04.勇者Side
《ジャークSide》
アベルが神聖輝光竜の呪いを解いた、一方そのころ。
ジャークは宿屋で一人ほくそえんでいた。
「くくく、うまくいったぜえ! ぎゃはははは!」
ジャークが高笑いする。
計画がうまく行ったからだ。
「アベルに呪いをかけ、力をすべて吸い取ったうえ、邪魔者を追い出してやったぜえ!」
そう、なんとアベルの体調不良は、ジャークがかけた呪いが原因だったのだ。
ジャークは絶大なる力を持つアベルに嫉妬していた。
さらに、自分の好きな女……ティアが、アベルのことを好いてることが、気に入らなかった。
だから、ジャークはアベルからすべてを奪い取ることにしたのだ。
「あのおっさん馬鹿だからよぉ、出ていく最後まで、おれのやった呪いの指輪を後生大事につけていたぜぇ」
ティアと一緒に買ったプレゼントの指輪。
それをアベルに渡す前に、呪術師に頼んで、【弱体化】の呪いを指輪に付与してもらったのである。
呪いをかけられたアベルは弱体化し、その力を吸収して、ジャークはどんどんと強くなっていった。
……アベルも、そして聖女ティアも、まさか家族同然にかわいがっている(もらっている)相手から、呪いを受けているなんてつゆほどにも思っていなかった。
だからティアはアベルに対して解呪を使わなかった。
アベルは、プレゼントがまさか呪いのアイテムだと知らず、肌身離さずつけていた(アベルを見た呪術師はジャークとぐるだった)。
それゆえ、アベルが呪われてる事実について、アベルもティアも気づかなかったのである。
「アベルぅ……あんたが悪いんだぜ。あんたが凄すぎるせいで、勇者が陰に隠れちまう。英雄は一人だけで十分なんだよぉ」
……ジャークの犯行動機は稚拙極まるものだった。
他者からすごいと思われたい、という承認欲求。
しかし大魔導士がいては、勇者が目立たない。だから、邪魔者であるアベルを排除するべく、計画をたて、そして実行したのだ。
「アベルは消えた! おれは大魔導士と勇者の力を手に入れた! ティアの心も、いずれはおれのものにしてやる!」
そう、ジャークはティアに懸想していたのだ。
だが、ティアはアベルのことが好きだった。
愛する女を手に入れたい。そのことも、犯行に及んだ動機のひとつである。
「ぎゃはは! これからはおれの時代……新時代の幕開けだぁ!」
……だが、ジャークは知らない。
彼がかけた呪いが、アベルの魔法によって解呪されたことを。
神聖輝光竜のうろこには、魔法を反射するという、特別な能力があった。
竜にかけた解呪の魔法は、反射し、アベルに掛ったのである(解呪後のアベルの魔力を吸った竜が、自力で呪いを解いたのだ)。
アベルは自分のかけた解呪のおかげで、ジャークの呪いを解いた。
その結果、呪いがジャークに跳ね返った。
呪詛返しと呼ばれる、呪いをかけた術者に、呪いが跳ね返ってくるという現象だ。
その結果ジャークは、自分が得ていたアベルの力のすべてを失う。
それどころか、自分が持っていた勇者の力さえも、アベルに流れてしまった。
結果、ジャークは二つの力を同時に失い、さらにアベルがそうだったように、体力・魔力が徐々に落ちていくことになる。
……人を呪わば穴二つ。
ジャークはこの先、とんでもない不幸の連続に見舞われることになるのだが、それは少し先の物語である。




