39.魔族をワンパン
俺ことアベル・キャスターはデッドエンド領の領主となった。
それからしばらく経ったある日のこと。
俺はマテオの店にいた。
彼女の家は増築、改造され、現在別の顔を持っている。
【ケミスト茶屋】
「いつの間にか茶屋になってやがる……」
店にはテーブルが数個置いてあり、ここでお茶を飲んでいくことができるのだ。
店の外にもテーブル席が用意されている。
俺は外で茶をすすってる。
「ベルさんとティアがいるからね。怪我人病人が減ったから、薬の需要が減ったんだよ」
俺の正面の席に座るのは、マテオ・ケミスト。
この店のオーナーであり、最近は俺の片腕的なポジションに収まりつつある(最初からのような気もするが)
マテオが急須に入っているお茶を、俺の湯飲みに注ぐ。
彼女の淹れた茶は、めちゃくちゃ美味い。
上品な香り、そして甘さが口の中に広がる。
「薬よりも今はこっちの方が儲かるからね」
「そりゃそうだ。こんだけ美味いしな」
「ふふ、ありがとう♡ でも……ベルさんのおかげでもあるんだよ?」
「俺の?」
道行くばーさんが俺を見て手を振り、そしてこちらにやってくる。
「マテオちゃん、大魔導士さまの飲んでいるお茶ちょうだい」
「あいよー」
といってマテオが店の中に引っ込んでいく。
そして、ばーさんにお茶の入った袋を渡す。
「こんな感じでさ、大魔導士のお墨付きって感じで爆売れしてるんだよ」
「さいですか……」
商魂のたくましい女だ。
薬が売れなくなると見込み、茶屋に転向するんだからな。
「ところでマテオちゃん。ティアちゃんたちが森へ行って帰ってこないんだけど、こっちに顔出してるかい?」
……そう言えば、弟子達は森へ修行に行って、帰ってきてないな。
「ベルさん、彼女らどこにいる?」
俺は魔力感知を使う。
奈落の森に、ティア、ヒトミ、ゼーレンの魔力……。
「ん?」
「どうしたんだい?」
「いや……なんか、変だ。魔力があるのに、ない」
「? 何言ってるんだい?」
俺も簡単に言葉にできないが……。
「なんか、一部分だけ、不自然に魔力がないとこがあるんだよ」
生物、植物限らず、生きとし生けるもの全てに、魔力が内包されている。
草木、虫などにもだ。
だが、ティア達の前には、魔力が全くないスポットがあるのだ。
「ちょっと嫌な予感がする。様子をみにいってくる」
『ぴゅい! ぴゅあもいくー!』
テーブルの上でひなたぼっこしていた、神聖輝光竜の子、ピュアが目を覚ます。
ぐぉお! と体がデカくなる。
俺と契約してるから、体のサイズを自在に変えられるそうだ。
ピュアの背に俺……とマテオが乗っかる。
「おい危ないから待ってろ……」
「弟子トリオがケガしてたら、回復は必要だろ?」
「……出来る女だよ、おまえは」
ピュアが俺たちを乗せて飛び上がり、現場へと急行する。
外壁を出て、奈落の森へと向かう。
俺が作った畑の近くに、ティア達弟子トリオ。
そして……。
「なんだ、あいつ……?」
妙なやつが立っていた。
人間……? いや、亜人か?
人っぽい見た目なのだが、頭に角が生えている。
鬼族という亜人種がいるが、それとはちょっと違う気がする。
鬼の場合は額からツノが生えている。
が、眼下にいるそいつは、側頭部から2本のツノが生えている。
そして、顔に【線】のような痣が走っていた。
「! べ、ベルさん! 逃げろ! あいつは……」
誰だか知らないが……
ティア達がケガして動けないでいるのをみた。
俺は、すぐさまピュアから飛び降りて、彼女らの前に立つ。
「あ……べる……さん……」
「ティア……」
三人ともボロボロだった。
「マテオ! 薬!」
頭上のマテオがうなずくと、ぽいっと3本の瓶を放り投げてくる。
それを重力魔法でキャッチし、ティアに飲ませる。
ティアのケガがなおる。
「二人の治療に専念しろ。あとは俺に任せろ」
「あ、アベルさん! 気をつけて……! あいつ……強いです!」
角人間の前へと向かう。
……やっぱり妙だ。
目の前にいるこいつからは、魔力をまるで感じられない。
「さっきの重力魔法でしょ?」
「だからなんだ?」
「君でしょ。大魔導士とかいう、人間は」
ツノ人間は俺を見てサルとかいいやがる。
まあ、侮辱されて別に怒りはしない……が。
「よくも俺の弟子を傷つけたな」
「弟子……ふーん。そこの雌ザル3匹が君の弟子なんだ。じゃあ師匠である君の力は、たかが知れてるね。あーあ、がっかり」
……さっきからウザいなこいつ……。
「なんだおまえ?」
「これは失礼。サルくん……ボクは【音速のソニック】。男爵級の魔族さ」
……魔族?
