42.新スキル【地方移住】で行き来自由になる
国王に貴族にしてもらい、俺は辺境伯になった。
その際に、また脳内に声が響いたのである。
「どうしたんだい、ベルさん?」
場所は王都、王城。
付き添いで来ていたマテオが俺に尋ねてくる。
「条件を達成したっていう声が聞こえてきてさ」
「! また、大勇者のときみたいに、新しい力を授かったんじゃないかい? 鑑定してみなよ」
そうだった。俺は自分を鑑定してみる。
すると、第二職業の固有スキルが、増えていた。
■地方移住(SSS)
→指定した場所と領地とを行き来する、転移門を作成できるスキル。
※制限あり。
「地方移住……? なんか、また変な名前のスキルだな」
職業は極めると、新しい力が、スキルという形で発現することがある。
たとえば剣士の職業持ちが、鍛錬を重ねることで、新しいスキル【裂割斬】を覚えるみたいな。
今回の地方移住スキルは、辺境領主を極めたから、獲得できた……のか?
わからん。
「そもそも辺境領主を極めるってなんだよなぁ、マテオ。……マテオ?」
マテオが、唖然とした表情で固まっていた。
ワイズマンもまた目をむいて、わなわなと体を震わせている。
え、なに?
「どうしたんだよ?」
「べ、ベルさん……あのさ、地方移住スキル、とんでもないスキルだってこと、気づいてない?」
「とんでもないスキル……?」
ああやっぱり、とマテオが手で顔を覆う。
え、なに?
「地方移住スキルって、転移門作るだけのスキルだろ?」
■転移門
→空間と空間をつなぎ、一瞬で転移できる門のこと。
「ダンジョンにもあるやつだろ? 俺だってそれくらい知ってるさ」
ダンジョンの最奥部にある出口には、転移門が設置されている。
ボスを倒した冒険者が、地上へと帰還するときに使われる。
「どこのダンジョンにも転移門あるじゃないか。転移門なんて、ありふれたものなんじゃないの?」
マテオが眉間にしわを寄せ、「っとにもぉお~……!」となんだか怒っている。
え、なに?
「確かにね! ダンジョンには転移門、あるよ? でもね! 正しくはダンジョンのなかに【しか】ないの!」
……え?
ダンジョンにしか、ない?
「いやいや、あるだろ」
「どこにだよ!? ええ? ベルさん。あんた、封神の塔攻略の際、世界中を回ったんじゃなかったかい?」
魔神が封じられてるダンジョン、封神の塔。
マテオの言う通り、七つあるそれらをクリアするべく、ワイズマンをはじめとした、七人で、俺は各地を旅した。
「世界中見てきたなかで、ダンジョン以外で転移門、あった?!」
……言われてみるとないかもしれない。
「いやでも、えらい人のいる城の中とか、エルフの里とか、そういうところにあるんじゃないの?」
「あるわけないでしょ! そんなもん!」
な、ないのか……。
そうか……。
「ベルさんってほんっと! 戦うこと以外に興味なさすぎだよ!」
「そうね……すまん……迷惑かける……」
いやしかし、まさか転移門ってダンジョンの中にしかないものだったとは……。
ってか、ん?
「それをダンジョンの外に、自由に設置できるって、すごいことじゃないか?」
「だから! すごいことなんだって! 言ったんだい!」
そ、そいやそうだったな……。
「はぁ……。まあ、ベルさんが非常識なのは今に始まったことじゃないからね。もう慣れたよ」
その割にはキレ散らかしてたような……。
じろ、とマテオににらまれたので、余計なことは言わないでおく。
「スキルの詳細を見るに、転移先はデッドエンド領で固定みたいさね」
どこから飛んでも、行き先はデッドエンドで固定らしい。
別々の場所を、自由に行き来はできない……いや、待てよ?
