よし子とか」
「絶望」
「絶望!?」
否定とかじゃなくて、絶望的ネーミングセンスって言われた!
「じゃあ、ミネルヴァはどうだい?」
マテオがそういう。
「ミネルヴァって?」
「知恵の神さまの名前さ」
「うん……いいじゃないか? なんか綺麗な名前だし。じゃあ、ミネルヴァだ、おまえは」
その瞬間……。
カッ……!
「あ、兄貴の作った全知全能さんが、光り出したすぅう!?」
錬成で作った、子供姿の俺が……。
どんどんと、大きくなっていく。
体は曲線を帯びて……。
やがてそこには、青い髪の、めちゃくちゃ美人が立っていた。
年齢は一〇代後半だろうか。
抜群のプロポーションに、つり目、的な雰囲気を漂わせる……。
美女、だ。
「拝命いたしました。これより、ワタシはミネルヴァ。あなた様の従者として、末永くお側に仕えさせていただきます」
「な、なにぃいいいいいいいい!?」
……これには俺も驚いた。
普通に、全知全能がしゃべっているのだ。
ついさっきまでは、こちらから問いかけないとしゃべれなかったのに。
「しかも……え!? なんで!? 性別も変わってるし、なんか成長してるし! どうなってんだい!?」
「解:賢神が名前をつけたことで、魂の形が変形。それにともない肉体の形が変わったのです」
「何言ってるのかさっぱりだよ!」
「雑頭には理解できませんね笑」
「はぁ!? ケンカ売ってんのかいこいつぅううう!?」
「まさか。ケンカはおなじレベル同士でしか発生しません。あなたのような下等生物と比べて、ワタシは全知全能、すごいんですから」
「むっかつくねぇこいつぅ……!」
……いや、まあ。
それにしても……だ。
まさか……スキルが、人間になっちまうなんてな。
「さすがです、マスター」
「ま、マスター……?」
「是。全知全能の書の所有者、ゆえに、マスター」
「は、はあ……」
ふっ……と微笑むと、全裸の美女が、俺に抱きつく。
「スキルを人間にし、自我を与えた存在など、前代未聞です。さすがは、賢神。神、ということでしょう」
……どうやら俺の神の力が、新しい命を産んでしまったようだった。
【★☆読者の皆様へ 大切なお知らせです☆★】
先日の短編が好評のため、連載版はじめました!
タイトル変わりまして、
『有能な妹がS級パーティを追放されたので、最強盗賊の俺も一緒に抜けることにした~今更土下座されても戻る気はない、兄妹で世界最強を目指すんで~』
広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。
https://ncode.syosetu.com/n2140iq/