35.領主へ就任しセカンド職業ゲット
ミョーコゥに姫騎士ワイズマンが尋ねてきた。
場所は変わって、マテオの新店舗にて。
キムズカジーの手によって、新しくなったマテオの店のついては、今度語ることにする。
それより今は、もっと重要な問題があるのだ。
店の中にはイスとテーブルがあり、俺、ワイズマン、マテオ、そして弟子の娘たちが揃っている。
ミョーコゥの連中(※モンバ含む)は、店の窓から、中の様子をうかがっていた。
「それで、ワイズマン。さっきの話なんだが、俺が領主に任命されたのって、本当なのか?」
姫騎士ワイズマンは、父である国王から、勅命書を持ってきたと言っていた。
彼女はうなずくと、部下に持たせていた羊皮紙を、俺に渡してくる。
中をざっと確認したところ、確かに、『アベル・キャスターにヴォツラーク領の一部を治める権利を与える』と書いてあった。
マテオが俺の手元を覗き込み、目をむいていう。
「ヴォツラークの一部を新しい領地として、そこの領主に、ベルさんがなるってことかい?」
おおお! と窓の外にいた街の連中が、歓声を上げる。
「大魔導士様が新しい領主に!」「やったぁ!」「前の領主は何もしてくれなかったもんな」「大魔導士様ならきっと街をもっとよくしてくれるだろう!」
街の連中が嬉しそうにしてるところ申し訳ないが……。
俺は、まだ事態を飲み込めていなかった。
いきなりすぎる。
「姫騎士さんよ、どうして急にベルさんに、領主なんて話が来たんだい?」
マテオが俺の考えていることをくみ取って、質問してくれる。
「単純明快です。彼が王国の危機を救った英雄だからですわ」
王国の危機……?
「魔神討伐のことかい?」
「それはもちろん。その他にも、ヒドラ等、ミョーコゥ近辺の強力な魔物を倒し、魔物が王都など人の多い地域へ流れるのを、未然に防いでくださりました。それも無償で」
その功績をたたえて、俺を領主にする……か。
元孤児が領主になるなんて、大出世じゃないか。
「魔神を倒して世界を救った報酬が領主って、ちょっと割に合わないんじゃないかい?」
マテオがもっともなことを言う。
「いや、それはしょうがないんだ。俺、一度報酬の話があったとき、自分から蹴ったんだ」
報酬として貴族にするって話もあった。
王女の婿にする、という話も。でもそれら全部断ったのだ。
「え!? もったいない……どうしてそんなことしたのさ、ベルさん」
「俺にそんな大役は務まらないって思ったんだ」
それに魔神討伐後、俺は地位や名誉よりも、おのれのうちに湧き出るむなしさ、寂しさを満たすことしか考えてなかった。
だから、貴族にする、王族に迎え入れるという申し出を断ったのである。
「今回の話も、悪いけど……」
領主なんて務まる器じゃない、と断ろうとした。
だが、ふと。
俺はマテオの顔を見て、モンバの言葉を思い出していた。
『姐さんたちケミスト一族秘伝の、魔物除けのお香のおかげで、魔物がこの街に近づかないんだ』
……マテオはこの街の人たちを陰ながら支えてる。
奈落の森、櫛形山、どちらにも強力な魔物がいるなかで、ひとりきりで、魔物から人々を守っている。
ヴォツラークの領主はそんな彼女に、街の守りを丸投げしているという。
……マテオにだって、自分の生活があるのに、だ。
マテオの善意に甘えて、何もしようとしないヴォツラーク領主に、だんだんと腹が立っていた。
「ベルさん?」
「……俺、やるよ。領主」
「!? ほ、ほんとかいっ」
マテオが声を弾ませるも、しかしすぐに首を横にふるった。
「だめだよベルさん。よそ者のあんたが、そんな重荷を背負う義理はないよ」
マテオは俺に余計な負担をかけまいと、気を使ってくれている。
本当に、いい女だと思う。
マテオは、俺の恩人だ。
俺が変わるきっかけを作ってくれた。
彼女が俺に、姪の捜索を頼まなかったら、今頃俺はトラウマを引きずったまま、死んでるように生きてくだけの人生を歩んでいただろう。
ここにきて、彼女と出会って、俺は変わった。救ってもらった。
その恩を、俺は少しでも返したい。
カノジョが愛し、俺を受け入れてくれた、この街を……守ってやりたいのだ。
「領主、やるよ。街のみんなのために」
そのときだった。
『条件を達成しました』
『第二職業【辺境領主】を獲得しました』
またあの謎の声が聞こえてきた。
「第二職業……?」
「どうしたんだいベルさん?」
マテオが俺の顔を覗き込んでくる。
「また、英雄譚が発動したみたいだ」
「! それって、英雄的な行動をしたときに、新しい力が目覚めるっていう、エクストラスキルだろう?」
そのスキルのおかげで、俺は聖なる白炎という、あらゆる呪いを解くすごい解呪スキルをゲットした。
そして、今回もまた、新しい力が覚醒したようである。
「辺境領主って職業を新たに獲得したようだ」
「「な、なんだってえ!?」」
ワイズマン、そしてマテオが驚愕の表情を浮かべる。
どうしたんだろうか、二人とも……?