「デッドエンドを経由すれば、好きなところ行き放題じゃないか?」
たとえば王都とデッドエンド、そして帝国とデッドエンドを結ぶ転移門を作る。
そうすれば、我が領地を経由して、王都と帝国とを行き来できる……。
「いや、待ってベルさん。転移門にはこんな条件がついてるみたいだよ」
※利用者はくぐった転移門を使っての行き来しかできない。
ただし、転移門作成者は例外。
「つまり俺が言った、デッドエンド経由して、好きなところ行き放題ってプランは無理みたいだな」
「いや、だとしても破格だよ。だってベルさんがいなくても、転移が誰でも使えるようになるんだからね」
そういや、転移魔法は古代魔法だって言っていたな。
誰にでも使えない転移が、誰でも使えるようになる。
これは……なるほど確かに凄いことかも知れない。
「す、す、凄すぎますわ! アベル様!」
今までずっと黙っていたワイズマンが、キラキラした目を俺に向けてくる。
「ダンジョンにしか存在しない転移門を、自由に設置できるだなんて! まさしく神の所業ですわ!」
「か、神って……」
マテオがワイズマンのセリフに補足する。
「ダンジョンは神が作ったって説もあるさね」
なるほど、その説が正しいのなら、ダンジョン内部にある転移門も、神が作ったってこと。
ワイズマンのセリフは、大げさでもなんでもないってことか……。
「ベルさん、やっぱあんた凄すぎるよ。転移門があれば、色んなところから、デッドエンドに人が集まるようになる。あの……不便極まるような田舎町が……」
ぽろり……とマテオの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「お、おいどうした……? なんで泣くんだよ……?」
「あ、ごめんね……なんかうれしくって……。ミョーコゥは良い街なのにさ、訪れる人が少なくて、いずれ地図から消えちゃうんじゃないかって思ってたから……」
ミョーコゥ(デッドエンド領)は、奈落の森、櫛形山に挟まれて、人の行き来が困難だからな。
人が来なくなり、やがて、人から忘れ去られる……ってことも、なきにしもあらずだったわけだ。
でも、地方移住スキルを使い、転移門を作成すれば、行き来の不便さは解消される。
もう……誰の記憶からも、あの街が消えることはない。
「…………」
マテオの涙を見ていると、不思議と、俺の心の中にある【思い】が湧き上がってきた。
俺はカノジョの頭を抱き寄せる。
「大丈夫。あの街は、俺が消させないよ」
「……うん。ありがとう、ベルさん……」
とまあ、スキルのすごさが伝わったところで……。
「大魔導士よ」
「へ、陛下……すみません……勝手に盛り上がってしまって……」
「いや、良い。気にするな。ところで……さっそく地方移住スキル、使ってみてはくれぬか」
地方移住スキルの使用には制限がある。
※転移門の作成、維持には膨大な魔力量が必要となる。
しかし……俺には無限に近い魔力があるため、この制限もあってないようなものだ。
転移門なんて簡単に作れる。
……が。
この転移門、悪用される危険性も高い。
この世には王やワイズマンのような善人ばかりじゃないからな。
とはいえ、王から貴族の地位をもらったことで、手に入れたスキルだ。
王命ってこともあるわけだし、転移門は作ろう。
「かしこまりました。ただ……転移門を作る場所は、こちらで指定させていただけないでしょうか」
「無論じゃ。、転移門が悪用される可能性を考えての発言なのだろう? しかしさすが大魔導士。慎重な男よ。感服したわい」
マテオが「普段抜けてるけど、こういうときだけ鋭いよね」とツッコミを入れる。
そのとおりだな……うん……。
ややあって。
俺たちはワイズマンの私室へとやってきた。
なるほど、この部屋なら入ってこれるものは限られてる……が。
「なんでワイズマンの部屋なんだよ? 国王陛下の部屋でも良かったんじゃないか……?」
むしろそっちの方がいいような……。
だってここに転移門作っちゃったら、俺もこれちゃうんだぞ、この部屋に?
「イヤじゃ無いか? おっさんが部屋に入れるなんて……?」
「イヤじゃありません! 他の殿方なら駄目ですが、アベル様は特別♡ むしろ、毎晩のように、来ていただいてもかまわないですわよ……♡」
いやいやいやいや。
かまうだろ。
「うむ、かまわんよ」
「陛下まで!?」
じょ、冗談だよなさすがに……。
「……ナイスですわ、お父様っ!」
「……いずれどの国も大魔導士を獲得しようと躍起になるだろう。その前に既成事実を作っておくのじゃ」
え?
な、なんだって……?
「ごしゅーしょーさま、ベルさん。夜の運動会はほどほどにね」
「んだよそれ……」
マテオが苦笑してる。
ここに転移門作ることに、特に反対はしてないようだ。
「あたいは多くても大歓迎さ♡ ミョーコゥが賑やかになるほうがいい」
「あ、そう……」
まあ、いい。
俺はスキル【地方移住】を発動。
すると右手の指に、淡い光が宿る。
スキルを獲得したとき、使い方は頭の中に、流れ込んできていた。
俺はワイズマンの部屋の壁に、指を立てる。
「アベル様が、壁に円を描いてらっしゃる……? 何をなさってるのですか?」
「転移門を作成してるのさ」
円を描き終える。
そこには、小さな魔法陣が完成していた。
俺は魔法陣に手を置く。
ずずずう……と壁の中に俺の体が吸い込まれていった。
……そして、気づくと見知った、ミョーコゥの街の入口にいた。
「うぉおお!? あ、兄貴!?」
「モンバ……」
ミョーコゥの門番、モンバ・シューエイが、俺を見て驚く。
「びっくりした! 兄貴、転移魔法で帰ってきたんだね?」
「え、いや……」
と、そこへ……。
マテオ、ワイズマン、そして……国王が転移門をくぐってやってきた。
「ほう……ここが英雄の住まう土地か。なんと空気の良い土地よ」
「え……? だれ……このおっさん……あいたっ!」
俺はモンバの頭をはたく。
「すみません、こいつ田舎ものなので!」
モンバも大事な街の一人だ。
不敬罪で引っ捕らえられる、なんてことになってほしくない。
「かまわんよ。しかし……見事だな、大魔導士よ。本当に転移門を作ってしまうとは……」
ちなみに、出発点であるワイズマンの部屋(作成地点)から入ったモノでないと、この転移門は行き来できないらしい。
つまり領民がこの転移門をくぐって、お姫様の部屋に行けないってわけだ。
良かった……。
「ほんとうに、アベル様はすごいですわ
! これでずっと、あなた様のお側にいられます♡」
……こうして俺は、辺境伯となり、ついでに便利な力も手に入れたのだった。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「どんどんチートになってくなアベル!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!