41.辺境伯になったぞ
魔族2体を倒した、その日のうちに、俺は王都にいるワイズマンへと、状況説明を行った。
俺には転移魔法があるので、ぱぱっと王都へ行けるのだ。
マテオとともに王都へ行き、ワイズマンに状況説明してから、数時間後。
俺は、王城の謁見の間にいた。
……魔神を討伐したときにも来たことがあるな、ここ。
謁見の間は、赤絨毯の敷かれた、豪華な部屋だ。
玉座に座るのは、ワイズマンの父にして、この国の国王。
たっぷりの白髭を蓄え、眼鏡をかけた、優しそうな初老の男。
「久しいな、大魔導士よ」
「お久しゅうございます、陛下」
国王は俺を大魔導士って呼んでくれる。
魔神を倒したときも、周りが俺を平民のくせにとか、孤児上がりがとか言う中……。
国王は俺のことを、きちんと褒めてくれた。俺を、個人として扱ってくれた。
だから、俺はこの人のことが嫌いではない。
「すまなかった、大魔導士よ。おぬしの異変に気づいてやれず。本当に、申し訳なかった」
どうやら呪いに掛かっていたことを、知らなかったことを、気に病んでいるみたいだ。
そんなこと、気にしなくて良いのにな。
「温かいお言葉、ありがとうございます。ただ呪いはもう解けましたので、お気になさらず」
「そうか。では、本題に入ろう。ワイズマンより、話は聞かせてもらった」
ワイズマンに報告したのは、魔族が復活したこと、新しい魔王が誕生してること、そして、魔族を2体倒したこと。
以上の三点となる。
「素早い報告、とても感謝する。おぬしのおかげで、我らが魔族に後れを取ることはなくなった」
まあ通常なら馬車で結構かかるものな、ここからミョーコゥまで。
転移の使える俺だからこそ、こんなに素早く報告できたわけだ。
「今後の対応についてはこちらに任せてほしい」
「…………」
意外だ。
俺に、魔王を倒せとか、言ってくるのかとおもった。
「ワイズマンより聞いておる。おぬしは引退した身ゆえ、あまり表の世界に出たくはないとな」
国王の隣に立っている、ワイズマンが、にこりと笑う。
「魔王討伐は国が対処すべき案件じゃ」
……どうやら国王は、俺のことを、大切に扱ってくれているようだ。
嫌がる俺を無理矢理、表に出さないところから……国王の俺への気遣いを感じる。
ただ……。
「ありがとうございます。でも……もし本当に大変な事態になりましたら、いつでもご相談ください」
俺はこの人のことが好きだし、ミョーコゥはこのゲータ・ニィガ王国の街だ。
どちらも、守りたいと思ってる。
「……ありがとう、大魔導士よ。おぬしからの申し出、大変嬉しく思う」
ぺこり、と国王が頭を下げてきた。
周りの連中がざわついている。
まあ、王様が頭を下げるなんて事態、普通あり得ないからな。
……お、俺もどうしていいかわからんから、何もできなかった。
「しかし大魔導士よ、魔神討伐のときよりも、器が一回りも二回りも大きくなったな」
「そう……でしょうか?」
「ああ。腕っ節、そして心の強さ。その二つを兼ね備えたおぬしは、真の英雄にふさわしい」
「……もったいないお言葉です」
俺なんてまだまだだ。
ついこないだまで、ぐちぐちと拗ねていたんだからな。
英雄なんて呼ばれる器じゃない。
「大魔導士よ。ここへおぬしを呼んだのは、おぬしに褒美を授けるためだ」
「褒美……? 俺……あ、いや。私は何かしたでしょうか?」
国王が目を点にする。
そして、カカッと笑う。
「おぬしにとっては、魔族を倒したことは、たいしたことではないと思ってるのだな!」
ああ、そう言えば魔族って強いんだっけか。
二体戦ったが、正直どちらも手応えが全然なかった。
魔神のほうが正直強かった気がする。
が、それを言うのは、なんだかイヤミっぽいか……?