「あ、ありえないですわ……」
「前代未聞さね……」
話についていけないんだが……。
「ベルさん、職業ってそもそもなんだい?」
「天から授かる恩恵だろ?」
「そのとおり。通常職業は、一人につき一つなのさ」
「それくらいはまあ、俺でも知ってる。でも世界は広いんだから、二つ目の職業を持ってるやつもいるんだろ?」
しかし、彼女らはフルフルと首を横に振る。
「アベル様。天上の神々がこの世界を作ってから今まで、第二の職業を持って生まれたのは、たった一人しかいないのですわ」
ほら、いるじゃないか……て、たった一人!?
「しかもその人は、前世に賢者、前々世に剣聖、と転生を繰り返したから二つの職業をもっていたんだよ。ベルさんは転生したことないだろ?」
「も、もちろん……」
つ、つまりなんだ?
第二職業を持っている奴は、歴史上で、俺を含めて二人しかいない。
でももう一人は、転生者だった。
「一人につき職業は一つ。伝説の第二職業持ち、英雄ノア・カーターでさえも、二つ前世を持つがゆえに二つ職業があっただけ」
その英雄とやらは、二度の人生を繰り返したから、二つ職業を持つことができただけ。
原則からは外れてないのだ。
「純粋に一度の人生で、二つの職業をもって生まれたのは、ベルさん、あんただけってことなんだよ」
「すごすぎますわ! 空前絶後の偉業ですわ!」
いや、偉業って……。
ただ二つ目の職業を得ただけなんだが……。って、それがありえないことなのか。
「ベルさん……やっぱあんた本当にすげえやつなんだね。歴史に名前が残るよあんたのことは」
しかしとんでもないことになってしまった。
ただ、領主になる覚悟を決めただけで、歴史に名前を刻んでしまった。
「やはりアベル様は、この世界を導く偉大なる御方……♡ 素敵……♡」
はぁ~……とワイズマンが深く息をつく。
いや世界を導くって……そんなたいそうなこと、俺にはできんのだが。
まあでも、この街と領地くらいは、守ろうと思う。その決意は変わらない。
「ベルさん、領地の名前どうするんだい?」
「全く決めてなかったな……」
さて、どうするか……。
ミョーコゥは街の名前だしな。
ううん……。
ここへ流れてくるやつらは、俺と同様、訳ありで来る奴が多いという。
何かに失敗したり、何かから逃げて、ここへとたどり着く。
けれど、そんな俺たちをのことを、この土地の人たちは迎え入れてくれる。
そう、ここは、そんな俺たちにとっての、最後の砦。最後に行きつく場所。
だから……。
「【デッドエンド】……とかどうだろう」
「デッドエンド領……か。うん、いいんじゃあないかい? なあ、みんな!」
マテオが窓の外にいるミョーコゥの連中に言う。
「いいと思う!」「デッドエンド領! 素敵な名前!」「ヴォツラークなんてだっせえ名前なんかより百万倍良いと思うぜ!」
ということで、俺はデッドエンド領の領主『アベル・D・キャスター』となったのだった。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「辺境領主の力気になる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!