なんだそりゃ。聞いたことないな……魔神なら聞いたことあるが。
「魔族を知らない? とんだ無教養なサルだね君」
「あいにく学校には通ってないもんでな。それで……音速のソニックとやら、何をしに来た?」
「この土地にいる、魔族の脅威になりえるとかいうサルの偵察に……来たんだけど、なんだかがっかり」
ふぅ……とソニックがバカにしたようにため息をつく。
「君程度の魔力量で、魔族の脅威とか呼ばれてるなんてね」
「おまえもそんなに魔力ねえだろ。というか、魔力をまるで感じさせてないが」
ソニックが少しだけ目を見開いて、にやりと笑う。
「魔力を感じる技術はあるみたいだね。そこのサル三匹とちがって」
そうか、魔力感知は凄い技術なんだっけか。
「冥土の土産におしえてあげるよ! これをみな!」
ソニックとやらは、右手を前に突き出す。
「これは隠蔽の魔道具! この指輪を着けていると、体の周りに特別なフィールドが形成され、魔力がゼロになっているようになるのさ!」
……ええと。
だから、なんだ?
「ボクら魔族はいにしえの大賢者によって壊滅寸前まで追い込まれた。それからずっと、魔族達は息を潜めて生きてきた」
なんか自分語りし出したぞこいつ。
「人間に見付からぬよう、こんな指輪を着けて、隠れて生きてきたのももうおしまいだ! これから我ら魔族は表ぶぅううううううううううううううううううううううううううううううう!」
加速のソニックがぶっ飛んでいく。
「あ、アベルさん……今何を……?」
「俺が魔力撃を放った」
「魔力撃……たしか、魔力をただ体の外に放出するワザでしたね」
魔力撃は単なる技術だ。魔法ですらない。
「あ、ああ……ありえない……な。なんだ……この力……?」
加速のソニックとやらが呆然としている。
「よくわからんがおまえが魔族ってやつで、俺たちの敵なのはわかった……。早々に駆除させてもらう」
「う、ぐ、くそ!【加速】!」
瞬間、ソニックが消える。
「アベルさん! 気をつけてください! そいつは姿を消す不思議な術を使ってきます!」
「いや、違うだろ。速度を上げる魔法だな」
ぶんっ!
ぱしっ!
「なにぃいいい!?」
ソニックの足蹴りを、俺が手でつかんで止める。
「ば、馬鹿な!? 【加速】で加速したこのボクのスピードを、目で捕らえることができるなんて不可能だ!」
「目では捕らえてないよ。魔力感知を使ったんだ」
「ふざけるな! 魔力は隠蔽の魔道具で隠していたはずだぞ!?」
「だから、魔力が無いところだけを見れば、おまえがどこを動いてるのかわかるだろ?」
確かにこいつの魔力は感知できない。
が、感知できないエリアにこいつがいるなら、見えてるのと同義だ。
ないところを辿っていった先に、こいつがいるんだからな。
「ど、どうなってる!? その程度の魔力量しかないやつに、このボクの【加速】が見破られるわけがないのに!?」
やたらと魔力量にこだわってくるなこいつ。
ソニックが指輪を外す。
ずんっ……とこいつの体から発する魔力量が、増えた。
が、それだけだ。
「これにビビらないだと?! どうなってるのだ!?」
「? その程度でビビるわけないだろ」
俺は魔力を右手に集中させる。
ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!
「なにぃい!? な、なんだその魔力量はぁ!? 一体どこにそんなたくさんあったんだ!?」
「いや普通に魔力を制限してただけだが」
前にマテオに言われたのだ。
俺の魔力量が多すぎると。
そのせいで周りがビビってしまうっていうから、制限をしていただけだ。
「くそ! 魔力を制限し、強さを偽ってやがったな!?」
「イヤ別に偽るとかそういうのじゃないが……」
魔力を右手に凝縮させる。
そして、至近距離から魔力撃を放つ。
パンチの威力に魔力撃の威力がノリ……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「ば、かな……おまえ……魔族を……一撃で……ばけもの……か」
魔神相手によく使っていた攻撃だ。
こいつがまあ、そこそこやるやつなのは、【加速】の魔法を見ればわかった。
だが……やり過ぎたかな。
俺の【手加減】して放った魔力撃で、粉々になっちまった。
「情報を聞き出そうとして手を抜いたんだが……大勇者になって出力が上がっていたんだっけか」
制御は難しいな。
「さ、さすがだよベルさん! 魔族を一撃で倒しちまうなんて!」
マテオがピュアと一緒に下りてくる。
しかし……うーん。
「魔族ってなんだよ?」
マテオが目を剥いて、そして、はぁ……と大きくため息をつく。
「ベルさんは強いけど、ほんと、教養ないよね」
「す、すまん……」
なにせ孤児上がりなもんでな。
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