「そのとおりですわ、お父様! 魔神を倒したアベル様にとっては、魔族なんて取るに足らない存在なのです!」
ワイズマンが興奮気味に言う。
おいおい……。まあ事実そう思っていたけど、口にするなよ。なんか嫌なやつみたいに思われちゃうだろ俺が。
「我が国におぬしがいてくれて、本当に幸運だった……っと、報酬の話しであったな。おぬしの魔王復活の報告、そして魔族を退けた功績をたたえ、こちらを授けよう」
国王が命じると、取り巻きの大臣が、こちらへとやってくる。
俺に巻物を手渡してきた。
……ざっと目を通す。
なんだか、難しいことがつらつらと書かれていた。
「マテオ、要約してもらえるか?」
隣で黙っていたマテオが、国王に確認する。
国王がこくんとうなずいてから、マテオが羊皮紙に目を通す。
ギョッ……! とマテオが目を剥いて「は、発言よろしいでしょうか……」と国王に言う。
どうしたんだ?
なんか……凄いびっくりしてるんだが、こいつ。
「よいのじゃ」
「では……国王陛下。ここに書かれていることは、本気ですか?」
「ああ」
「……そうです、か」
なんだ、一体なにが書かれていたんだ……?
「ベルさん、落ち着いて聞いてくれ。彼はね……ちょっと、とんでもないってレベル超えてることだから」
「お、おう……なんだよ」
マテオが何度も深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから、言う。
「ベルさんに、貴族の地位を与えるって、書いてある」
「…………………………は? き、貴族?」
貴族って……あの貴族か?
「ベルさん! もっと驚きなよ!」
「え、ああ……なんか、実感がないっていうか……」
「あのね! ベルさん……この国の歴史上、平民が貴族になったことって、一度もないんだよ!」
「えええ!? そ、そうなのか!?」
知らなかった!
「ベルさんもうっ! 勉強しなよ! 歴史とか!」
「す、すまん……孤児上がりだから……」
しかし……まじか。
平民が、貴族になったことって、この国じゃなかったのか……。
「歴史の浅い帝国とは違って、ここ、ゲータ・ニィガは伝統を重んじる国なのさ。貴族は基本世襲制。新たに貴族が誕生することはあり得ない。まして、平民が貴族になるなんて、前代未聞だよ」
マテオが何度も羊皮紙に目を向けながら言う。
それだけ、信じられないこと……ってことなんだな。
「でも……陛下。本当に、いいんですか? 俺……わ、私に……」
「よい。いつも通りに喋ってくれ」
……いやいやいや。
だからって俺って言うのはちょっと……。
「よいのだ。おぬしは特別じゃ」
「は、はあ……じゃあ。陛下。本当に俺なんかを、貴族にしていいんですか? 戦うことしかできないですけど」
にこっ、と国王が笑う。
「ああ。今の、ありのままのおぬしが欲しいのだ。大魔導士よ。おぬしは多大なる功績を残してきた。おぬしはここ、ゲータ・ニィガの宝。国にとって重要な存在。ゆえに、それにふさわしい地位を与えるべきだと思うのじゃ」
でもなぁ……。
「文句がでるんじゃないですか?」
「大丈夫じゃ。誰も反対しないじゃろうて」
ワイズマンもうんうん、とうなずいてる。
「魔神を倒し、魔族をも打ち倒した英雄ですから」
「………………」
正直、貴族って地位は、領主以上に荷が重い……。
やっていける自信はない。
俺が返上しようとすると、マテオがガッ……! と肩をつかむ。
「……ベルさん。国王からの申し出は……断っちゃだめだ。礼儀に反する」
「……マナー的な?」
「……そう。断ったってなれば、国の威信にかかわる」
そりゃそうか。
周りの反対を押し切って、例外を作ったのだろう。
それを相手から拒まれた、なんて周りが知ったら、国王の評判を落とすことになる……か。
……俺は国王のことが、嫌いではない。
せっかくもらえるっていうなら、もらっておくべきだろう。
「謹んで、お受けいたします」
「うむ。おぬしにはヴォツラーク領の残りの土地全部を与える。そして、【伯爵】の地位を与える。今日よりおぬしは、アベル・D・キャスター【辺境伯】を名乗るといい」
辺境伯……か。
まあ、辺境の土地にすんでいるんだからな。こういう呼び方になるか。
「な!? は、伯爵!? いきなりですか!?」
マテオがまた驚いていた。
え、なに?
「何に驚いてるんだ?」
「ベルさんってばもぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
マテオが顔を真っ赤にして叫ぶ。
え、な、なんだよ……。
「まあ気にするな。辺境伯よ。ミョーコゥだけでなく、奈落の森に面した、他の町や村の統治も、今日よりおぬしに任せる。頼むぞ」
「え、あ、はい。わかりました」
ということで、俺は辺境伯になったのだった。
『条件を達成しました』
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